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キミが見た星ノ空。僕が見た羅針盤  作者: 候岐禎簾
第四章 冬のイルミネーション
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第31話 まるで何かを掴むように

 放課後、僕は段取りよく教科書類をカバンに詰め込んだあと天体観測研究部の部室へと向かった。正直、あまり活動らしいことは特にしてはないのだが、その場にいるだけで楽しいような、そんな場所である。あの部屋は僕達三人の心のよりどころといっていいのかもしれない。


 ギィィィ――。ギギギッッ……。

 閉まりの悪いドアをゴトゴトと開ける。部室内にはいつもの二人がいた。


「あら、こんにちは」

 彩葉さんは相変わらずの冷たい口調で僕にそう言う。最初の頃はこの人はいつも機嫌が悪いのかなと思っていたが、実は違うということを僕は既に知っている。


「部長、お疲れさまです。今日の活動はどうしますか?」


「べつに私は疲れてはないけど。まぁ、その事はいいわ。奈都也君は天体望遠鏡を拭いたら?」


「わかりました。ところで二人は何をしてるんですか?」

 見たところ彩葉さんと橘さんはテーブルにノートや筆記用具を並べて僕との会話はそこそこにしてあれこれと話をしている。


「橘さんの勉強を教えてるのよ。英語が苦手っていうから。幸運にも私の得意科目が英語なのよね」

 シャーペンを慣れた手つきでクルクル回しながら彼女はそう言った。


「そ、そうですか。じゃあ僕は天体望遠鏡を拭いてます」


「よろしくお願いね。私は橘さんの勉強を教えてるから」

 彩葉さんはニコリと微笑みながら僕に対してそう言った。


 ***


 黒く光輝く天体望遠鏡を手際よく拭いていく。最初は顧問の先生に言われるがままやっていたのだが、今ではもう慣れたものである。ほんのすこし離れたところでは相変わらず彩葉さんと橘さんはノートに何かを書き込んでいた。

 これが僕の最近の日常。ありふれた平和な日々ではあるが、僕はこの一瞬一瞬を心から大切にしていきたかった。


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