番外編 繋がる冬の糸~橘さん編~
奈都也君を元気付けた後、私は彼の元をそっと去った。夏宮先輩と奈都也君が良い感じの仲だというのは薄々感じてはいたけどまさか私が二人の仲を取り持つとは……。今思っても驚きだ。
「はぁ――。羨ましい限り……。かな」
二人のこれからを心から応援しているのだがやっぱりと言うべきか。時々寂しくもなる。もしかしたらクリスマスイブが近いからなのかもしれない。今年もきっと一人ぼっちなのだろう。そう思うとちょっぴり悲しい気持ちになった。
***
イルミネーションで輝く緒海商店街を抜けて駅前のロータリーへと向かう。この辺りはラーメン屋やドーナッツ店、そしてハンバーガーショップといった小売店が集中しており、たくさんの人で賑わっている。かくいう私もドーナッツを買いに来た一人である。
「まだドーナッツ残ってるかな……」
腕時計とにらめっこをしやがら私はそう一言呟いたまさにその時だった。
目の前の歩道をどこかで見覚えのある人物がこちらに向かって歩いてくる。あれはたしか――。
「海原君――?」
そうだ、奈都也君といつも一緒にいる海原君だ。一応、同級生ではあるがクラスが違うということもあり直接話す機会がこれまでほとんどなかった。
普段なら駅前で見かけても特に何も感じないのだが、なぜか今日はいつも以上に意識してしまう。
「あっ!?」
彼は私の顔を見るなり少し驚くような素振りを見せながら一言そう言った。
「もしかして橘さんだよね……。ほら、夏立と同じ部活に所属している――?」
「えぇ、そうだけど――」
まさか彼の方も私のことを知っていただなんて。その点は少々驚きだ。それにしても何の用なのだろう。
「いや、それがさ夏立が電話に出ないんだよね。さっきまで一緒にいたんだけどね。何か知らないかな?」
「あぁ、それはね……」
奈都也君は今ごろ夏宮先輩と大切なひとときを過ごしてる頃だろう。おそらく電話に出ないのはそのためだろう。
「今、奈都也君は夏宮先輩と大切な時間を過ごしてるから電話には出ないよ。マナーモードにでもしてるんじゃないかな」
私は肝心な部分を曖昧にしながら彼にそう言った。
「そっか……。なら橘さん今時間ある!?」
「えっ――。私!?」
「うん、いやねこれから海鮮料理のお店に行くんだけどそこって二人で来店するとホタテ貝が無料なんだよね。一緒にどうかな?」
「ホタテ貝が無料……?」
いや、それどういうお誘いどういうサービスよと思いながらも内心とても嬉しく感じる。最近、廊下ですれ違う時とかにも何だか彼のことを意識してしまっていたし。
「良い……。けど?」
「よしじゃあ決定。行こう行こう。あともし良かったら連絡先も――」
「えぇ、そうね……」
もしかしたら今年のクリスマスイブは一人ぼっちじゃないのかもしれない。そんなことを然り気無く感じたある冬の一日だった。




