第2話 届くようで届かない
放課後の帰り道、僕は夕立に遭遇した。本当に急な雨だった。さっきまであんなに晴れていたのに。こんな日ほどリュックサックに入れていた折り畳み傘に感謝する日はない。僕は無造作にしまいこんでいた傘を広げた。
校門を出て十分ほど立つと雨の勢いも弱まり小雨へと変化した。早く家へ帰ろうという気持ちも薄らぎ僕は足を止めた。水溜まり周辺にはたくさんの桜の葉っぱが落ちている。上を見上げるとそこには完全に散ってしまった桜の木があった。
「――。もう五月なんだよなぁ」
こんなことを思ってしまうには理由がある。まだどの部活に所属するか決めてないのだ。先日、体育館で行われた部活紹介はとても賑やかで楽しそうだった。でも、とくに目標もなくダラダラと過ごしてきた僕にとってその光景は羨ましくもありなんだか遠い世界のようにも感じた。
大通りを抜け東緒海公園を横目に見ながら通りすぎ、住宅地に入る。この先に僕の家がある。自分の家を一言で例えると『二階建ての古民家』といったところか。そういえばこの前、父さんが「うちの家は築五十年」って言ってたっけ。そんなことを考えながら自宅の玄関を開けようとした時だった。
――ポストに何かが入ってる?
定形外の茶封筒が郵便ポストからはみ出している。この状況はあまり郵便自体がこないうちの家にとっては珍しいことともいえる。不意に気になった僕はその茶封筒を手に取ってみた。
「夏立心一朗様――か」
宛名は父の名前である。封筒自体は何か重いものが入っているわけではなく意外と軽い。いったい誰からだろうと思い裏返してみるとそこには「治田巳和子」と書かれていた。
「父さんが帰ってきたら渡そう」
僕は手に持った封筒を玄関横の棚に置いた。
***
「奈都也――。帰ってるのか?」
そんな声で僕は目が覚めた。どうやらテレビを見ながら寝てしまってたらしい。時計を見ると今の時刻は午後九時十分。外は真っ暗だ。
「母さん今日遅くなるって。弁当買ってきたぞ」
そうぶっきらぼうに言った父さんは何かと一杯入っているコンビニ袋を台所の机の上に置いた。
「そういえば父さん郵便きてたよ。定形外の茶封筒」
「あぁ、知ってる。これだろ」
そう言いながら父さんは手に持った封筒をゆらゆらと振った。
「治田巳和子って誰?」
僕は思いきって気になってたことを聞いてみた。
「昔、お世話になった女性だよ。父さん大学で民俗学を研究してるだろ。その縁だよ」
「あぁ、そう」
「弁当温めるぞ」
「わかった。今から行く」
眠たい目を擦りながら僕は立ち上がった。