第26話 繋がる心の準備
橘さんに肩を押され意を決した僕は彩葉さんの家に向けて歩き出した。不安がないと言えば嘘になる。ここ最近、まったく会話をしてないせいかまるで初恋の人と会うような、そんなドキドキ感が胸に湧いてくる。
橘さんが言うには彩葉さんの家は商店街の入口から見えるらしいが……。
「ここ、これが夏宮先輩の家!」
橘さんがそう言いながら指を指す。その先には立派な駅前マンションがドーンと建っていた。
「えっ……。ここ!?」
「そう、このマンションの最上階の……。まぁ、とりあえずファイト!」
「いや、ちちょっと待ってよ。ここオートロックだよね。そう簡単には入れないんじゃないのかな?」
「マンション内に入る必要はないよ。夏宮先輩もうすぐ塾から帰ってくる頃だから。私、先輩と同じ塾に行ってるからそこら辺は詳しいの。きっと部長は今日模試講習のはずだから……」
そう言いながら橘さんは腕時計を見ながら何かを計算している。彼女の表情から察するにもうすぐ彩葉さんが帰ってくる時間帯なのだろう。
「うん、もうすぐ帰ってくるよ。だから駐輪場で待ってるといいよ。じゃあ私帰るからね。ケーキ渡しなよ!」
「えっ……。橘さんちょっと待って――」
途端に彼女を呼び止めようとしたのだが、橘さんは逃げるように帰っていった。
***
冬を目前に控えた風はとても冷たく感じる。まだ五時過ぎだというのに辺りは薄暗くなってきている。橘さんの言う通りならもうすぐ彩葉さんはここに帰ってくる。その時、ちゃんと僕は仲直りすることができるだろうか……?
「いや……。大丈夫。変にカッコつけたりせずに素の自分を出そう――。よし!」
自分の頬を叩き気合いを入れた僕はキリッと前を見た。
そんな僕の目の前に彩葉さんの姿がまだ遠目からではあるが映った。




