第20話 キャンプ場の夜空
楽しい時間ほどすぐ終わるような気がする。管理人のおじいさんが招待してくれた夕食会も終わり、僕達三人はテントへと戻った。もちろん僕は一人用のテント。彩葉さんと橘さんは二人用のテントを使ってる。そして三十分後、キャンプ場の横に広がる草原で天体観測を行うことにした。天候は気持ちの良い夜空が広がり絶好の天体観測日和である。
僕達は少し思い思いの時間を過ごした後、申し合わせた通りに草原へと向かった。
***
「橘さんまずはここのネジをしめて。そして、そのあとは三脚を固定して――」
彩葉さんが的確に指示を飛ばす。さすが部長、とても手際が良い。
「やっぱり新しい望遠鏡は良いわね。留め具類も錆びてないし。それじゃあ次に角度と望遠レンズを合わせましょうか」
それから約七分後、天体観測が行う準備が出来た。
「今日はとても星が綺麗。いろんな星が空に輝いてるわ。ほら、あの右下に見えるのが天秤座。そして、右下の方にあるのが蛇座よ」
彩葉さんが的確に僕達に星の名前などを教えてくれる。
「ちなみに天秤座は黄道十二星座の一つなの。ギリシャ神話では天秤は正義を意味しているのよ」
「彩葉さん。こ、黄道十二星座ってなんですか?」
「手っ取り早く言うと星の世界の選抜メンバーよ。有名どころの星々が集まって黄道十二星座を形成しているの」
「へぇ……。そうなんですか。暗闇に浮かび上がる星というのはじっくり見れば見るほど魅力的ですね」
「あっ――。私、この星座観たことあります!」
途中から黙っていた橘さんがここで初めて大きな声を出した。
「私、お姉ちゃんとこの星座一緒に観たことがあります!」
「お姉ちゃんって今、イタリアで勉強中の?」
「はい。私が小さい頃、よく星を観てました。なんだかとっても懐かしいです」
そういうなり橘さんはどこか寂しげな表情になった。ある出来事をきっかけにして思い出は甦る。そのきっかけがたまたま橘さんの場合は『星』だったのだろう。
「それじゃあ彩葉さん、あの南に輝いている星はなんですか?」
「うん、あれはね、黄道十二星座の――」
僕の星に関する質問に彼女はユーモアを交えつつも真摯な態度で答えてくれる。そんな彩葉さんに僕は大きな好意を寄せた。
「奈都也君、来年の夏もこうしてまたみんなで一緒にいれたらいいわね」
「そうですね。またここに来ましょうね」
毎日夜空に星は輝いている。雲に隠れてしまった日も雨の日も。でも、いやだからこそ僕は今日と言う日を忘れたくはない。




