第16話 夕御飯は――。
楽しい時間というのはあっという間だ。夏の夜はもっと遅い時間帯から始まると思ったのに。気がつけば周囲は暗くなり夜の帳が辺りを支配し始めた。
「ところで奈都也君……。夕御飯どうするの?」
彩葉さんが疑念のこもった瞳を俺に向けてくる。
「夕御飯はカレーライスを作るんですよね。たしか食材は彩葉さん担当じゃ……」
「私は天体望遠鏡担当よ。橘さんは?」
「わ、わたしはお菓子をたくさん持ってきました!」
「……。えっ!?」
しまった。そう言えば夕御飯の打ち合わせはたぶん五分くらいしかしていない。そこまで深く考えてはなかった。人任せにしてしまっていた。
「奈都也君は何か食材を持ってきてないのかしら。大きいリュックを背負ってきてるならきっと食材とお米よね?」
「僕は――。福神漬けを……」
「はぁ!?」
彩葉さんの表情がどんどん曇っていく。こ、これはヤバい。緊急事態だ。夕御飯がない――。
***
「……。どうしたものかしら、食材担当の副部長さん。お菓子と福神漬けでできる料理って何かあるの?」
「そ、それは――」
ダメだ。何も言い返せない。記憶をたどるとどうやら僕が食材担当のようだ。だからこそ僕がこの窮地を打破しなければならない。
「管理人のおじさんに助けを求めてみます?」
「誰があの小屋まで行くの?」
「僕です」
「正解」
「行ってきます」
彩葉さんに促されながら、僕はまた管理人さんがいる小屋に向かった。
***
――ガチャ……。
古ぼけたドアノブを回して中へと入る。
「すいません――。こんばんは――!」
声を張り上げても誰からも返事はない。あのおじいさんはどこに行ったのだろうか。
「ん……」
机の上に一枚のメモ書き置かれている。そこには『今、小高い丘の上にある廃墟に行ってるのでここにはいません』と書いてある。
「えっ――。この暗い夜に!?」
弥惣吉次郎さんは怖くないのだろうか。でも何しに行ってるのだ……。
「気になる。気になる。行ってはならんと話してたから余計に……。でも、二人を長い時間待たせるわけにもいかないし――」
小高い丘の上にある廃墟までここから歩いて約十分ほどくらいだろう。
僕は懐中時計を再び握り締めると廃墟目指して再び歩きだした。