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キミが見た星ノ空。僕が見た羅針盤  作者: 候岐禎簾
第二章 夏のキャンプ場~天体観測合宿~
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第13話 こんにちは、夏。

 まぶたを通じて朝日の暖かな温もりが身体中からだじゅうに染み渡る。

 騒がしく鳴り響く目覚まし時計。

 窓の向こう側から聴こえる車やバイクの騒音。

 そして通りを歩く子ども達の楽しそうな声。

 この音の全てが僕の今を形作っている。


 そしてこの瞬間、僕は目を覚ました。


 ***


 早歩きで階段を降りて台所へ向かう。誰もいないその空間はとても静かで自分の部屋にいたさっきとは大違いだ。

 またひと眠りしたいという衝動を抑えながらトースターにパンをセットする。そして普段見ない新聞を広げて一面に目を通す。

 知らない政治の話。

 知らない経済の話。

 いや、もしかして知ろうとしてなかったのかもしれない。でも今はダメだ。まるで紙面の内容が頭に入ってこない。

 ふんわりと焦げ目がついたパンにバターを塗りたくる。そして僕はそれを全力で食べた。


 ――リリリリッッッ……。

 その時、携帯が僕に着信を告げる。誰だろうと思い画面を確認するとそこには『夏宮彩葉』の名前。


「はい。もしもし……」

 寝起きだという印象を与えないようにしながら僕は電話に出る。


「奈都也君おはよう。今日はなんの日か覚えてるわよね?」


「もちろんです。だって今日は――」


「別に最後まで言わなくてもいいわよ。ちなみに私は今から家を出るところ。それじゃあ宮津山里みつやり神社前で待ってるから」


「はい、わかりました。僕もこれから向かいます」

 電話越しに言葉を重ねながらカレンダーを見る。

 そう、今日は八月十八日。

 僕たちが天体観測に向かう日だ……!


 ***


 太陽を背中で感じながら自転車に飛び乗る。最近、原付きの免許を取ろうと感じることも多くなったのだが、このペダルを漕ぐ感覚はかけがえのないものだと思う。信号を待つ時間。通りを走る車。信号が赤から青へと変わるタイミング。その空間が織り成す情景はなんだか新鮮なものに感じる。

 なぜだろう。

 なぜだろう。

 その時、分かった。きっと今、普段走らない場所を自転車で走ってるからだ。まだ見ぬ光景がこうも心を変えるとは内心ちっとも思ってなかった。もちろんバスで神社へと向かうという手段もあった。

 でも今は自転車を選んで正解だったと思う。

 少し走ると海が見えてきた。海岸線から光輝く太陽が水面をキラキラとまるで万華鏡のように反射させる。まるで宝石箱の中の星屑のようだ。自然とペダルを漕ぐ足に力が入る。この先には少し急な坂道がある。この坂道を越えたすぐ先に待ち合わせ場所の宮津山里神社がある。

 足を着くことなくこの坂をのぼれるだろうか。

 景色に見とれはしないだろうか。


 そんなふとした感情が頭の中を駆け巡る。

 でも……。

 いや、大丈夫。

 僕は前へと進めるはずだ。


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