7.戦闘職
「実際下準備も無しにダンジョン来るってどうなのよ」
現在ダンジョンに入る手前。
朝ダンジョンに手ぶらで侵入しといて言うのはあれだが逆にだからこそダンジョンの怖さは身に染みている。
しかしシークスはなんでもないように
「俺がいるから大丈夫だ。任せとけ!」
「キメ顔で言わなくてよろしい」
まぁシークスが言うのなら信用するか。
いざというときはこいつを囮にすればいいし。
「今ひどいこと考えなかったか?」
「気のせいだろ」
――――――
「ここのダンジョンってどういう構造になってるんだ?」
「全体像はわからんが確か何階層かにわけられているはずだ。俺は最大4層までだったら行ったな」
シークスが俺の前に立ち警戒しながら歩いていく。
俺はというと照明係になっております。
エルサの家にもあった即席松明を手に持ってシークスの後ろを歩く。
でもこの松明あんまり明るくないよな。遠くまで照らせないし。
シークスによればモンスターが近づいてくるときは音や光でわかるらしいからいいけど。
「その先の層には行かないのか?」
「無茶言うな。時間が足りない」
「時間?」
「俺たちはだいたい午後にダンジョンに来るんだが戦いながらだとそこらへんが精一杯だよ」
「どうせダンジョンも暗いなら夜中もやればいいじゃん」
「昼間と夜間じゃモンスターの出現率も変わってくるんだ。夜間のほうが圧倒的に出現率が高いからその分時間が余計にかかる」
話を聞いてわかったことはシークスたちはそれなりに実力のあるハンターだということ。
そうじゃなきゃ時間いっぱいまで戦えるやつなんてそうはいない。
「今の時間帯だと?」
「逆に出現率は低いな。だいたいの人はこの時間帯を狙ってやってくる」
その話を聞いて俺は心の中でガッツポーズをする。
それなら楽にやれそうだ!
「そんな時間帯にお前はボコボコにされて戻ったんだよな」
「う、うるさい!ボコボコにされてはないやいっ!」
ボロボロにだったらなったけど。
「どんなモンスターが出現すんの?」
「1層はブラバットっていうコウモリ型のモンスターとマウッドっつうネズミ型のモンスターだな」
なるほど。それだけだと大したことなさそうに感じるかもしれないが死ぬぞ?あれは。
コウモリの群れが現れたと思ったら血を吸おうとしてくるし普通のコウモリよりデケェし血吸われなかっただけでも運がよかったと言えよう。
「お前はブラバットにボコボコにされそうだな。ププッ」
「んなっ。誰がコウモリなんぞにやられるか!」
そのコウモリにボコボコにされてダンジョンから追い出されたのは誰だって?
はて誰のことでしょう。
「まあ1層はザコだから心配ないだろ」
「本当に?」
「戦い方ってもんがあるんだよ。……………っと、噂をすればだな」
「へ?」
シークスが顔を向けているほうに目を向けると何かが蠢いている。
赤い点々が蠢いている。いや、あれは……………目?
その瞬間、こっちに向かって飛んできた。
しかも群れで
「うおぉ!?」
「オウマは下がってろ!松明は手放さずにしっかり持ってろよ!」
シークスがそう言うが否や背中の剣を抜いてコウモリ(?)の群れに向かって走り出す。
コウモリの群れがシークスに噛みつこうとした瞬間、シークスは剣を片手に持ち横凪ぎに斬り払う。コウモリの何匹かはそれで地面に叩き落とされたが剣に当たらなかったコウモリどもが再びシークスに向かって突進を敢行する。
それに対してシークスはコウモリを斬ったあと少し下がって距離を置く。そしたら左手に持っている何かを投げる。
え?今何を投げた?石?
投げた石はコウモリの群れを飛び越えて向こうに音を鳴らして落ちる。
いったいお前は何がしたかったの!?
するとなぜかコウモリの半分近くがその石の方を向いて飛んでいく。シークスはそのタイミングを見計らって取り残されたコウモリの群れを斬り刻む。
今度は飛んでいったコウモリがまた戻ってくる。だが最初の半分も残っていないコウモリはシークスの剣の餌食になっていく。
…………………すげぇ。
シークスは剣を背中の鞘に納めこっちに戻ってくる。
「今のがブラバットだな。さっきやったようにブラバットは音に反応しやすいんだよ。適当に石を遠くに投げれば大半がそっちに行っちゃうから。すぐ戻ってくるけど」
「は、はぁ………」
「まぁこういうのは慣れるしかないからな。頑張れよ」
シークスはそんなことを言ってくるが俺は1つの決意をする。
一生戦わねぇ。
そしてその後現れたマウッドとも同じ事を繰り返す。
――――――
「こんなもんでいいかな?そろそろ戻るか」
「へ、へぇ~~い」
ようやく帰宅になる。
あのあと何度もブラバットやマウッドとやり合った。
いや、別に俺は何もしてないぞ。ただ精神的に窶れただけで。
「こんなザコども相手にそんな疲れて。この先大丈夫か?」
「……………………いいし、戦わねぇし。ハンターにならずに億万長者になるから別にいいし」
「ひねくれんなそこ」
結局2層までは行かずに1層だけで済まされたが無理。無理っす。
元の世界に帰りたい。
「それに億万長者になるって言ってもな。そこらへんの物を採取するなり採掘するなりしかないんじゃねぇの?」
「鍛冶屋とか店とかは?」
「お前そういう向いてねぇだろ」
バ、バレた!なぜわかる!?
ん?ちょっと待てよ。今採掘って言ったか?
「白石ってどこ掘れば出てくるかわかる?」
「そんなもんどうする気だよ?」
「まぁまぁいいからいいから」
「そう言われてもそこらへん掘ればいいだろ?」
シークスがエルサと同じ事を言う。
でもそう言われてもな、そこらへんってどこらへんよ。
するとシークスが剣を抜いたと思ったらいきなり壁に斬りつける。
て、なにやってんの!?
シークスはなんでもないように壁から溢れた手のひらサイズの石を手に持つ。
「これが白石」
「…………………へ?」
「だからこれが白石だって」
マジで!?本当にそこらへんにあったんだ!
確かに白色の石だけど!そんな簡単に見つかるの!?
「さすがにダンジョンの入り口付近は岩だらけだけどそれなりに奥に来れば簡単に手に入る。だから需要は大してないぞ」
「いや、助かる!もっと欲しい!」
「お、おう」
シークスが俺の態度に驚きながらも採掘を繰り返す。
20分くらいやっただろうか。剣で採掘したために小さい物ばかりだがそれなりの量の白石が手に入った。
「いや~ありがとな。できればこれからも頼むわ」
「別にこの程度だったらいいけど、そんなもん何に使うんだ?」
「それはひ・み・つ」
「キモい」
「お前は冗談が通じねぇの!?」
実際今回はなかなか身のある日になったと思う。
ダンジョンにも来てみるもんだな。
そして村に戻る。
だがこのとき忘れていた。
モンスターよりも怖い存在を。
――――――
「あんた樹海の底に埋めてやろうか?」
エルサに樹海の底に埋められかけた。
もうエルサはモンスターだよ。
小説ってちょうどいい息抜きになると思うこの頃。
そしてそのうち息抜きを通り越してハマってしまう。