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54.新事実

「アイリをトレニター学園に、ですか………?」



突然の発言に対してエルサが困惑ぎみに返す。

女将さんは続けて話す。



「実を言うとアイリは拾った子なの」

「……………」



皆が緊張して聞く中俺はというと。

どこのテンプレだろうなぁこれ、とか考えていた。

ようするに対して緊張はしていなかった。少し考えれば分かることだからな。黒髪のアイリに対して女将さんは赤髪。もうこの時点で想像はついていた。

ほら見たか。俺だって考えようと思えばできるんだよ。



「小路を歩いていたら倒れている子を見つけてね。そのときは変わった服装をしていたから他の国から来たのかな?と思って連れてきたのよ」

「私もそこで出会ったんだよ~」



アイリって別の国から来たのか。

……………明らかになんか深い事情ありそー。

あえてツッコまずに話を聞く。



「レーネさんがアイリちゃんを背中に背負って運んできたのを見たとき『もしかして生まれたの!?』って言ったんだよねぇ」



アホだ!アホがいる!

女将さん(レーネさん?)が続ける。



「とりあえず起きるまで待ってそこでいろいろと聞いたのよ」

「どこから来たの?とか、なんで倒れていたの?とか、なんでそんなに可愛いの?とか、思わず抱き締めたくなっちゃう!とか言ってたよね」

「後半明らかに関係ないこと聞いてるよな!私欲丸出しすぎるだろ!?」

「質問をしたときはアイリちゃんものすごく困惑した顔をしてうまく質問の答えを言ってくれなかったの」

「そりゃそうだろうな!目覚めて初対面の人にいきなり抱き締めたいとか言われたらめっちゃ困るよな!」



少なくとも俺だったらまずその時点で逃げる。

この人たちアレな人だと思って脱走を決行する。



「それでも名前は教えてくれたのだけど他のことをよく覚えていないみたいなのよ」

「いわゆる記憶喪失?」



どうしよう。すげぇデジャヴなんだけど。

エルサとイーナが俺を見てくるためすげぇ居心地が悪い。

どうせ俺はエセ記憶喪失だよ。



「それじゃ大変、ということでウチで預かってたのよ。約2週間くらい前から」



ということは2週間前に拾ったということなのか。

記憶喪失とか、頭でも強く打ったのかねぇ。そういえば俺学園ではどう言おう。一応ミラノ出身とは言うつもりだけど肝心の記憶が如何せん日本の知識に片寄ってるから誤魔化せるかどうか。



「アイリちゃんの記憶を取り戻すためには何が一番いい方法だろうと考えてね。それでハンターになって自分の力で他の国を見て回ればいいと思ったのよ」

「Rクラス以上のハンターなら国の出入りは自由になるものね」



エルサがふと洩らした情報に少しだけ感心する。そういえば前に国内にはない国外ダンジョンは難易度が高いダンジョンばかりと言ってたからそのせいなのだろう。

国の出入りに制限を掛けているのは。



「それでアイリを学園に入学させたい、と……。その話をアイリは知ってるんですか?」

「えぇ、実際ロネちゃんが学園に入学するために旅に出るところでアイリちゃんにも進めたのだけど……必死に断られちゃってね。どうも恐怖心が勝っているみたいなの」



その気持ちは分からなくもない。

ハンターになる以上常に死と隣り合わせなのだから怖くて当然だ。俺も闘わなくていいなら闘いたくねぇし。

まあそれ以上に自分でなんとかしたい、と思ったからハンターになろうと思ったわけで。

その時、ドアが開いた。そこには怒気を含んだ表情をしたアイリがいた。

やべっ話聞こえてた……?



「あ、アイリちゃん?いつからそこに……」

「レーネさん、私絶対に嫌です」

「でもこれはあなたのためで………」

「本当に私のためを想ってくれるなら、なんでそんな死ぬかもしれないことをさせようとするんですか!私は、私は………!」



アイリは最期まで言うことなく走り去っていった。

それを呆然と見送る俺たち。

………こりゃ難題だな。アイリの決意は相当なもんだぞ。



「………ゴメンなさい。この話題を持ち出すといつもこんな感じなの」

「そうなんですか………」



女将さんとロネが表情に悲しみを浮かべる。

恐らく何度も同じ事を繰り返していたのだろう。

しかしどんな言葉をかけようともアイリは変わることは無かった。

…………………………。

…………………………(ブルッ)。



「ちょっとトイレいいすか?」

「あんた空気読みなさいよ!?」



エルサがいつも以上に怒った顔をする。

ご、ゴメン!これでもずっと我慢してたんだからな!むしろよくぞここまで堪えてくれたと誉めてくれよ!

俺は下が緩みそうになるのを必死に堪え女将さんが指定した場所を目指す。



「え~と、どこだっけかな~」



とりあえず歩く。ひたすら歩く。

……………………………あれ?ここどこ?

他に宿泊していると思われる人とはすれ違ったがトイレが見つからない。そういえば女将さんどこって言ったかな~。

まずい。ロネじゃあるまいし、方向音痴スキルがここで発揮されなくても。



「とりあえず手当たり次第開けてみっかな」



近くのドアから開けてくことに決定。少々失礼な行為だと思うが我慢してほしい。こっちはさすがに限界が来そうなんだよ!

女将さんに聞き直すという方法も考えたが純粋に恥ずかしいのでその案は却下。

まず手近なところから開けていく。

取っ手を引くとすんなり開いてくれた。この宿屋防犯設備は大丈夫だろうか。



中は雑貨から服まで様々な物が置いてあった。

明らかに生活感が漂う部屋。

……………………これ絶対誰かの部屋だよな?



「スイマセン!」



誰にも気づかれないうちにドアを閉めて逃げ出そうとした瞬間部屋の片隅に周りの物とは浮いて少し目立つ物が目に入った。

それがどこか見覚えがあるような気がして部屋に足を踏み入れる。


空き巣やってる気分なんだけど………。


罪悪感を振り払って目的の物に近づく。

そしてそれがどういった物かよく見る。



「…………っ!」



それを目にした途端、驚愕に打たれた。

思わずそれを手に取る。



「もしかして、これって……」




――――――




「はぁ……………」



誰もいない路地。壁に背中を預けてため息をつく。

レーネさんには散々一人で誰もいない路地を歩くなと言われてる上、実際嫌なこともあったが今日は一人になりたい気分だった。

今までにもハンターという職業を進められたことは何度もあった。でもどうしても乗り気にはなれなかった。

ハンターになるということは命の危険を晒すということ。

そんな覚悟がどうしても持てなかった。

ふと頭に今日会った二人の女の子と一人の男の子の顔を思い出す。



「すごいな…………」



恐らく同じくらいの年のはずだ。それなのに彼らはハンターになると言う。命を賭ける覚悟で。

あの人たちのような考えを持つのがすごいのだろうか。

それとも、私が平穏な場所(・・・・・)で生きていたからこんなに臆病なのだろうか。



「やっぱり私、弱いな……………」



思わずそんな言葉が漏れる。

そこへ別の声も聞こえた。



「誰だって弱いよ。何が弱いのかが違うだけだ」



私は声がした方を振り向く。

そこには、オウマがいた。



「よっ」



オウマが私に向かって軽く手を挙げる。

私は驚きと同時に出た疑問について尋ねた。



「………私を連れ戻しに来たの?」

「いや、本人が嫌だって言うなら無理には言わねぇさ」



オウマはそう言って私の隣に並んだ。

そのオウマの首に見覚えのないチェーン状の十字のペンダントがぶら下がっていた。

そこには対して疑問を持たず再びオウマに問う。



「それじゃ何の用?」

「ちょいと気になることがあってさ」



そう言ってオウマは私に顔を向けてくる。



「遠回しな言い方が難しいから直球で言わせてもらうけど………」



少しためてオウマが口を開いた。



「アイリは日本人だったりする?」


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