53.お願い
アイリが先頭に立って大通りを歩いていると周りからたくさんの視線を受ける。………なせが俺への視線が。
主に男性陣からの妬みの視線が見てとれる。
分かるよ。君達の気持ちは分かるよ。男女比が4:1だもん。どこのリア充だよと思うわ。でも現実はただ学園に行くやつとその友達というだけの関係ね。現実はあまくないぞ。
そのまま歩いていると宿屋に着いた。
「ここが宿屋?」
「そうです。《ライヴフォセル》と言います」
少し顔を赤くして言うアイリ。
ここは突っ込んだら負けだ…………!ラブホにしか聞こえないなんて言っちゃダメだ…………!
エルサをチラ見すると顔を赤くして俯いている。ロネは既に知っているためか平然としておりイーナに関してはなぜか関心している。イーナはスルーしよう。
というかラブホ異世界にあったんだ……。
………………………………………。
興味は持ってないからな!?後で確認しようなんて思ってないから!
「な、名前は気にしなくていいから入って………」
「え、えぇ」
「この、ラブ………」
「よぉしイーナ、黙ろうか!今言ったらお前だけ今晩野宿な!」
何かを言いかけたイーナの口を塞ぎにかかる。
言わせない!それだけは絶対に言わせない!
不満そうなイーナを置き去りに店内に入る。
店内に入ると見た目30代の赤髪女性が出迎えてきた。
「アイリおかえり。あら?後ろの方々は?」
「お客さんよ。助けてくれたの」
「あら、それは申し訳ないわ。ありがとうございます」
「いえいえ、そんなことは」
「お礼に泊めてもらえればいいですから」
「随分と図々しくない!?」
俺は値切れるところで値切りにいくタイプだということを忘れたのかね。金にはうるさいのだ。
そんな俺の発言にも女性は笑って答えてくれた。この人慕われやすいタイプの人だな。少し羨ましい。
「旅の人たちですか?」
「いえ。トレニター学園の入学試験を受けに行く途上でここに立ち寄りまして」
エルサが代表して言うと女性が少し表情を変化させた。
ん?詰まるところでもあったのだろうか。
こんなところで話もなんだから、ということでテーブル席に座らせて貰った。その際にアイリは物を置いてくると言って奥のドアを開けて去っていく。
そのタイミングで女性が話を切り出してきた。
「あなたたちはハンターになりに行くということ?」
「本当にそう思います?」
「めんどくさいから話をややこしくしようとしないで」
俺が喋ったらエルサに足を踏まれながら叱られた。
なんだよー。ちょっと場を和ませようとしただけじゃん。
ひっどいなー。
そんな俺のサービス精神を無視してロネたちは勝手に話を進める。
「道に迷っていたところで皆と遭遇して目的が一緒だったので一緒に行動していたの」
「む、それは違うぞ」
俺がまた口を挟むと皆俺のことを睨んできた。
えー。そんなに睨いでよ。俺の扱いゴミじゃん。
ちょっとだけ納得いかない部分があっただけだよ。本当だよ。
「俺はロネが友達だから一緒にいたんだよ。そんな合理的な判断で一緒にいるとか言われると少し傷つく」
俺が正直な気持ちを吐露すると皆が驚いた顔をしていた。
まるで俺がそんなことを言い出すとは思わなかったとは言わんばかりに。
俺だって譲れない物はあるつもりなんだよ。
「まさかオウマがそんなことを言い出すなんて思わなかったわ……」
エルサがボソッと呟いた。
言ったし!本気で思ってたんかい!
「ゴメンね。そんなつもりで言ったつもりはなかったんだけど」
「オウマは、変なところで、真面目」
「誉め言葉として受けとるからな」
イーナの然り気無い罵倒はポジティブシンキングで受け流す。罵倒されることに慣れてしまったために冷静な対処ができるようになったようだ。
………………あれ、もしかしてMに目覚めかけてる?そんなことはないと思いたい。
女性……いや、女将でいいや。女将は皆と違い優しい表情を浮かべてこっちを見ている。
…………居心地わりぃ。
「友達想いなのね」
真正面からそう言われると少し気恥ずかしいというかむず痒いというか……。
そんな俺の気分を害する言葉が降り注ぐ。
「金想いの、間違い」
「バカ想いとも言うわね」
「百歩譲って金想いは良いとしよう!バカ想いって何!?バカに愛情を注いでんの!?」
「…………あ、幼女想い!」
「「それだ!」」
「それただのロリコンだろ!?」
皆が揃って頷いた現実がより俺の心を抉る。
絶対皆リリィのこと言ってるよな。何かしら根に持ってるよな。
ロネが知ってることに関してはあれ?と思ったがそう言えば馬車でそんな感じのこと話してた気がする。
半分寝てたからうろ覚えだけども。
というかロリの名はシークスに捧げてやれ!
「皆仲いいのね」
「女将さんよ。これを見てそう思うからイジメが世の中から減らないと思わないですか?」
「オウマ、何の話?」
「あ、なんでもないっス」
この世界ではイジメが無いのだろうか。何て平和な世界だ。
今俺はイジメ受けているけどな!
「あなたたちなら、任せられるかしら………」
「女将さん?」
「ねぇ、お願いがあるのだけど」
「え、嫌……」
「はい、なんでござんしょ」
イーナが反射的に断ろうとしたのでその前に口を挟む。
イーナはどこかめんどくさがるところがあるからなぁ。折角だから聞くだけ聞いてみようぜ。
女将さんが少し溜めてお願いを口にする。
「アイリをトレニター学園に連れてってくれないかしら」
「………………え」
一瞬俺まで断りそうになってしまった。




