52.裏路地
タウネスはマネニー最大の経済流通都市。生産者が数多く暮らしており金銭の往来も激しくなっている。
日用品、雑貨から武器類まで扱う物は様々で国民だけではなくハンターも利用する。
そんな街に俺たちは足を踏み入れた。
「やっと着いたぁ~~~」
馬車から降り背伸びをする。
馬車に乗っている間はひたすら筆記の勉強をさせられた。あれは苦痛だった。苦痛だったよ。
連れてってくれたマーラさんにエルサが金を払い皆で礼を言う。馬車はそのあと別の目的地に向かっていった。
「そういえばさ、エルサって金持ちだよな」
「いきなり何!?」
「確かに。エルサちゃんのことだから昔荒稼ぎしたの?」
「貯まってそう」
「ちょっと失礼じゃない!?」
エルサが心外そうに言う。
実際今までどんだけ出費してると思ってるのよ。しかも半分くらい俺の肩代わりだし。でもまだ懐は温かそうだ。
「まあ……昔はその、いろいろあってストレスが貯まってたのよ。ストレス発散のために目につくクエスト受けたり賞金首落としたり新種のモンスター見つけたりいろいろやってて、それでいつの間にか………」
「ストレス発散という理由で鬼畜行為やってることに恐怖を覚えたぞ」
「しかも新種って……そんなのかなり難しい話だよ」
「こうやって、伝説が、生まれるのであった」
こんなことならマーラさんに一通りエルサ伝説を教えてもらえばよかったなと思う。
把握してるところでは水中モンスターを無理矢理陸地に引き上げてボコボコにしたとか、翼で空を飛ぶモンスターにはジャンプと投擲を組み合わせて空中浮遊をしているかのように戦闘をしていたとか、挙げ句の果てに勧誘で言い寄ってきたギルドを立ち直れないくらいにボコったとか………。
凄まじいねエルサ伝説。
「ま、そんなことよりこれからどうする?」
「宿屋で一晩泊まったらウィードに向かう予定ね。ただ試験日まであまり日がないから多少は急ぐわよ」
「望むところ!」
急ぐのなら宿屋に寄る意味はないと思うのだがもう夕方。暗い中を進むよりは安全に明るい時を選ぼうということになった。
今いるところからしばらく歩くと大通りに出た。
いろいろな露店が表にあり奥のほうには大きな店が構えている。
これは住居よりも店の方が多そうだ。
そこから中心街に向かって歩く。
「ロネオススメの店があるのよね?」
「うん。その宿屋は昔からの付き合いで親しいんだ。オウマ君と同じ年の女の子も働いてるんだよ」
「へぇ~、俺と同じ年なのか。それなのにもう働いてるなんて偉いこった」
今から行く宿屋はロネの知り合いの店ということ。
そっちのほうが気楽でいれそうだ。
それにしても………周りの人たちを見る限り思ったより普通の顔立ちだった。どうにも新しい地に来たら美顔かどうか確認する癖がついてしまった。白昼堂々とイチャつくカップルどもにはイラッとするけど。
途中で裏路地に入るよう頼んだら少し白い目で見られてしまった。イラッとするものはしょうがないんだ。世の中の男たちにならわかってもらえるはず。とまあ人通りが少ない道を歩くとよく漫画やアニメで定番のシーンがあったりするが
「おい嬢ちゃん、俺たちと一緒に遊びに行かねぇ?」
「すいません。急いでいるので」
「そう言わずにさぁ」
まさか現実でも起きるとは思わなかった。
ガタイのいい男3人が一人の少女に壁際に追いやり囲んでいる。。
ナンパは2次元だけで間に合ってるとはさすがに言えない空気だった。あ、でもここは男である俺が助けるべきなんじゃね?
そういうのがテンプレだし。ちょいっと刀で脅してやればいけるよな。
そう思い足に力を入れるが、足を踏み込む前に事態が動く。
「ねぇ、何をしているのかしら?………………………クズども」
「んな!?てめぇ何しやがる!」
エルサが一瞬で男の背後をとり抜いた剣を男の肩に置いて脅していた。
はえぇよエルサさん!対応力が早すぎて男の俺の活躍の場がないではありませんか!たまには俺にテンプレを味わわせてくれよ!
額に青筋を浮かべる男に対して隣の男が何か気づいたような表情をした。
特徴無さすぎて男としか言えなくなってきた。まあナンパ野郎は所詮モブだから気にする必要もなし。
「もしかして、こいつ………鬼神じゃねえか!?」
「うわっ、マジじゃん。何でこんなとこに!ここ最近は見ないって話なのに!」
「知らないわよ。消えろ」
慌てるナンパどもに対してエルサは冷たい言葉を突きつける。
ヤバいカッコよすぎて惚れそう。
こうして改めて再認識させられるがエルサ本当に有名人なんだな。鬼神という名だけで皆に恐れられてるし。
年頃の女性が恐れられて大丈夫なんだろうか。いろんな意味で。
エルサが鬼神だと知った男たちは無様に逃げていった。ざまぁ。
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
エルサが襲われてた少女に声をかける。これって惚れるフラグじゃないか?異世界に来て百合とか見たくないぞ。
俺たちも少女に近づく。少女の容姿を改めて眺めるとどこか違和感を感じた。
少女は黒髪でショートヘア、背丈はイーナと同じくらいだろうか。だがその容姿がどことなく違和感を感じる。なんかどこかで見たことあるようなないような…………。
「あれ?アイリちゃん!」
「あ、ロネさん!」
ロネが突然声を上げた。あれ?もしかしてお知り合い?
「どうしたの?こんなところで」
「お使いに出されて近道を通ろうと思ってこの道を歩いていたら絡まれちゃって……」
「ダメだよー。年頃の女の子がこんなところを歩いていたら危ないよ」
「いや、ロネよ。知り合い?」
ロネが勝手にアイリと呼ばれた少女と話を進めるため1度止める。まず知り合いなのは間違いないだろうな。
「この子はアイリちゃん。宿屋のおばちゃんとこで働いてるの」
「あぁ、さっき言ってた」
「アイリです。助けていただいてありがとうございます」
アイリは礼儀よく頭を下げる。
ロネよりも礼儀良さそうだな。おっと睨まれた。
どうやら大通りで話していた知り合いの宿屋で働いている少女がこの子らしい。
偶然にしてはできすぎてるがそれはテンプレと思おう。俺に得はないけど!
「そういえばトレニター学園に入学するって言ってなかった?」
「あ、その話なんだけど…………」
ロネが全ての事情を話す。
迷子になって逆方向に向かっていたこと。途中で俺たちと会い一緒にトレニター学園に行くことになったこと。その途上でタウネスに寄り宿屋に泊まることになったこと。
その事情を全て聞いたアイリは呆れたような顔でロネを見る。
「もう、ロネさんは方向音痴だから気を付けるようにと何度も注意したじゃない」
「ご、ゴメンなさい………」
ロネがアイリに説教を貰っている。
方向音痴に関しては真剣に何とかしてほしい。うっかりダンジョンに来ちゃったーとかシャレにならん。
「と、とにかくこれから宿屋に向かうところで…………」
「ロネさんたちってあっちから来たの?」
「だよな」
「うん」
「宿屋はそっちよ?」
アイリは俺たちが来た方向を指差す。どうやら俺たちは知らないうちに逆走していたみたいだ。
俺たちは一斉にロネを睨む。
「あ、あれ?そうだっけ?あっち?」
「ロネに案内を頼んだのが間違いだった」
「アイリに会えて助かったわね」
「行き倒れ」
「うぐっ!」
ロネが多数の言葉の矢を食らい倒れる。そうだった。ロネが方向音痴だってことすっかり忘れていた。
「おかしいと思ったのよ。こっちは露店の方が多いから宿屋なんて記憶な無かったから」
「エルサは来たことあんの?」
「……………………少し荒れてた時ね」
「なるほど」
エルサは鬼神時代(ハンター成り立て)の記憶が残ってたみたいだ。村に落ち着く前はここでいろいろやってたとのことだから。
「こりゃあロネよりもエルサに頼んだほうが早かった?」
「もう、ロネ、死んでる」
イーナがさりげなくストップをかける。
ロネは隅に固まりいじけていた。ロネにはたくさん反省してもらいたいんだけどな。地味に生命に関わるし。
「と、とりあえず宿屋に行きましょう」
「そうね。ここでいつまでも道草食ってるわけにもいかないし」
「確かに」
「ほれロネ。行くぞ」
「どうせ私なんて………」
いじけるロネを強引に引っ張りロネの案内に従い裏路地を歩いていく。ロネを引っ張るため歩き出しが遅れ自然と後ろにつく。
そしてエルサ、イーナ、アイリ、ロネを見てふと思った。
あれ?俺ハーレム構築しかけてる?




