51.隠し事
今回はシークス視点です。
次回タウネス編に入ります。
~~~ミラノを出たあと~~~
「あぁ~~~~~~」
団長からの急遽招集命令が下りギルド本部があるウィードに向かう前に一度オルノに寄ることになった。
が、正直言ってやる気出ない。
別に招集がかかったことに関しては文句はない。最近雑魚クエばかりで退屈してたし、それにウィードにはトレニター学園が存在する。イコールオウマ達もいるわけで………退屈しなくて済む。
そう、そこに関しては全然問題なし。でも……オルノだけはな………。
「嫌だわぁ……………」
歩きながらため息を吐く。
オルノは危険なのだ。そう、危険なのだ。
あまりに危険のため嘘をついてまでオウマには行かせなかったくらいに。
「個人的にバレたくないだけですよね」
「(コクリ)」
「…………お前らチクッてないよな?」
「さあどうでしょう」
ニムルとキーンが含みのある顔で言ってくる。
これがバレたら俺の威厳というものが失われるだろう。
元から無いって言ったやつ死刑な。
「あ、村が見えてきましたよ」
「野郎共、覚悟はできてるよな?」
「覚悟するのは。シークスだけ」
「言い直そう。遺書を書く覚悟はできたか?」
「そこ。普通は。死ぬ覚悟では?」
「死ぬ覚悟もしちゃダメですよね?」
オルノはミラノよりも小さいが建物の風貌自体は大して変わらない。というかマネニーにある村は全て統一されてるから同じで当然だ。このオルノにある借家で俺たちは暮らしているが今日限りでそれも終わる。
一度借家に置いてある荷物類を回収したらウィードに向かう予定だ。
「いないよな………?」
「暗殺者に遭遇するわけではないから大丈夫だと思いますよ?」
「甘いな。奴は暗殺者の暗殺者だ」
「それ普通のハンターでは!?」
村の人たちに軽く挨拶し借家に入る。
誰もいないことを確認し、即座に荷物類をまとめ速攻で帰ろうとする。
「よかった。誰もいな……」
「させない!」
「さらば!(ダッ)」
帰ろうとした瞬間にとうとう見つかってしまった。
どうやら俺の退路を絶つために玄関で待ち伏せされていた。
俺がフェイントを加え脇を抜けようとしたところをあっさり捉えられてしまった。
「シーウェンさんこんにちは」
「こんちは」
「ニムル君にキーン君も相変わらず一緒なのね。久しぶりー」
「なぜここにいるシー姉ぇ!」
俺の目の前に立ちはだかっているのは己の最大の敵であり肉親でもある姉のシーウェンだった。
俺はオウマたちに自分の姉の存在を知られるわけにはいかなかった。なぜなら……
「それにシーちゃんも久しぶりー!」
「だぁー!くっつくなぁー!」
シー姉が勢いのままに俺に正面から抱きついてくる。
くんかくんかと匂いを嗅いでいる気配を感じ背筋が伸びる。
シー姉はいわゆるブラコンであった。
こんな姉の姿、見せられるわけねぇだろ!
恥ずかしいわ!
「シークス君がロリコンなのはこれが原因だと思うんですよね」
「姉のせいで。年上が苦手に。なってしまった」
ちなみにシー姉はハンターでもある。そのクラスはなんと驚きSクラスだ。俺よりも強く能力持ちである姉は弟の贔屓目で見ても美人で街の真ん中をあるけば男どもの不躾な視線を集めるぐらいに。
ブラコンという特殊な性癖さえなければ真っ当な姉なんだけどなぁ!
「というかシー姉仕事はどうした!入学式もうすぐだろ!」
「私の能力があれば余裕で間に合う!」
「能力の無駄遣いだなおい!」
シー姉はダンジョンハンターではあるがダンジョンに頻繁に通ってるわけではない。トレニター学園で寮長兼教師をしているのだ。
特殊な性癖以外は成績優秀で人望も厚いため信頼性もある完璧な姉を持って嬉しいやら悲しいやら。
だが入学式はあと少しのはすだ。なのにこんな辺境の村に今だ教師がいていいのだろうか。良いわけがない。
ちなみにオウマたちはちゃんと入学式に間に合うように計算して村を出たはずだ。
「そういえば今度はどうしたの?招集があったみたいだけど」
シー姉は俺に抱きついたまま話を続行する。
俺は引き剥がすことを既に諦め成されるがまま。
俺の代わりにニムルが答える。
「ここからは内密で頼みたいんですけどトレニター学園の学園長からの依頼なんです」
「あら、それはいったいどういうこと?」
「詳しいことまでは分からないのですけどどうやら裏で学園の情報はが流されてるとかで」
「へぇ………」
シー姉は興味無さげのご様子。
だがこれは大問題だ。トレニター学園はただ次世代のハンターを育成させるためではなくモンスターに関する研究も行われているところでもある。この事実は実際に学園に入学して実物を見ない限りは理解の範疇を越えているがその研究の中には表に出てはマズイ情報もある。それが公に出て盗賊等に悪用でもされれば溜まったものでもない。だからこそ投資家の貴族は学園に寄付金を渡すし、警界軍であろうと門外不出になっている。
「嵐の鳳凰団は大変ねぇ。そういう厄介事が一番真っ先に回ってくるから」
「まあしょうがないですよ」
決して自惚れではなく嵐の鳳凰団は大きなギルドだ。
ウィードを拠点に活動しておりマネニー一の大ギルド、それが嵐の鳳凰団。二つ目に並べられるのはロイヤルを拠点に活動している《紅蓮の騎士団》でありこのギルドは貴族からの依頼を主にこなしているため表向きでは嵐の鳳凰団が民衆に一番顔が知られている。
よって面倒な依頼事は真っ先に来ていろいろと大変なことになる。
「ま、そんな堅苦しい話しはいいから今日一日ぐらいは一緒に寝よう?」
「ヤだね」
「ダメなの?」
「当然だ」
「わかったよ……。それなら混浴で我慢する」
「混浴すること前提の話だったのか今の!?」
ヤバい。シー姉がヒートアップしてきた。このままだと収拾がつかなくなる。
あ、そうだ。こういうときは他人に擦り付けちまおう。
「実はさ、シー姉!今度学園に俺の友達が試験受けに行くんだよ!」
「あ、そうなの?ミラノの友達?」
「そうそう。そんでそいつ世間知らずだから構ってくれると嬉しいなぁなんて……」
「オウマ君を売った………」
よし、オウマを売ろう。
あいつを売っても俺の心には何も響かない。被害は最小限なおかつ俺は無事。なんて素晴らしいことか。
「任せて!ちなみにどんな特徴?」
「え~と、黒髪でちょい長めだけど癖毛がある少し易しめの目をした少年って感じかな?名前はオウマって言う」
――シークスは知る由もないがオウマは異世界に来て髪をまだ1回も切ってないため日本にいたときより伸びている――
そういえばあいつあんま体つきもよくなかったよな………。そこらへんは学園で何とかなるといいが。
ミラノでは技術(技)を優先して修業していたから基礎体力、身体能力という部分は特に何もしていなかったりする。
「OK、オウマ君ね」
「あと他にもあの鬼神エルサも一緒にいるはすだ」
「え、鬼神がミラノにいたの!?」
ちなみにシークスたちはイーナが学園に行くことを決断する前にオルノに来たのでそこのところは知らない。
ただ鬼神の名についてはその限りではなくもちろんシークスも初めて会ったときから鬼神だと気づいていたが予想とは違く普通の女の子だったからあまり意識はしていない。
でも知らない人がその名を出されたらそりゃあビックリする。
「…………まさか手出してないよね?」
「はっまさか。俺は幼女一筋だ!」
「シークス君。何もカッコよくないからドヤ顔やめましょう?」
「むう。それはそれで………。それなら今夜一緒に寝よう!」
「だあぁ!それはパスだつったろうぉ~!」
結局今夜は一緒に寝かされ一晩を過ごした。
そして気づく。
これオウマに擦り付ける意味あったかな、と。
もちろん誰もそのことについては突っ込まなかった。




