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49.秘伝書

明朝―――――



「ん~、なんか頭がぼんやりとする」

「生きているだけありがたいわよ」

「生死を賭けるって怖いよね」

「命は、尊い、物」

「俺本当にどんな状態だったの!?」



皆で朝食を摂る。だが俺は頭がなかなか覚めない。まあ昨日はいろいろあったからな。ブルンズルズと闘ったばかりだから疲れがとれていないだけに違いない。

ただなぜかイーナの鍋を食べた時のほうが命の危険が訪れていた気がするぞ。



「あれ?そういえば今日はどうやってタウネスに向かうって言ったっけ」

「昼頃に馬車が来るからそれに乗せてもらおう、ていう話よ」

「小売商店に商品を卸しに来る馬車だっけ?」

「そうそう。いわゆる運輸業」



今日はタウネスに行く手段として馬車を採用させてもらった。とは言っても馬車は馬車で商会が経営している要は商売道具のため金銭がかかることにはなるが、そこはエルサが初日に受け取った報酬金でカバーすることになった。

たまに思うがエルサ、お前金持ちだろ。



「で、馬車が来るまでに俺らはいったいどうすんの?」

「必要な物の買い足しくらいかな。オウマは行かなくちゃいけないところがあるんだっけ?」

「オウマくんお疲れ様ー」

「おっとそういえば俺このあと用事が――」

「逃がさない(ガシッ)」

「だぁもう!行けばいいんだろチクショウゥ!」



脱走を試みようとしたもののイーナが俺の腰に手を回して阻止してきた。背の高さの関係で羽交い締めはできなかったみたいだ。

はどうでもいいとして本音としては行きたくない。昨日変なフラグ立ててしまってるから余計に行きたくない。



「もしかしたら本当に重要な話かもしれないよ~」



ロネはそんなことを言い出す。

む、でもその可能性はあるな。漫画とかでもよく意外なところで物語に置いて重要な話を持ってくるとかテンプレだもんな。

それが惜しむらくばこの世界もテンプレ通りになってれぱ、だが俺が行方不明になってる時点で望めそうもない。

もしこれで別の国で勇者とか言われて日本から来たやつがいたらぶん殴りたい。差別だ訴えてやる!

せめて仲間がいれば少しは心も楽になるってものなんだが。



「ま、行けばわかるでしょ」

「そーそー」

「頑張って」

「………他人事のように言いやがって」

「「「他人事だもん」」」

「泣いてもいい!?」




――――――




「あ、一昨日の人!」

「ん?」



足取り重く村長の家まで歩いていたら後ろから声をかけられた。その声の人物は一昨日の女性だった。

あ、そういえば一昨日以降会ってなかったな。



「おはようございます。あんな薬でよかったですかね?」

「この度は本当にありがとう。おかげで娘も状態が良くなってるのよ。この分ならあと数日で完治するかも」

「あ、マジで?」



今まで治らなかった病気をこんな簡単に治していいのか?まあ治るにこしたことはないだろうけども。

なんか呆気ない。



「そういえばまだ報酬金を渡してなかったわね。はいこれ」

「有り難いけどそれは全部エルサにお願いします」

「どうして?」



聞かれた俺は口をつぐむ。

まさかエルサに借金をしているなんて言えない!口が裂けても言えない!あ、でも口が裂けるのは困るな。



「と、そういえば行かなきゃいけないところがあったわ。それじゃまたね」

「あ、はい」



女性が走り去ろうとして少し進んだところで止まった。

どうしたんだろうと思ったがいきなり振り返った。



「本当にありがとう」



そう言って走り去っていく。俺はその後ろ姿を見送る。

そして思わずにやける。



「あの言葉だけで、なんかもう充分だ」




――――――




「あれ?いったい何しに来た?」

「ぶん殴って記憶を呼び覚ましてやる!」



村長の家に着き村長と遭遇し村長に声をかけたら第一声がこれだ。お前が呼んだんだよな!?



「すまんすまん。ちょっとした冗談だ。まあ中に入れ」

「そんじゃ遠慮なく」

「…………本当に遠慮ねぇなぁ」



ズカズカと玄関に侵入する。

何を今更。そんな遠慮する仲ではないだろうに。悪い意味で。

広い部屋に入ったところで座布団の上にあぐらをかいて座る。

村長の家って何処もかしこも和風なのか?

村長も正面に座ったところで漸く話が始まる。



「で、俺にとって損のない話ってなんだ?」

「ふむ、前置きとかは特にないから単刀直入に聞くぞ」



村長は少し溜め込んだあと少し真剣な顔をして言い放った。



「お前はヴァースから来たのか?」

「……………へ?」

「おっと知らない単語だったか。それなら言い変えよう。お前はこの世界とは別の世界から来たのか?」

「…………………………」



…………………………………………………………え。




「は、お、おいぃ~~~~~!?」



い、今何て言ったぁあ~~~!?



「ちなみにヴァースと言うのはこの世界で言うお前がいた世界のことでこの世界はログセスと言う」

「よし落ち着こう。話に着いていけないぞ。なんだこれ、なんだこれ!?」

「お前が落ち着け」



いやいやいや。なぜこいつ(注・村長)がそのことを知ってる!?いやそもそもこの世界ではヴァースと呼ばれてるってことはこの世界でも知られてる話ってことなのか!?

いやちょい待てそもそもまずなんでそこに思いあたった?



「な、なんでそう考えた?」

「お前が腰に着けてるその本なんだが……」

「え、これ?」



本とはもちろんのこと合成の書のこと。ブルンズルズとの戦闘以降、ベルトのホルダーに差し込んだまま。こっちのほうが持ち運びに便利なんだよな。上着で隠せる位置にもあるし。



「それは秘伝書と呼ばれる書物なんだよ」

「いや、合成の書ってタイトルなんだが」

「少しは考えろ。お前さてはバカだろう?」

「なんで皆俺のことをバカ扱いするのか不思議でならねぇ!」



おかしいな。いろんな人と話す度にどんどんとバカにする人が増えてる気がするぞ。いったい俺はどこで道を踏み間違えた。



「秘伝書はわかりやすく言えばシリーズだな。この世に存在する数十冊の秘伝書のうちの1冊がお前の持ってる本ってことだ」

「ほえぇ~~~」



俺は表面上では平静を取り繕うが心の中は荒れていた。

なんかすんげぇえ重要なフラグ持ってきやがったぁあ~~~!

まさかこのタイミングで合成の書の秘密をさらっと教えられるとは思わねぇよ!しかも似たような本が他にも存在するとか!

なんだそりゃ!



「ちょ、ちょっと待て。秘伝書についてはだいたいわかった。けどまだ納得いかねぇぞ。それでなんで俺が別の世界から来たとわかる?」

「簡単だ。秘伝書は俺も含むこの世界の誰にも扱える代物じゃないからだ」

「え、それって………」

「読めないことはないがその真価は発揮できない。秘伝書の力を扱う権利があるのはお前らヴァースの人間だけだ」

「マジか」

「という話を秘伝書の作者の子孫から聞いた」

「だからさらっと重要なフラグ持ってくんなぁあ~~~!」



なんかまたサラリと恐ろしいこと言われた!秘伝書の作者の子孫!?確かにこの本が存在するってことはその作者がいるのも当然だろうがその子孫から直接話を聞いたと?この男何者!?



「俺のダチなんだけどな、アゼフって言う少しイカれた男なんだよ」

「不穏な空気が漂ったぞ今!」

「既に漂ってるから平気だ」

「手遅れ!?」



まあ手遅れなのは事実だけども。



「今どこで何してんだろうなぁ……。俺の記憶が確かならバンヒート出身だってのは覚えているんだが」

「いやここで回想シーン入んないで!まだ全部理解しきってるわけじゃないから!」



思考回路が追いつけていない。ここで一旦整理しよう。

・2つの世界が存在し、俺が住んでいた銀河系がヴァース。この異世界がログセスと呼ばれている。

・ログセスには秘伝書と呼ばれる書物が存在し、それらはヴァースの人間にしか扱うことができない。俺が持つ合成の書も秘伝書の1つである。

・この本の作者の子孫の名前がアゼフ。バンヒート出身。


よし、どうだ見たか。俺でも整理しようと思えばできるんだよ。



「実際のとこ秘伝書って一体何なんだ?俺の世界……ヴァースにはもちろん、このログセスにも魔法的な物って無かったよな?」

「魔法とは何だ?」

「人間誘発型超常現象」

「お前の言葉のボキャブラリーは一体どうなってるんだ?!」



簡潔で分かりやすい言葉を選んだつもりです。



「能力持ちとはまた別の話か?」

「え~と、テレポート……転移したり念力使ったり思考回路呼んだり挙げ句の果てに人を蘇らせたり」

「そんなこと可能なのか魔法って!?」



すんごい適当かつ大雑把に言ったため保証はしないけどな。

自分でもちょっと盛っちゃったなぁ……と思ったもん。



「で、この世界の技術で秘伝書なんて作れるのか、て話なんだけど」

「無理だろうな」

「ですよねぇ~」



普通に考えて合成だりなんだりをヴァースの人間ができるはずがない。俺の知る限りそんな技術は存在しない。

だが、この世界でもあり得ないはずなのだ。なぜなら、ログセスには魔法が存在しない。

皆昔ながらに自分の武器を手に取り闘う。そこに魔法らしき異様な力は介在しなかった。

しかし唯一例外はある。ログセスにいる能力持ちだ。しかしこれは実際に能力持ちが能力を使用しているところを見ないとなんとも言えないんだよな。



「能力持ちの能力にもよるが、可能性は薄いな。人間にできる範囲を遥かに凌駕している」

「それじゃあ………神の力とか?」

「本気か?」

「もちろん冗談な」



でも異世界物で女神様から力を授かるとかあるから可能性は捨てきれない。さすがにそこまで説明はできないけどな。



「能力持ちかぁ……学園にも能力持ちいねぇかな」

「大抵は1世代に3、4人の割合でいるな。そこから上位のハンターになれるやつは半分程度ってとこか」

「やっぱり能力持ちって貴重な存在なのか。でも能力持ちだからと言ってハンターになるとは限らないよな?」

「能力があまりダサいとハンターじゃ役に立ちそうにないからな」

「あぁ、早く会ってみてぇ」



ついでに俺にその力を分けてくれ。思わくば俺にも能力を!

能力持ち(能力者)と秘伝書の力は別物です。

ですのでオウマは能力持ちという枠組みには入りません。

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