48.晩御飯
無事にダンジョンから戻りもう夜中になる頃、俺は《合成の書》を取り出していた。
「さて、そんじゃやれるうちにやっておくか」
「私初めて見るよ。合成とやらの瞬間」
「私は、2度目」
「私は飽きた」
「飽きるほど見たと捉えるべきかそれ!?」
とりあえず常備している回復薬を1個、そしてブルングルズからむしってきた千輪の花をテーブルに置く。
俺が今回合成させて完成させるつもりなのは……【パナシエラー】。
テキストの解読が間違ってさえいなければこのアイテムは飲んだ者の自然治癒力を活性化、発達させ超回復、免疫力大幅上昇、外傷修復を促す医者顔負けの便利アイテムである。
ちなみに自然治癒力と言うのは薬の投与や手術を行わなくとも自らの体が自分から治そうとする力のことを言う。
だがあくまでも本人の力に頼るため本人の根性次第になってしまうと思われる。というか自然治癒力で病気を治せるのかどうか怪しいがそこはテキストを信じよう。
俺がこれもまた常に常備している紙(中二病っぽく魔方陣みたいなのが描かれた物)を取り出していたときに玄関のドアを叩く音が聞こえた。
「あ、すいません。すぐ行きます」
エルサが即座に反応し玄関に向かう。俺はそれを見届けまた再び作業に没頭しようとしていると今いるリビングにエルサとビザノ村長が入ってきた。
「あ、村長じゃないっスか。今回は何用で」
「いや、なんかハーレムつくってるなぁと思ってな」
「村長、あとで鬼ごっこしましょう。俺が刀持って鬼をするんで」
「リアル鬼ごっこしようとするな!」
この村長には1度俺の身を味わってもらいたいもんだ。あれですよ。最初はハーレムヤッホー!ってなるかもしれないけど女子のペースについていけなくなるから。男一人身が狭いっス。
そしてリアル鬼ごっこを知ってたのかエルサ。
「と、冗談の冗談は置いて」
「それ本当って意味だよな!?1周回って冗談ではなくなってるよな!?」
「なんか面白そうなことをしてると聞いたから来てみた」
「どっちにしろくっだらねぇ理由だったぁ~~!」
最近この男が村長だということを忘れつつある。
でもしょうがないよね?
村長が俺の目の前に広げている物を覗きこむように見る。すると険しい顔つきになった。
「…………その本はいったいどうした?」
「ん?あぁこれで合成するんスよ。決して俺の能力でもなんでもないんで。絶対に能力持ちと一緒にしないでくださいよ」
「ふむ。まあそれはいいんだが………」
いやいや、全然納得のいってない顔をしてるぞ。隠しきれてない隠しきれてない。
俺が気にしてもしょうがない話ではあるんだろうけどさ。
そういえば本物の能力持ちって見たことないな。入学するとき同期に一人でもいたらいいんだけど。イメージ的には炎とかドカーンてやんないかな。
「と、時間かけるのもあれだから、もう合成するぞ。ほいっと」
これで完成。ほんと味気ない。なんか技名とかつけたほうがいいか。ちなみに出来上がった【パナシエラー】は高級な感じに仕上がったポーションになっていた。なんのゲームだこれ。
そしてロネは期待外れだったのか不満そうにしている。
「え~~なんかあっという間すぎる」
「人の生産にケチつけんな。これで出来上がるぶんには別にいいだろ」
正直言ってロネの気持ちはすんげぇわかるけども!俺も同感だもん。だが村長もそんなつまんない顔をするな。あんたはいったい何が望みなんだ。
「しょうがない帰るとするか。あ、帰るついでにその薬を届けてやる。ついでだし」
「あ、そんじゃあよろしくお願いします」
村長に【パナシエラー】を渡す。
ちょうどよかった。いちいち行くのめんどうだったんだよな。病人には申し訳ないけど。
そして村長は帰ろうとする直前に思い出したかのように振り返った。
「そうだ。オウマ、明日タウネスに向かう前にワシの家寄ってはくれないか」
「……………えー」
「そんな露骨に嫌そうな顔されたらこっちが傷つくぞ!?」
だって、蹴られた記憶しかねぇし。いい思い出なんかあるか。
そこに村長が付け足すように言ってきた。
「大丈夫だ。蹴ったりはしない。それに……あんたにとっても損のない話のはずだ」
「………………?」
そう告げて村長は玄関から出ていった。
本当にワケわからなくなってきたぞ。
「…………オウマ、あんたいったい何したの?」
「やめて!変なフラグ立てんのやめて!」
「まあとりあえずささっと晩御飯にしましょうよ~」
「お腹、減った」
イーナとロネが腹減ったアピールをする。
ちょい待て。お前らさっきまで無関係を装ってたろ。きづかないとでも思っていたか。
「気分直しに今日は私が料理つくる?昨日一昨日とエルサにやってもらってたから」
「おぉ、それはいいね。ロネの腕前知りたいし」
「料理人を、名乗るだけに、期待、している」
どうやら今日はロネが料理担当らしい。
昨日一昨日はエルサに頑張ってもらってたからな。それにロネはなんだかんだ言っても料理人目指しているくらいだから期待しても損はないはずだ。少なくともイーナに任せるよりはいいはず。
「………………む」
「どうしたの?イーナ」
「私も、料理、つくる」
「「させるかぁ~~!」」
「なんで二人とも一斉に止めに入ってる!?」
俺とエルサが全力でイーナを止めに入る。
なんでこんなところで張り合おうとするんだよ!しなくていいから!あんたはジッとしといてください!
「でも、なんか、悔しい」
「イーナ、人は誰でも得手不得手があるんだ。そして今回はロネが料理を得手だっただけなんだ」
「そうそう。変な意地を張っても現実は変わらないのよ」
俺たちは知ってる。イーナの凶器を。
その気になったら直接手を下さなくても人を殺れることを……!
その様子を見てロネがにやつく。
ヤバい!嫌な予感がする!
「へぇ~~、なんだかイーナの料理食べてみたくなったなぁ~」
「よし待とうか。自分の命が惜しければ引くべきだ。こんなところで死んでもいいのか!?」
「そこまで、言う!?」
あ、なんかイーナのツッコミ新鮮だ。ゴチになります。
じゃなくて!
「それじゃ、食べ比べしましょうよ。それなら文句は――」
「「大アリだ!!」」
「二人とも。イーナが泣きそうになってるわよ」
でもここは譲れない!俺たちの命のボーダーラインなんだよ!
…………あ、そうだ。
「それならロネ、頼みがある」
「うん?」
「イーナに料理を教えてやってくれないか?」
「オウマ!?」
イーナが驚いた顔をしてロネは納得の表情をする。
うまくいけばここでイーナの料理を改善することに成功するかもしれないし、ロネの飯も食える。一石二鳥!
ロネ、頼んだぞ!
「なるほどなるほど、OK。いいよー」
「イーナもそれでいいよな?」
「わかった」
イーナが若干不満そうにするが頷く。
これで俺たちの運命はロネに託された。
ロネがイーナを連れて料理を開始する。
―――1時間後―――
テーブルに突っ伏して仮眠しているとイーナが鍋を持って戻ってきた。
ロネがいないところを見るとまだ調理中だろうか?
「イーナ、ちゃんとまともな料理を作れたんだろうな?」
「たぶん」
「ロネはいったい何て評価してた?」
「それが」
俺はこのときほど聞かなきゃよかったと思った日はないだろう。
「試食して、もらったら、突然、倒れて、感想を、もらえなかった」
この瞬間、鍋は地雷元と化した。
『あれ?ロネ!?なんで倒れてるの!?ロネぇ~~~!』
壁の向こうからイーナの叫び声が聞こえた。
マズイ。非常にマズイぞこれは。ロネの腕を持ってしてもイーナには敵わなかったとでも言うのか…………!
「あ、ちなみに、こっちは、ロネが、作った分」
イーナは鍋(地雷)をテーブルの上に置いたあと奥からまた別の皿を持ってきた。皿には様々な野菜で彩られたサラダが盛りつけられている。どうやらイーナの料理を試食する前に完成させてたみたいだ。
「それじゃ、頂こうかな!」
そう言って俺はサラダのほうを食べる。この瑞々しい野菜の食感にドレッシングで味付けがされたこの旨さ。
さすがは必殺料理人のロネ。ピザだけじゃなくともこんだけ上手い料理も作れるんだな。次々と口に運んでいく。
と、危ない。エルサの分まで食べてしまうところだった。残しておこう。
「そんじゃ、ごちそうさま―――」
「まだ、鍋が、残ってる」
イーナが俺の目の前に地雷(鍋)を置く。
逃げられない定めなのか…………!
いや、まだ希望は持とう。ロネがたまたま食中毒を起こして倒れたとかそんな感じかもしれないし!
『あ、気がついた!ロネ!大丈夫!?』
『う、う…………。あ、あの、な、べは………食べては…いけ、な、い…………(バタッ)』
『ロネぇ~~~!』
俺のガラスのハートが音を立てて崩れ去っていく。
今のは空耳だ幻聴だ。そ、そうだ!少しは見た目がよければまだ食べる気にもなれるかも!そう思い鍋の蓋を開ける。
鍋の中身→赤色のゼリー状の液体。
「………………イーナさんやい」
「なに?」
「使用した食材は?」
「キムチ、キャベツ、豆腐、ほうれん草、牛肉等」
「具材の一欠片も見当たらないんだけど!?」
それに鍋ってこんなゼリーぽかったっけ!?それらの具材をどう組み合わせたらこんなのになった!もはや錬金術の次元だぞ!
お前は錬金術師だっけ!?右腕と左足失うっけ!?
「どうぞ」
「……………」
とりあえず用意されたおたまで一掬い。このプリンを相手にしているような感覚が何とも言えない。おたまの上でゼリー状の液体が揺らめく。
これはプリンだ。そうだプリンなのだ。鍋ではない鍋ではない…………!
「南無三!」
俺は勢いそのままにゼリー状の液体(鍋)を口に含みお腹に納める。
結果だけ言おう。
この時の俺はあまり記憶が残っておらず状況を全然把握できなかった。ただその場所に居合わせたエルサが言うには
「人間にとって生きている以上の幸せはないのよ」
と意味のわからないことを言われた。




