5.真夜中
俺の手が震えている。
この貴重な物を俺が持っていていいのだろうか。
…………………………。
いいな。俺が手に入れたんだし。
命懸けたんだし。
「これ換金できる場所ないかな?」
「街に行けばあるでしょうけどこの村には無いわよ」
それもそうか。
しょうがない。この宝石は後に回しておこう。
「おっと、そういえば着替えようとしてたんだった」
「さっさと着替えなさいよ。まった………て、ちょっとぉ!なんでここで着替えようとしてるの!?」
「え?ダメだった?」
俺がその場で制服を脱ごうとしたらエルサが顔を真っ赤にする。
まぁその反応もしょうがないか。
一応言えばあれだぞ?決して女性の家で女性の目の前で裸になったらどんな反応をするのかなぁ、とかいう好奇心じゃないですよ?
たぶん、きっと、恐らく。
「いいから早く奥のほうで着替えてきなさい!」
「へぇ~い」
面白くねぇなーと思いながら指定された部屋に入る。
部屋の中は…………描写がめんどくさいな。こういうときは簡単に言おう。
部屋の中は日本のどこにでもありそうな木造の部屋。
すいません。しっかり説明させていただきます。
部屋の大きさは一般家庭の子供の部屋と同程度。
右の壁にはそれほど大きくない窓が取り付けられており、窓際には木造の机。テーブルと表現しなかったのはどちらかというと子供の勉強机に近かったからだ。隅には花が添えられておりいい香りがする。左の壁には棚があるが本が3冊あるだけであとは壺だったりビンだったりと隙間が目立つ。雰囲気は子供の部屋というよりは書斎に近い感じだ。物はほとんどないが。
ふー。俺にしては頑張ったんじゃないか?
それにしてもリビングじゃなくて小部屋のほうを優先しているってどう思う?まあそこらへんは皆様の想像にお任せしよう。
今更だがエルサの家の構造はトイレなどの細かい部屋を別にするとリビングも含め3部屋ということになる。
他の家じゃ基本は2部屋らしいのでガイジュが進めてきた理由がわかる。部屋が余っているのだ。
とりあえず牙とダイヤモンドと本を机の上に置き着替える。
用意されてた服は皆と同じ質の物。
着替えてリビングに出るとエルサが待っていた。
「サンキューな。服貸してくれて」
「別にいいわよ。それよりこの服見たことないんだけど。どこの国の物?」
エルサが俺の制服を見て怪訝そうな顔をする。
そこらへんの説明するのめんどくさいなー。
よし、話を逸らそう。
「国ってなに?」
「……………………記憶喪失ってほんと哀れねぇ」
なにそのこんな常識的なことさえ忘れて哀れだなぁて思ってそうな顔は!しかも哀れむな!
まあ説明してもらいました。はい。
国は複数の街と村でできている。
ここの国は《マネニー》と呼ばれる国で3つの街と12の村から出来ている。国にしては小規模すぎるんじゃないかと思ったのだが、この異世界ではそれが普通らしい。
国の領土にもダンジョンは点在しており、それがハンターの収入源になっているとか。だが、国の領土内に存在しないダンジョン(通称国外ダンジョン)は強力なモンスターが多く死人が続出。長年放置されているらしい。
国同士で同盟を結ぶことは少なくもなく、マネニーは隣の国と同盟を結んでいる。
ちなみにこの村は《ミラノ》と言うらしい。
マネニーは3つの街が協力しあって存在している。3つの街はそれぞれ《ウィード》《タウネス》《ロイヤル》。その街の周辺に4つの村が存在し、4つの村と1つの街が協力関係にあるらしい。
ちなみにミラノと協力関係にある街は《タウネス》である。
細かいところは後々説明するとして、要約するとこのような感じ。
…………………………………………。
「頭から煙出てるけど大丈夫!?」
「ダ、ダイジョウブデスヨ?」
俺の頭が全然追い付いていけませんでした。
ぐあぁ~~!そんな難しいこと言うなぁ~~!
俺が理解できるわけないだろぉ~~!
「あんたバカなんでしょ?」
「誰がバカだと!?」
この女!よりによってなんてことを!
俺が慌てふためくとエルサが面白いものを見つけたような顔をする。こ、こいつさては楽しんでるな!
「ちなみにねー、ダンジョンについてなんだけどー」
「ぐあぁ~~!やめろぉ~~!頭が頭がぁ~~!」
異世界で生きていける気がしねぇ。
――――――
地獄から無事に生き延びた俺はやっと寝床につくことができた。といってもベッドみたいなものは存在しないのでちょっとした毛布の上に寝そべり、その上にまた毛布をかけただけの単純な物。
実を言うと、ここが異世界だと自覚してからずっと考えていることがある。
異世界に来ること自体は漫画やアニメでよくある話だ。
………………いや、それが俺に当てはまるかどうかは別の話として。
俺がイメージしているのはだいたい異世界のやつが助けを求めて呼び寄せ、当の主人公はチート能力を手に入れて無双する。
それがテンプレだ。だから俺は期待していた。
俺もきっとこの世界で無双するのだろうと。
現実
勝手に転送されたかと思ったらダンジョンの中でいきなりドラゴンと遭遇したり、かと言えば手元にあるのは合成術の本だけ。
チート能力はぁぁ~~~~!?
合成ってあれだろ!?素材と素材を合成させて新しい物を作るやつ!
それじゃダメじゃん!戦えないじゃん!
しかも助けてーとかいうパターンないし!
サバイバルと化してたし!
サバイバルしに来たわけじゃないんだけどなぁ~~!?
しかも転送された時点で死にかけてるし!
俺の異世界ライフ危険度MAX!
はぁはぁ、よし、気が落ち着いた。
これからは気が荒れそうになったら心の中で叫ぼう。うんそうしよう。
現状をとりあえず理解しよう。
俺に無双できるようなチート能力はない。それは間違いない。悲しいけど。あ、やべ涙が出てきそう。
つ、つまりだ。モンスターと戦おうものなら間違いなく死ぬ。
それならば俺がこの世界で生きていくために必要なことは………
俺が目を開くとそこには光輝くダイヤモンドがあった。透き通るような青色。暗闇の中でも綺麗に輝くその石は形こそ不恰好だけれど瞬くその光が消えることはない。
このダイヤモンドを見るとどうしても思ってしまう。
高そうだなぁ~。
み、見ないで!情けないものを見るような目で見ないで!
確かに我ながら最低な考えを持ってるなぁとは思っちゃったけど!
ま、要するにだ。俺の考えは
金だよ。
み、見ないで!クズを見るような目で見ないで!
だって、戦えないならそれしかないじゃん!金に勝る物はないってね!
そのために利用できるものはなんでも利用してやる。
そう決意し眠りにつく。