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46.森林戦

千輪の花―――

その名前の由来はあるモンスターに生えてることからそう呼ばれたらしい。そしてその肝心のモンスターは森林ダンジョンに生息している。


ここでダンジョン管理局の立てた条令を確認しよう。


・ダンジョンにはハンター以外のいかなる者も侵入することは許されない。


これは当然だろう。下手に一般人が出入りすれば即死だって有り得るのだから。そう、一般人の出入りは許されない。



「なのになんで俺ここにいんのぉぉ~~~!?」

「今さら何を言ってんのよ?」



俺とエルサがいる場所は森林ダンジョン入ってすぐの少し空けた空き地。森林ダンジョンは村の敷地外に出てしばらく歩いた先にあった。

イーナとロネはまだハンターではないのでダンジョンには入れないからお留守番。

それはわかる。わかりますよ?



「でもなんで俺!?俺もハンターじゃないんだけど!?」

「あら、知らないの?Sクラス以上のハンターが同行すればハンター資格を持ってない人でも一人までならダンジョンに行けるのよ」

「そういえばエルサはSクラスだったなコンチクショー!」



管理局さぁん!?条令あまくない!?ここにそれを悪用してる人いますよ!しかもSクラスハンターが!

………………ちょい待てよ?



「これって俺が同行する意味は?」

「…………………………………」

「なんで俺まで連れてきた」

「………………………………嫌がらせ」

「てんめえぇ~~~!」



どうせそんなことだろうと思ったよ!いい度胸だ!この場で決着をつけてやる!



「あのねぇ、これはあなたのためでもあるのよ?」

「む?どういう意味だ」

「学園に行く前に少しでも経験が積めるってなかなかないのよ?これだけでも他の人より優位に立ったと言っても過言ではないわね」

「そ、そうなのか。お前はそこまで考えて………」

「ま、本命はイジメだけど」

「覚悟はいいなぁ~~~!」



少しでも見直した俺がバカだった!

なんでエルサがSクラスなんだよぅ!管理局もSクラスに変な権限与えないでくれ!このザマだから!



「まあまあ、とりあえずザコモンスターを相手にしながら目標を倒しますか」

「よし、ならザコは俺が相手してやる!」

「思った以上に残念なセリフよそれ!」



空き地を出て木々の間を歩いていく。それなりに道らしきものもあるから歩くのに手間取らなかった。



「そういえばこの森林ダンジョンってどういう構造してんの?」

「大まかにエリア毎に別れているわ。さっきいた空き地付近、敵対しないモンスターが生息するAエリア、今私たちがいる甲獣級が主に生息するBエリア、採取系アイテムが多く採れるCエリア、蒼乱級が徘徊するDエリア、最後にダンジョンの親玉、轟刃級がいるEエリア。このダンジョンはこの5つに別れているわ」

「へぇ~、あんまよくわかんないけどこのダンジョンには紅蓮級とか出ないのか?」

「このダンジョンは中級レベルだからね。紅蓮級や幻獣級がポンポン出てこられたら対処のしようがないわよ。それでも轟刃級も充分に脅威だけどね」



更に言うなら同じ森林ダンジョンでもエリアはその地域ごとに変わってくるという。

うん。本当にややこしい。



「なんというか、森林ダンジョンってやっぱ地下ダンジョンと比べると…………爽快だな」

「地下ダンジョンは暗いし戦い難いわであんまり好まれないからねー。それに比べ森林ダンジョンは初心者とかには人気のダンジョンよ」

「あ、もしかしてミラノに想像以上にハンターが来ないのって」

「不人気ダンジョン、というのも理由になるわね」



ここで意外な理由が判明。

でもこればっかりは対処のしようがない。そういうダンジョンなのだから。

今よく考えれば俺ミラノ以外のダンジョンに来たの初めてやな………。



「あ、モンスター」

「え、どれ?」



早速モンスターと遭遇した。見た目はイモムシ、でも大きさは犬ぐらい。ようするにビッグイモムシだ。



「あれはビーノムね。」



へぇ~~なんかイモムシっぽい名前。



「あいつは甲獣級のザコだからあんたでも安心して倒せるわよ?」

「え?マジで?いや死ぬでしょこれ」

「ザコは任せなさいと言ったのはどこの誰だっけ?」

「大丈夫か?まさか幻聴までするようになったとは、病院に行ったほうが」

「自分の発言を幻聴扱いしたのはきっとあんたが初めてよ!」



なんせったって地下ダンジョンのときはスコイズン相手に死にかけたくらいだからな。知ってる?あのスコイズンでも甲獣級程度のモンスターなんだぜ?



「とりあえずやられてきなさい!」

「やられる前提!?」



エルサに背中を蹴られる勢いでビーノムに近づく。

するとビーノムが俺に反応した。警戒を始める。

俺は鞘から剣を引き抜きこの1週間で馴染んだ構えをとる。


え~と、モンスター戦のときはまず見た目から攻撃方法を予測することが大切だって言ってたな。

見た目…………………イモムシ。

やべぇ、全く予想できないぞこれ。あれかな?糸を吐く的なやつかな?ポ○モンと同じノリでいいんだな?


『ビーノムが現れた!』


よし、イメージはRPGで完璧。とりあえず適当に間合いを取りながらタイミングを測る。まぁとりあえず先手必勝か!


というわけで突進を敢行。その瞬間にビーノムは臨戦態勢をとった。それに構わず最小限の動きで剣をビーノムに向かってふりおろす。



「くらえやぁ~~~!」



『オウマの攻撃』

『ビーノムは倒れた』


思った以上にあっさり倒してしもうた!戦う前にあんなにフラグ立てたのに!RPG的にもおいしくないよ!俺が叫んだのバカみたいじゃん!



「お疲れさん。ビーノムは反応が遅いから先手をとりやすいし体も柔らかいから倒しやすくて初心者に好評のモンスターよ?そんなに力まなくていいのに」

「それ先に言えや!あんなに考え込んだのバカみたいじゃん!」

「ザコ相手にあんなに真剣な表情で考えている様子………ププッ……………よかったわよ!」

「さては俺の味方するつもりないな!」



いつまでもここに止まるわけにもいかないのでとりあえず前に進む。

モン○ンよろしくビーノムから素材でも剥ぎ取るのかと思っていたがビーノムからは何も剥ぎ取れないだとか。だからあくまで練習用らしい。


とりあえず他にもベロベロンやらクラヴィル等のモンスターともきっちり闘う。ちょいモンスター名を不敏に感じたが現物を見た瞬間に同情という名の感情が消え失せた。どういうモンスターだったのかはご想像にお任せしよう。

そうして闘いながら道を歩いていくと分かれ道に着く。



「あ、ここで分かれ道ね。右に行けばCエリア、左に行けばDエリア………。今回は左ね」

「?Cエリアって採取エリアじゃなかったっけ?千輪の花はそっちにねぇの?」

「忘れた?千輪の花はモンスターに生えてるのよ?それも蒼乱級」

「マジで!?」

「まあ私なら苦労せずに倒せるレベルだからご安心を」

「……………………ホント頼もしいなオイ」



Dエリアの道を選び足を踏み入れる。

その瞬間空気が変わって気がした。これが蒼乱級か………。

余裕かましてたら死ぬかもしれない。

なのになんでエルサはそんな平然と歩いていくのかなぁ!?




――――――




少し歩くとちょっと変わったモンスターと遭遇した。

所謂ゴブリン的なやつと。ただ肌の色が赤色だった。そんなモンスターが3体。ただそのうちの1体は剣を持ち1体は弓矢を持ち1体は素手。

なんだこれとすんげー思った。



「あちゃ~少し面倒なモンスターに遭遇したわね」

「こいつら何?」

「ルゴドルドというオウマ並に面倒なモンスターなのよ」

「俺が基準かよ!?」

「どこの誰よ俺が基準だ!とか叫んでたやつ」



人の揚げ足をとるなんて卑怯だ!



「……まあ油断さえしなければ大丈夫なはずよ。一応念のため私一人でやるわ」

「……………おっけー」



俺信用されてないなーと思いつつもどうやらめんどうなモンスターらしいのでエルサに任せる。

頼んだぜエルサ!



「…………っ!」



エルサがルゴドルドに向かってダッシュをする。

最初に剣を持ったルゴドルドが反応する。そのうちの弓のルゴドルドがエルサに向かって矢を放った。

しかしエルサは



「っっ!」



ルゴドルドが弓の矢を放つ寸前に更に加速。矢を素通りしルゴドルドに接近する。

もうこの時点でエルサはモンスターなのか、と疑いたくなってきたがさらに人間放れした行動を見せる。

剣を持ったルゴドルドがエルサに斬りこんだと思ったらエルサはそれをパリィする。今度は弓を持ったルゴドルドは矢を片手に持ちエルサに向かってふりおろす。

ルゴドルドって知能高いな、と場違いにも思ってしまった。

エルサは今度はその矢をパリィしようとせずなんと矢が当たる寸前に蹴りを矢の箆に食らわせへし折った。

それでエルサは動きを止めずにルゴドルドにグーパンをかます。

それだけでルゴドルドが吹き飛ばされたのだから思わず絶句する。

俺的にはできれば乙女らしからぬ行動は控えてほしかったのになぁ!せっかく美人なのに勿体ない!

だがそこに背後からルゴドルドの剣が襲いかかる。

しかしもちろんエルサは冷静に対処をする。見えないはずなのにエルサは背中をルゴドルドに見せたまましゃがみこみ回避。



「フンッ!」



エルサはしゃがみこんだままルゴドルドを足を払う。いわゆる伝説(?)の足払いだ。ルゴドルドはそこで体勢を崩し背中から地面に倒れる。エルサはルゴドルドのマウントをとり喉元に剣を突き刺した。

ルゴドルドは喉から紫色の血を噴出させ動かなくなる。


おぅ、やべぇゲロ吐きそう。ハンターになったらこういう光景は日常茶飯時になるだろうから慣れなければ。

けどこれで無事にルゴドルドは全滅だな。ところでルゴドルドの何がヤバいんだろう?



「っ!オウマ避けて!」

「へ?」



突然エルサが声をあげたと思ったらいきなり体が倒れた。思考がついていかない。後ろを見るとそこには素手のルゴドルドが、いや、素手だったはずのルゴドルドの手に何かが握られていた。あれは………剣?

て、あれ俺のじゃねぇかぁ~~~!

俺が立ち上がる前にルゴドルドが逃げ出す。



「いやいやちょっと待てぇぇえ~~~!」



ルゴドルドはあっという間に森の中を突っ切って見えなくなってしまった。

え?なに?なんなのアレ!?



「キャッ!」



悲鳴が聴こえ聴こえた方向を振り向くとエルサが脇腹に矢を食らっていた。その向こう側には弓を構えているルゴドルドが。

もしかしてエルサの気がそれたところを狙われて!?



「お、おいエルサ!?」



そこに4体目のルゴドルドがいきなり草の茂みから現れた。現れたルゴドルドはエルサが矢を打たれた拍子に落とした剣を颯爽と拾うとそのまま去っていく。弓を持ったルゴドルドもこちらに一瞥くれたあと逃げていった。




――――――




「なるほどね。ルゴドルドは物を強奪するモンスターだと」

「えぇ。初心者がよく被害に遭うわ。上級者ならそんな強敵でもないんだけれど………」



エルサが項垂れる。


今は借家に帰宅してイーナ、ロネともに対策会議をしている。武器を失ってしまっては闘う術が存在しないのであのときはそのまま帰ってきたのだ。まあ帰り道に現れたモンスターはエルサが素手で倒したけど。

話を聞いた俺は、自分のせいだと自覚した。

あれは俺が油断をし襲撃を受けたせいでエルサも被害を負った。

あぁ、そうそう。エルサの怪我は回復薬を飲んで治療を施した。一晩寝れば怪我の痕も無くなるとのこと。すげぇな回復薬。



「それで、明日は、どうするの?」



もう今日は日が落ちている。森の中を行動するのは危険だろう。ちょっとここで【ブライム】を使いたくなってくるが今日はやめておいたほうが無難だ。



「他に武器は無いの?」

「俺はあの剣だけだからなぁ。あ、イーナごめんな。折角くれたのに」

「別に、いい。店頭に、並べられない、やつ、だったから」

「遠回しに失敗作って言ってないかそれ!?」



おのれ。どおりでタダでくれたはずだ。



「俺は明日再び闘おうと思うんだけどエルサ、どう思う?」

「…………………………武器も無しに?」



エルサが顔をテーブルの上に突っ伏したまま尋ねてくる。今回のは相当堪えたらしい。

武器も無しに、か。



「俺はさ、適当な理由で自分の気持ちを蔑ろにするのは嫌いなんだよ。やれるはずなのにやろうとしない、そんなのは腹立つ」

「オウマくんは正直だもんね~」

「悪い、意味で」



君たちは1回黙っててもらおうか。



「武器の有る無しじゃなくて、俺は闘うつもりがあるかないかって聞いてる。遠回しになんで逃げるんだ。まぁ、俺のせいでこうなったから偉そうには言えないけど」

「確かに」

「むしろ、説教される、側」



本当に黙っててくんない!?



「後悔してるなら行動で示せよ!少なくとも俺の知ってるエルサはそういうやつだったぞ!」

「「…………………」」



場が静けさに包まれる。

できれば何か喋ってほしいぞ。恥ずかしくて死にそうだ。

するとエルサは顔をあげた。

その顔はやる気に満ちていた。



「誰が逃げるとでも?」



エルサの目は強気だった。

これが俺の知ってるエルサだな。



「で、結局武器はどうするの?さすがに素手で挑むのは危険でしょ」

「うぐっ」



痛いところをついてくれるなぁ。

そうです。俺は言いたいことだけ言って後先何も考えない男なのです。



「私なら大丈夫。考えがあるわ」



え、なに。裏切り?エルサよ考えがあんの?俺は?俺はどうすればいいんだ!?



「オウマは、どうするの?」

「んぐぐぐ」



アレを使うしかないか……?でもアレは1回限りだからなぁ。

……………あ、でもあれがあったな。



「…………まぁ一応無くもないな。あんま使いたくなかったけど」

「よし、なら私たちは応援してるから頑張って!」

「応援してるだけかよ!?」

「戦闘の基本は先手必勝よ!」

「変な持論持ち込むな!」



こうして俺とエルサは明日に向けて準備を整えていく。

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