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45.会話術

ビザノでの初めての朝。

いつも通り世界は平和です。



「あぁ~、眠っ」

「オウマくん、なんで昨晩は私を抱き締めてくれなかったの?」

「冗談はそれぐらいにしておこうか!朝から流血事故なんて起こしたくないでしょ!?」

「オウマ?流血で済ますとでも?」

「ちょい待てぇい!流血は決定事項なの!?しかもそれより酷いことになんの!?」

「そういえば、昨晩、オウマに、襲われた、夢を、見た」

「変なタイミングで変なカミングアウト入れんなぁ~~~!」

「昨晩は随分とお楽しみだったようね………?」

「違うから!夢だという事実に気づけエルサ!」

「夢?昨日私に抱き締められて興奮していたのは夢だっとでも言うの………?酷いオウマ!そんな人だったなんて!」

「うおぉい!?あれはロネがベッドに侵入してきたんだろう!?しかも余計な言葉入れて誤解を招く言い方はすんな!あとこの状況を楽しむな!顔が笑ってるぞ!」

「………………………へぇ、つまり一緒に寝た、という事実は否定しないんだぁ……………」

「エルサさぁん!?不可抗力!あれは不可抗力だから!ちっとも興奮してないから!」

「……………………むぅ、それはそれで不満なんだけど」

「ロネ?それ以上余計なこと言って俺に生傷増やそうとするのは止めてもらおうか?」

「本当のことなのにぃ~~、女は男から攻めて貰って快感を覚えるんだよ?」

「何そのいらない豆知識!?恐ろしいほど人生で一番どうでもいい情報頂いたんだけど!?」

「これから遺言を述べなさい。30秒以内に」

「せめて説得の猶予をくださいお願いします!俺この人生気に入ってるんです!」

「………………………あぁ、そう。昨晩がそんなに楽しかったと。そうなんだー、………………………ソウナンダ」

「だぁ~~~!誤解が誤解を呼んで手遅れにぃ~~!?」

「今日も、平和」

「平和ねぇ~~」



……………………いつも通り、世界は平和です。




――――――




今日やることとしては正直言って特に何も無かったりする。

本来の目的はエルサの頼まれ事だけだったからなぁ。それを昨日済ませてしまったからもうここにいる理由がない。

というわけで小売商店で食料の補充を終えたらさっさと村を出ていくつもり。

だからとりあえず食料を確保しようということで小売商店があると思われる場所に向かっている。



「そういえば、今気づいたんだけどさ」

「ん?」

「鍛冶屋とか、そういうの無いんだな」



まともな店として機能しているのは街から商品を取り寄せている小売商店ぐらいなもんだった。

他はひたすら家、家、家。



「オウマは村はミラノしか見たことないからわからないだろうけどこういうのが村では普通よ。ミラノがおかしいだけ」

「自分でおかしいって言うのかよ………?て、なんでミラノだけ?」

「ミラノは、ダンジョンが、あるから」

「ミラノって特殊な村で有名だよぉ?街にいてもたまに名前を聞くし」



俺とエルサとイーナはミラノ出身になるがロネはタウネスの街出身。だからタウネスに着いたらロネに案内してもらおう、という話になっていたりする。



「ダンジョンがあるからハンターのためにと、いろんな店を建てているのよ。他の村にはダンジョンなんてないから鍛冶屋とかあっても無駄でしょ?」

「なる」



つまりミラノが異常なんだな。納得いった。

そんなことを話してるうちに小売商店に着く。

あ、店番してるおっさん、銭形に似てる。



「うむ。売っている商品はだいたいミラノと変わらないのぉ」

「あんたはじいさんか。でもちゃんと食品も売られてるわね。それじゃ、これと……」



エルサとイーナとロネが商品を覗き込んでいる。

俺も一緒に商品を見ているとある物が目につく。



「お?とっつぁん、これ何?」

「誰がとっつぁんだ!あぁ、これか?向こうの質屋から引き取ったんだがあまり使い道がないな」



俺が目をつけた物はベルトにいわゆるブックホルダーと呼ばれる物がついた物。ちなみにブックホルダーと言っても本を開いて支える方じゃなくて本を閉じたまま置く方な。

ようするにこれは腰にベルトを巻いてそのまま本を持ち歩きできる、という用途の物だろう。

……………………………。



「とっつぁんも売れずに困ってるんだろ?大変だったなぁ、こんな面倒なこと押し付けられて」

「まあな。こういう仕事をしているとどうしてもこういう厄介物まで回ってきちまう。参っちまうぜ」

「それなら俺が買い取ってやるよ」

「…………へ?いいのか?」

「あぁ、困ってるやつは放っておけねぇさ。そのかわりこの値段はちとな………」

「買い取ってくれんなら安くしてやるさ。8割はどうだ?」



よしよし、流れはいいぞ。

だがまだ足りないな。



「それじゃ、4割価格は?この商品実は見たことあってさ、だいたい半額くらいで売られてるの見たことあるんだよねー」

「ちょい待てよ!4割はボリすぎだろ!?」

「ある程度なら妥協しないこともないけどなー」

「くっ………それなら6割は!?」

「うし買った!」



こうして見事に4割引きに成功。

こういうときは会話術が必要になってくる。

俺だって4割価格はボリすぎてると思う。でもあえてその額を提示することで値引きを楽にするという手法を使った。

ちなみに他の店で見た、という話は嘘。これも同じく相場はもっと低いんですよーアピールをするため。

まあ出回ってない代物に相場もクソもないけどね。

そして当然のごとく最初の接触で好感度を上げることもこの作戦の成功率を上げるには重要なのです。

ここテストに出るから。



「オウマくんって商魂逞しいね~」

「できればその金に対するやる気を他に回して欲しいわ……」

「さすが」



女性陣が好き勝手言う。

エルサよ。1つ言わせてもらうなら他じゃダメなのだよ。金だからこそ全力を出すのだ!

今カッコ悪いと思った人こっちこい。相手してやる。



「とっつぁん、ありがとー!」

「おうよ。おめぇも頑張れよ」



まあ何はともあれ無事購入完了。

あとは適当に食料も買い込む(話術を巧みに使い値引きに成功)。

そうして帰ろうとするとある女性が飛び込んできた。

なんか切羽つまってるようだけどどうしたんだ?



「おじさん!例の薬ある?」

「あぁ、あれか。すまねぇ、今はストック切らして無いんだ」



なんだこれ!?会話だけ聞くとまるで闇の取り引きが行われる現場にしか見えないぞ!?このあとあれか!体小さくなって疫病神にならなくちゃいけなくなるのか!?

あ、女性陣も俺と同じ表情してる。誰だ、誰がツッコむ………?



「そんなぁ………」

「明後日には馬車が来るからさ、それまでもたねぇか?」

「薬って、何?」



なんと!イーナがツッコんだぁ~~!これは意外なカードを切ってきたぞぉ~~!

という実況は置いといて本当に意外や。



「もしかして、媚や………」

「ごめんなさい!この子どうやら好奇心旺盛で!」

「そ、そうなんすよ!ちょっとだけどういう薬なのかなぁ?って気になってるんすよ!」

「は、はぁ…………」



イーナが言い切る前にロネがイーナの口を塞ぎ俺とエルサで全力で弁論をする。

イーナの頭の中はいったい何で埋めつくされてんの!?てかたまに思うけど媚薬って目的用途が別だよね!?拷問じゃないよね!?



「実は娘が病気を煩って治す薬をいつもこの店から買ってるんだけど………」

「すまねぇ、今回ばかりは俺のミスだ」

「…………………………違った」



物凄く残念そうな表情をするイーナ。

そうか。この女はただのドMか。拷問好きのドMって警察……この場合は警界軍(アルリス)に突き出されてもおかしくない。俺たちの弁護の余地も与えられないな。

シークスといい、イーナといい、なんで俺の身の回りには素性を知れば知るほど残念な人たちばかりなのだろうか。



「医者はいないんですか?」

「医師に1度見てもらったんだけどそのときに薬を定期的に服用する必要があると言われて」

「それで薬が無いって騒ぎになってこの有り様ですか」



なるほど。ようやく合点がいった。

普通に感動できるいい話だった。

最初に闇の取り引きとか言った俺を殴って………。


ボコッ(エルサがオウマの頭を殴った音)


いやそこマジで殴っちゃう!?痛いんだけど!普通に痛いんですけど!てかどうでもいいところで人の心勝手に読むなやぁ~~!

すると今度は、エルサが俺に対して手招きをし出した。



「オウマ、ちょいちょい」

「ほうほう。人のこと殴っといてよく呼べるもんだ」

「《合成の書》でさ、病気を治す薬とかないの?」

「………………なるほど、その手があったか」



そういえばもう《爆魚》貯まったかな?あれは俺の貴重な戦力だから作れるときに作っておきたい。なんたって今の俺の【エクセード】のストックは切れてるのだから。

と、話がそれた。えぇと、薬。………薬、ね………。

見覚えがないので《合成の書》で読み漁る。

どこから本を取り出したかについてはナイショ。



「………………一応あったな」

「本当に!?」

「ん~。でも素材が足りない。なんだこれ?」

「何て素材?」

「《千輪の花》と《回復薬》」

「……………これまた特殊な組み合わせで」



俺もまさか回復薬を素材にするなんて思いもしなかった。

この本どんどんと合成の枠組みから外れている気がする。



「いったいあなたたちは何をしているの?」

「いや、薬を作ろうと思って」

「え?」

「回復薬はこの店にあるやつを使えばいいわよね」

「千輪の、花は?」

「確か森林ダンジョンにある、という話は聞いたことはあるよ~」



段々とやるべきことが見えてきた。

当の本人たちは無視して話を進める。

あ、いや無視しちゃいけない事項があったわ。



「ちょいちょい奥さんや」

「え、どうしたの?」

「俺が薬持ってきますよ」

「え、本当に?」

「えぇ、ただ少々時間がかかりますがよろしいでしょうか?」

「頼みます」

「時たまオウマのキャラがブレてるときがあるのは気のせい?」

「1つの、型に、収まらないのが、オウマ」

「よくいい表現で表せたね」



もちろん俺の本命は別にある。

それは、報酬です。

だが今はまだその話はしない。自分から言い出せば浅い男だと思われかねない。そのためにも向こうから言い出すように仕向けなければならない。薬を渡したあとにでも「はい報酬」的な感じで貰えれば万事OK!



「うし、そんじゃお任せを!頼んだぜエルサ!」

「結局私なのね!?」

「だって目標はダンジョンにあるんだから!頑張れ!」



決してめんどくさくて人に押し付けようとかそういう魂胆ではない。

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