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43.道中記

「お~~~い、イーナ?」

「…………………………………………」



イーナが先程から俯いたままの状況が続いている。

声をかけるが反応なし。今だ俯いたまま。



「イーナさん?生きてます?」

「…………………………………………………」



無反応。今だ踞ったまま。

そこでふと思い少し背中を擦る。



「………………………………………ウプッ」

「エルサぁ~~~!イーナがゲロ吐きそうだから助けてえぇ~~~!」



なぜこうなったのだろうか。

本当に不思議だ。




――――――




少し前に遡る。


無事ミラノを出発してビザノに向かう最中にそれは起こった。

最初は普通だった。驚くほど。



「エ、エルサ。す、少し、さ、休もうぜ?」

「………何やってんの。何のために朝から出発したと思ってるの?この調子じゃビザノに着くの夜中になるわよ?」



エルサが呆れたように言う。

そう言うけどな、30㎞だぞ!?日本の快適な交通網で生きてきた俺にひたすら歩いて30㎞を制覇しろとか!辛い以外の何物でもない!

ちなみに恐らく今10㎞は歩いたと思う。



「まだ5㎞も歩いてないんだからもっと頑張りなさいよ」



あれ!?まだ5㎞も歩いてなかったのか!?

嘘だろ!?俺こんなに体力無かったっけ!?

俺ってもしかしたら想像以上に運動能力低いかも…………



「ま、実際は10㎞は歩いたと思うけど」



どうしよう。無性に喧嘩売りたくなってきた。

だがここは自重しよう。返り討ちにあって絶対に得しないからな。

10㎞歩いて疲れるってバカじゃねぇの?って思ったやつ。

エルサと一緒に旅出てみろ。

1㎞を約5分で走破される羽目になるから。置いてかれるから。

そして余計な道草食うだけだから。



「イーナを見習いなさい。イーナは文句を言わずに元気についてくるわよ」

「…………………ゼェ、ゼェ……………ゼェ……………あ、うん」

「文句を言わないだけでめっちゃ辛そうだけど!?」



こいつの目にはいったい何が見えているのか。

蚊でもめり込んでんじゃね?



「ったく。それじゃ私少し周囲を見てくるからここで休んでなさい。本当ならほんの7時間でビザノにつくはずなんだけどね」

「黙れ超人異形生命体!人間をお前と一緒にすんな!」

「せめて人間扱いしてよ!?」



道が日本みたいに整備されてるわけでもない。

それこそ山道と表現するに相応しい。

歩きづらすぎてしんどいっす。


エルサが見えなくなったあたりでそこらへんの岩に腰かける。

やっと疲れがとれる、と思いながら隣を見る。

そこには、地面に手をついたまま踞っているイーナの姿が。



「イーナ?どうかしたか?」

「な、なんでも、ありま、せんので、ご安心、ください」



何故に敬語。

さっきから明らかに様子がおかしい。

どのように、と言われれば混乱のあまり鞭を木に叩きつけていた、というぐらいに。

ちなみに数分前にその光景を見せつけられエルサと俺は生暖かい目で見守る羽目になった。



「お前何かあったのか?まるでゲロを吐きそうで我慢しようと思いストレス発散で鞭を叩きつけていたけどそれも限界にきて今まさに越えてはならない一線を越えるべきかで悩んでいる顔をしているぞ」



なお半分くらい確証を持って発言をしております。



「…………………こ、越えて、も、いい?」

「越えんな!耐えろ!意地がなんでも耐えろ!」



ヤバい!マジでこいつアブねぇ!

どうにかしねぇと俺の精神衛生が危険になる!


そんな俺の必死の願いが通じたのか必死にこらえようとするイーナ。頑張れ!頑張るんだイーナ!



~最初に戻る~



「エルサぁ~~~!戻ってこぉ~~~い!」



エルサがあとから話していたが「戻ってきたら汚物を中心に嘆いている人と死にかけている人がいたもんだから一瞬逃げそうになったわよ」らしいです。


実際逃げやがったから全力で捕まえるのに苦労した。




――――――




「エルサさ、もう少し一般人に合わせるということ覚えたほうがいいぞ?」

「もう一般人の基準がわからないのだけど」

「俺が基準だ!」

「どこの国王よ!?」



とまあ冗談は置いておき現在休憩中。

モンスターはダンジョン以外には出現しないが盗賊がいつどこで出没するかわからないから油断は出来ないけど。



「イーナ?調子はどうだ?」

「平気そうに、見える?」

「うん。バッグから拷問器具を取り出してメンテをしている分には平気そうだな」



というかなんで持ってきてるんだよ!そんなに必要な物でした!?あなたは鍛冶師なんですからそんな物よりも重要なことがあるでしょう!?



「それじゃ、そろそろ行こうよ。時間かけるの私苦手だからさ」

「………ちっ。じゃーねぇなぁ」

「そんなに嫌だった!?」



冗談半分ですよ?そう、冗談半分。ここ大事。



「じゃあイーナも復活したところで行くか。目指すはピザ!」

「あんたわざと間違えてるでしょう?」

「冗談だよ。本当はピザノだろ?」

「………………………………」

「え?違った?」



あれ?結構自信あったんだけど。

あれ?あれれ?



「嘘から出たまことってこのことなのね」

「バカの、本領、発揮」

「んぐぅ!?」



エルサとイーナに哀れみの視線で見られる。

そんな不名誉な!

しかし反論できねぇ………!



「あ、あれ?なんだかピザの匂いがするぞー?」

「オウマ、棒読みになってるからやめなさい」

「逃げてる」



…………………あれ?でも本当に匂いがするぞ?



「なぁ、この匂いってこっちから来てないか?」

「あら?本当にピザ?」

「これこそ、嘘から、出た、まこと」



う、嘘じゃないぞ!?わ、わかってたからな!?

本当だかんな!?

とりあえずエルサとイーナと一緒に匂いのしたほうに行く。




――――――




「…………………えっと」

「…………………どうする?」

「…………………怪しい」



上から俺、エルサ、イーナ。

そして目の前には屍(という名の倒れている人)。

さらにその屍が背負ってるバッグから仄かにピザの匂いが。


匂いがする方向に走って来てみたら屍が存在していた。

あぁ、これがいわゆる行き倒れってやつ?

本当に存在していたんだなー。



「よし。ピザだけ頂いて逃げるか」

「外道!この男外道!」

「何を言うか。屍を有効活用してるだけではないか」

「有効活用すんな!あんたは盗賊か!」

「まず、屍、という部分を、否定、しないの?」



どうするかで論争をしているとふと屍の手が動いた。



「お?屍が動いたぞ」

「その言葉がどこかおかしいことに気づきましょうか?」

「何か、伝えようと、している?」



その屍が少し動いたかと思うと顔をゆっくりと持ち上げた。

おぉ、思ったより美人だ。顔はちゃんと整ってるし肌もツヤツヤ。

行き倒れしているという事実を忘れそうだ。



「こら、見とれない」

「ジロジロ、見ない」

「ガハァッ!?」



エルサに背中を、イーナに脇腹を蹴られた。

男だからしょうがないだろう!?それにそんなに見とれてはいないぞ!エルサと同棲していたおかげで女性耐性が身に付いたからな。

それとそこはせめて頬をつねるとかで済ませて!どこに罰に蹴るヒロインがいるんだよ!



「ねぇ、大丈夫?生きてる?」



エルサが腰を屈めて問う。

てか、エルサも屍かどうか疑ってんじゃん。



「…………………ちょう……だい?」

「頂戴?食料を?」



なるほど。もし行き倒れしているなら定番のセリフだ。

テンプレ中のテンプレ。

屍はなお言葉を止めずに必死そうに言う。



「………………ピザ、以外の…………たべ、物………を…………」

「食べ物を限定してくるのか!?」



全然テンプレじゃなかった!

一体何があったらこんなことになるのかな!?




――――――




「ぷはぁ、助かったよ~。ありがとね」



あれから手持ちの食料を分け与えた。

その結果この屍は見事に復活を遂げた。

いろいろと聞きたいことができたな………。主に名前、なんでこんなところにいるのか、どうして行き倒れしているのかとかな。

代表してエルサが聞き出そうとする。



「え~と、いろいろと聞きたいことがある………」

「本当にありがとう!私はロネ、タウネスから来たんだぁ。ハンターになるためにウィードに向かってるところだったんだけど道に迷ってー。私こう見えても料理人なんだよ?特にピザが好きで!それで食べ物はピザばっかり作って食べてて、でもそのうち飽きてきちゃってさー。さすがにいくら好きでも限度があるよねー。そしてピザを食べるのは憚れたもんだからどうしようかと、それでそのまま歩いていたら見事に倒れてしまいました!テヘッ☆」

「………のだけれど………」



ふむ。ここで分かったことは、恐ろしいほどのお喋り人でお調子者で少し俺の苦手なタイプだということ。

だってさ、最後のテヘッ☆聞いた!?腹立たないあれ!?

というか行き倒れた事情からしてまず一般人の枠を越えてるよな。



「わかったか?エルサ。こういうやつが超人なんだよ」

「次元が違うでしょこれは」



次元が違くても超人はその枠組みすら越えるだろう。

たぶん。

そういえば少し気になることが。



「ロネって言ったかしら?私はエルサ。少し聞いたいのだけれど」

「何?エルサちゃん」



こいつフレンドリーだなぁ。本当、俺は苦手だ。



「話を聞いた限りだとようするに、ハンターになるためにトレニター学園を目指していた、でいいのよね?」

「うん、もちろん!」

「………タウネスから出てきたのなら真逆に来てない?」



だよな。俺もそれ思った。

なんでこいつ北上してきてんの?

するとロネと呼ばれた女性は明るい表情で言う。



「え!?もしかして道間違えてた!?」

「はい決定!この人バカ!方向音痴のバカだ!」

「黙ってなさいオウマ!あんたは人のこと言えないでしょうが!」

「むしろ、オウマの、ほうが、上」

「なんで俺が罵倒された!?」



バカな!俺がこの女よりバカだと!?

認めてたまるかぁ~~~!



「エルサちゃんたちはどこに向かってたの?」

「私たちもトレニター学園を目指していたのよ。それで1回ビザノを経由して向かう最中」



あ、それだ。ビザノだよ。今思い出したわ、村の名前。



「あ、それなら一緒についていってもいい?正直一人じゃ不安でさぁ!」

「え~どうしよっかなぁ」

「お返しとは言ってはなんだけどピザあげるから!」

「全身全霊全面的に手助けしてやろう」

「手の平返すのはやっ!」



この世界に来て初めてピザが食える!

そのためならばどんな手でもつくそう。

たとえこの身を捧げても………!

…………………………………。

やっぱ捧げんの無し。ピザが食えなくなる。



「俺はオウマだ。よろしくなロネ」

「私は、イーナ」

「よろしく~、オウマ、イーナ」



こうして旅にロネが加わった。


そのあと、ロネが方向音痴を発揮して勝手に進んだり、道草食ったり、エルサのハイペースに俺とイーナがギブアップしたり(なぜかロネは平気だった)、そんなこんなで結局ビザノに着いたのは夕方だった。


……………村の名前ビザノでいいんだよね?

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