42.旅他街
合成検証会から1週間後
みっちり修行や合成に励み過ごしてきた。
そして今日、とある用事で村長の家に来ていた。
「村長、ちわーす………て、なんでガイジュのおっさんがいんの?」
「それはこっちのセリフだ」
「いーや、俺のセリフだね!」
「お前は何の意地張ってんの!?」
村長もいるにはいるが何故かその場にはガイジュのおっさんもいた。むむむ、これは怪しい。
「先に言っとくと、別に企んでいるとかそういったことではないからな」
んな!先を越された!
「ほらオウマ、そんなくだらないこと話しに来たわけではないでしょ?」
「え?違うの?」
「え、何!?本気でくだらない話しをするつもりで来たの!?」
「ま、冗談半分だから安心しとけ」
「ヤバい………。半分は本気だ…………」
「言い間違えた冗談3割だ」
「まさかの7割本気!?」
「騒がしいのぉ」
「だな」
おいおい、そこの老人コンビ。何を平和そうに眺めているのだね?
君たちも同類なのだよ?俺は知っているぞ。
「それで、何の用事で来たのだ?もしかして結婚報告かの?」
そら見ろ。あんたも同類だ。
頭が狂っていやがる。
あぁ~~~と!エルサがドロップキックを村長の顔面にぶちかましたぁ!
あ、それを村長が掴んで阻止した!お互いに譲らない展開だ!
………………………何だこれ。
「なかなか鋭い一撃を放つようになったではないかエルサよ。それにしてもいきなり蹴ってくるとは酷いではないか」
「おふざけを言ってるから蹴られる羽目になるのよ。常識よ?」
嘘つけ。俺がふざけたら蹴らないだろうが。
殴ってくるからな。
「とまぁ、冗談半分は置いといて、用件を済ますとするかのぉ」
「ちょい待てぇ!半分本気だったのかよ!?」
「間違えた冗談5分じゃったわい」
「9.5割本気なの!?」
一応説明すれば1割が10%。1分が1%。ついでに1厘で0.1%。
これ豆知識。
「それで、何の用事じゃったか?」
「単直に言おう。明日村を出ようと思う」
「村でも噂になってるぞ。ハンターになるためにトレニター学園に行くとかなんとか」
「まさしくそれ」
「意外だな。お前は金にしか目にないやつだと思ってたのになんでまたハンターに?」
1度村の皆に俺の印象を問い詰めたい。
そんなに金に正直なやつだと思われてんの?
まあ当たってはいるから否定はしないけども。
「今目の前にある物を追ってもそれは小さな物だ。どうせ手に入れるなら大きな物のほうがいいだろ?だからハンターになるんだ」
「なるほど。目先より結果を優先したのか」
「………………ダイヤモンド売ればだいぶ金になると思うけど(ボソッ)」
「それは言わなくてよろしい」
ハンターになればいろいろと便利らしいし、それに…………周りにももう迷惑はかけたくないからな。金だけだと思うなよ?
「ふむ。そういうことか。ならば頑張るがよい」
「えらく上から目線だな」
「実際村長と1村民だからね」
「俺は村民には含まれないだろう」
俺の突然の発言に村長が訝しげな表情をする。
「そういえば前々から聞きたかったのじゃがそなたはどこから来たのじゃ?記憶はあるのだろう?」
「村長にはさっさと言ったほうがいいと思ってたから一応言っとくわ。俺は地球にある日本から来た。この世界とは全く違う世界のな」
「ほう、それは興味深いのぉ」
「あまり信じられねぇな」
「別に信じるか信じないかはそっちで決めてくれ。ただ俺はあんたらの常識からずれている、ということは覚えとけ」
「バカだもんね」
「バカだからな」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなぁ!?」
こいつらの思考回路はいったいどうなってるんだ!
「バカだということを否定しなくなったのは成長しているわね」
「うるせぇ」
それについてはもう諦めてる。
なぜなら俺と関わった人間は数日後、必ずバカといった印象を持ち始めるからだ。もはや泣けてくるわ………。
これ以上はめんどくさいな。さっさと切り上げて帰ろう。
「まあとりあえず伝えることは伝えたからな。そんじゃ」
「ん?もう帰るのか?」
「あぁ、用事は済んだからな」
「そうか」
「そうだ」
「……………頑張れよ」
「おう」
言葉を交わして村長の許をあとにする。
しばらく家までへの道のりをエルサと並んで無言で歩く
さっさと帰って修行でもすっかなーと考えているとエルサが聞いてきた。
「そういえばさ、お祖父様に対する敬意が無くなってなかった?」
「へ、なんで?」
「いや、言葉遣いだったり態度が前と変わってるなぁと」
あぁ、そのことか。
「村長の発言で一部気に入らないところがあるし老人らしからぬ態度や言動がイラつくし盗賊と戦ったときは勝手に気絶して役に立たないし今回で村を離れるから村長との縁が消えるのならばこれを機に遠慮はなくそうと思って」
「あぁ、うん。オウマがいい印象を抱いてないことがよくわかったよ………」
むしろ初見からずっとそんな風に思ってたけどな。
それでも約1ヶ月この村で過ごしたのだからそれなりの愛着というかなんというか………………俺もミラノに随分と馴染んでいたんだと思う。
今更ながら少し名残惜しい。
―――――――
「オウマー。持ってく物は全部持った?」
「ちょっと待って!うおぉおダイヤモンドどこに置いたっけかぁ~~~!」
「………………あんたは何してんの?」
ミラノから脱出、もとい旅立ち当日。
もちろん静かに終わるわけがなく朝から慌ただしい時間を過ごす。
「あった!よかったぁ。誰だよ屋根裏に置いといたの!」
「あんたしかいないでしょうが!というかなんで屋根裏にあったの!?」
いつの間にか自分でも予想だにしないところに置いてたりするから人間って不思議。
ダイヤモンドを黒色のボディバッグに入れておく。
ボディバッグは小売商店で売ってたので購入した。
金よし、ダイヤモンドよし、食料よし、合成の書よし、その他諸々……よし。
「ゴメン、今行………く……………」
「何?また忘れ物?」
「もうちょい待ってて!」
「もうイーナも来てるわよ?」
「オウマ、早く」
どうやらイーナも既に来ていたらしい。
大急ぎで部屋に戻り机の上に置きっ放しにしていたものを手にとる。
それは……………1ヶ月前までよく着ていた学校の制服。
今ではもう着ることはなくなってしまったが確かに日本にいた、学校にいた、と思い出させてくれる数少ない代物の1つ。
「オウマー早くー」
「おう!今行く!」
制服はボディバッグとは別のバッグに入れ手に持つ。
もうここに帰って来ることはないかもしれない。
考えたくもないが行く先で死ぬかもしれない。
でも後悔だけならいくらでもした。後悔だけじゃ何も学べないことを知った。
大事なのは、明日を生きる覚悟があるかどうかだ。
とは言っても俺じゃ覚悟があっても死ぬ可能性は大いにあるからな。そんな俺に今できることは
「絶対生き延びる。それが一番簡潔で、一番わかりやすい」
とりあえずこれでミラノ編は終了です。
次回からは旅路編が始まります。




