37.修行中
「エルサ、修行頼む」
「……………あれ本気だったの?忘れてたくせに?」
「気絶してたからしょうがないだろ!?それに今回は別の理由もあるから!頼む!」
「わかったわよ。はぁ~面倒なことになりそう」
俺はエルサに修行を志願する。
理由はごく単純。中二病の健全な男の子ならば誰もが1度は夢に見るであろうこと。ようするに強くなりたいから修行をする。
中二病で健全ってどうなん?というツッコミはなしな。
で、修行するならどうすればいいだろう?
そしてイメージするのは師弟による修行。うんこれだと思いよい師を探したのだがなんとまあここに良い人材がいるではないですか。
しかもSクラスという実力は折り紙つき。
というわけで今に至ります。
「午前だけでいいからさ。午後は別にやりたいことあるし」
「また露店販売?」
「いや露店はしばらく休業しようかと」
「え?いいの?」
一時はまた露店の営業を再開しようかとも思った。
だが今回の事件のせいでハンターの出入りも減るし、他にもやりたいことができたために後回しにする。
金は欲しいが俺は結果を求むタイプなんで。
「まぁ午後にはエルサにも手伝ってもらうつもりだから。そのつもりでよろ」
「はいはい。で、剣は持ってきたの?」
「もち!」
修行開始。
――――――
「必殺技的なやつってないの?」
「開始一時間で早速師のやり方に文句を言うか」
俺は高校生だから長続きしないのは自分で言うのはあれだがわかっていた。
だってマジで素振りとかやらせるんだぜ?ダルくてしょうがない。
しかもこいつの教え方にも問題があった。
「だから、ここをこうズバーン、てやって、そこをズシャーやったあと、最後にゴブォバァンてやればいいのよ」
「抽象的すぎてわかるかぁ!」
こいつはあれだ才能で生きているタイプだ。ついでに言うなら天才の類いだから努力というのを知らん。
しかもなんだよゴブォバァンて!どんな効果音なん!?
「それにやっぱ必殺技とかある方がモチベーション上がるじゃん?なんかの技とかでもいいし」
「まあオウマの言うことも一理あるかしら………」
エルサはそうやって少し悩んだあと諦めたようにため息を吐いた。
「とりあえず言いたいことはわかったわ。ようするに技名とかあるほうがなんかカッコいいと」
「イエス」
「技があるほうがやる気が上がると」
「そうそう」
再びエルサは考え込む。
「オウマの場合はまず回避や防御面のほうがいいわよね。そのうえで今のオウマにもできそうでなおかつ負担がかからないというと」
エルサはブツブツと呟き1つの案を出す。
「それなら超初歩的剣術なんかは?技名っぽいのはあるけれど」
「じゃあそれで。技名は?」
「パリィ」
お?なんか思ったのより短い。
あ、でもなんか聞き覚えがある気がする。漫画とかで。
「相手が武器で一撃を与えてくる瞬間に自分の得物でその一撃を弾くっていう1種の防御技なんだけど、それをパリィするって言うのよ」
「あぁ、エルサが幹部相手に戦ったときみたいな?」
「そう。相手の武器を手から離せれば完璧だけど、そこまでは求めないわ。1つの防御技として覚えてくれれば生存率も上がるだろうし」
「おっしゃ!なんかやる気出てきた!」
そうしてしばらくパリィの練習をしていると乱入者が現れた。
「お?オウマにエルサ、何してんの?特訓かなんか?」
「違うぞシークス。特訓ではない修行だ」
「そこに一体どんな差が!?」
現れたのシークスだった。こいつ暇人だな。
ちなみに特訓よりも修行というほうがなんかモチベーションが上がるのは俺の持論。
「オウマがカッコいい技とか教えろっていうから、それっぽい技名があるのを教えてるのよ」
「あぁ、もしかしてやってんのパリィ?それ技か……?」
「本人はそれでいいんだと」
おぉ、さすがはシークス。見ただけで何をやっているのか分かるのか。伊達にハンターではないな。
でもちょうどいい。
「お前もなんかいい必殺技ない?素人にもできてなおかつ強くてカッコいい技を俺はご所望する」
「んな都合のいい技あるか!」
ダメ?
「まあカッコいい技はなくもないな」
「お!?どんなの!?」
「それはな………」
シークスを人差し指を立てて言葉を溜める。
「真剣白刃取り」
「お前は俺に死ねと!?」
まさかの非現実的なやつがくるとは思わなかった!
「知ってるなら話は早いな。これやってみるとスゴいんだぜ」
「今更取り繕うとしなくていいわ!やったって犠牲者が生まれるだけだから!」
「男は勇気と根性と度胸と幼女!その1歩を踏み出さなくちゃ戦えるもんも戦えない!まずはその1歩を踏み出すことから始めようぜ!」
「4つ目の単語がなければカッコいいセリフだったのになぁ!?」
幼女で全てが台無しだ!
「まぁいいから、ほれ、俺に向かってやってみろ」
「ほうほう」
シークスが構えをとる。
俺は剣を持ち日頃の恨みを込めて斬ろう。
本人公認だから問題ないよな?
「いいんだな?やっても」
「おうよ。さっさとこい」
「そんじゃ………遠慮なく!」
俺は全力で剣を振った。
……………………………………横薙ぎに
「とうぉ!?」
それでもシークスは止めて見せた。
ちぃっ!こいつ反射神経いいな!
「おまっ、そこ縦斬りじゃねぇの普通!?」
「俺の中での普通は横斬りだから全く問題なし!」
「大アリだボケ!危うくマジで斬られかけたわ!」
「大丈夫だ!少し赤い液体が飛び散るだけで済むから!」
「それが大丈夫じゃないんだけど!?」
たくっ。異世界の常識を押し付けないでほしい。
それに素人の一撃だから簡単に受け止められた、というのもあるだろうし。
「まあ真剣白刃取りって言っても一応防御技の1つだから一概には言えないけどオウマには無理でしょ。怪我したらどうすんの?」
「俺が怪我しそうになったんだけどなぁ!?」
「怪我だけじゃ済みそうにないから安心して」
「不安要素しか見当たらないわ!」
俺にはまだ早かった。少しずつ簡単なやつから覚えるのが得策だよな。
「それにそもそも真剣白刃取りは剣術じゃなくて体術のほうだから。オウマが覚えてもあまり意味はないわよ?まず戦闘中に手から剣を離すことはないでしょうし」
「エルサならできそうな気もするけどな」
「いやいや、過去に7回中5回成功した程度よ?」
「成功してんじゃん!」
「しかも成功した割合のほうが高ぇ!」
やっぱりエルサは化け物もいいところだ。
さすがは鬼神。
「なんか言った?」
「いえ、何も言ってはいません」
「嘘はいけないわよ?」
いや嘘じゃねぇよ!?確かに思ったけど口には出してねぇもん!
――――――
「エルサはいつからハンターになったんだ?」
シークスがいなくなりあと少しで切り上げようかという頃合い。
ちょっと気になったことを聞いてみた。
「なんでそんなことを?」
「エルサは俺と同い年だろ?それなのにもうハンターだからさ、ちょい気になって」
正直言ってその歳でなれるものなのか気になる。
「確か3年前だったかしら」
「最年少記録を出す気かね?君は」
「いえ、史上初最年少でSって言われたわ」
「マジで世界記録保持者だった!」
もう何を言われても驚かない自信がつきそうだ。
「あれ?ということは最年少ハンターはまた別にいるのか?」
「えぇ、確か9歳でハンターになったとか」
「マジか!?」
9歳でハンターになれるもんなんだな…………。
「と、そろそろ昼御飯にする?私奢るけど」
「おぉ、珍しく太っ腹」
「臨時収入が入っちゃったからね」
「臨時収入?」
「倒した幹部が賞金首だったから報酬金が入った」
「な!?報酬金!?」
俺は貰えなかったのに!?コイツいつの間に!
「どうせ戦いに貢献したんだから分け前を少しくらい、とか思ってるんでしょうけど残念でした」
「なぬ?」
「ハンターではない人は賞金首等によって発生する報酬金は手に入れられないのよ。わかった?」
「なんだとぅ!?」
え!?そうなの!?
それ差別じゃない!?
「……………エルサ、ハンターになれば貰えるんだな?」
「まぁ、それ相応の成果をあげればね」
「よし、なら俺ハンターになる!」
「なぜに!?」
なんでって、ハンターにならなきゃ金貰えないんだろ!?
ならなるしかねぇじゃねぇか!
折角頑張ったのに何も貰えないのは悔しすぎる!
というか本音は金が欲しい!
「いやぁ、うまくいくかどうか分からないわよ?それでもいいの?」
「おう!後悔はない!」
少なくとも金に関しては。
「それならまずは1か月後にこの村出なくちゃいけないわね」
「へ?なんで?」
「入学しなくちゃいけないから」
「………………ほぇ?」
入学?どゆこと?
エルサほ呆れたように言い放つ。
「ハンターになるにはトレニター学園で最低1年、最悪4年間過ごさなければハンター資格は貰えないのよ」
…………………………………………………………………………へ?
「な、なな、なんだとおぉぉぉお~~~~~~~~~~!?」




