36.決定打
「ねぇ、教えてよ……」
…………………さぁて、どうしたもんか。
皆はどう思う?
→1.話す
→2.逃げる
→3.誤魔化す
ふむまず逃げるは論外だな。この状況で逃げたらクズ以外の何物でもない。それなら誤魔化すか?いや失礼だな。エルサに申し訳ない。それならば…………
4の答えの引き延ばしで!よしそれでいこう。
「まぁそれは置いといて」
「引き延ばしたらコロス」
久しぶりに聞いたなエルサのコロス宣言!
俺に選択権は元々存在しなかったらしい………。
「実はさ、記憶喪失っての嘘なんだ」
「それは知ってる」
あれぇ!?おかしいなぁ!?知らないんじゃなかったのかなぁ!?
「今までのオウマの態度を見てれば誰でもわかるよ。その上で皆黙ってた。無理に話させる必要はないと、自分から話してくれるのを待とうって。でも私はもう無理。ねぇ、オウマはいったい誰なの?」
まさかの全員バレかよ!?うまく誤魔化してたつもりだったのに!
えぇ~マジっすか…………。
俺知らないうちに追い詰められてるじゃん………。
「私が知りたいのは、別の世界から来たって話。どういうこと?」
「えっとな、その……実は俺、この世界とは別の世界から来たんだよ」
「嘘言ったらコロス」
「嘘じゃないぞ!?日本ってとこ!いや地球か!?そんな感じのとっから来たんだよ!嘘じゃないからコロさないで!」
本当のことを言ってもそうなんの!?無理じゃん!俺に助かる術なし!まさかの人生破滅ルート!
「あるところでこの本を見つけたっけそっからいきなりダンジョン最深部に転送されてさらにはドラゴンと遭遇して!そこからはあなた方の知る通りです!嘘は微塵もありません!」
《合成の書》を机に置いて言う。
ちょっと早口になってしまったが偽りはいっさいございません!
よくよく考えてみれば俺なんの前触れもなしにここに来てんだよなぁ。テンプレの勇者様ぁとか無かったもんなあ。
むしろ境遇的には殺されかけてたもんなぁ。
あれ?なんか俺不憫かも。
「なんかよく分からないけど嘘じゃないってことはわかったわ。あんたも随分不憫なものね」
エルサが手を机に置いてため息を溢す。
うっさいやい!望んでこんな目にあってるんじゃないやい!
「まあだから、その………俺もよくわかんなくて、いつか言わなくちゃとも思ってたんだけど。えと、その………スンマセン」
床の上で土下座しました。
土下座は謝罪の究極形態。これ以上の謝罪を俺は知らない。
「いいわよ。話してくれたし。正直言ってオウマの話はピンとこないのだけれど一応納得しておくわ。あの服もその地球ってとこの?」
「あぁ、制服のことか?まあな」
よく考えれば唯一の地球と異世界の繋がりと言っていいかもしれん。大事にしておこう。
「ありがとね。無理して聞いちゃって」
エルサのその言葉がいやに心に残った。
――――――
「ふいぃ~~疲れたぁ~~~」
今日1日修復作業におかれた体を癒す。
というか風呂に浸かる。
異世界での風呂は日本とたいして変わらずバスルームに木製のユニットバス?があるというごく普通のものだった。
「俺、結局何してたんだろうな………」
思い直してみれば俺は本当に何もしていない。屋根を飛び回って屋根を爆破して戦闘をエルサに押し付けただけ。
やべっ。俺本当に何もしてない。
「強く、か……………」
自然とそう呟いてしまう。
皆を見ていて純粋に思ったこと。皆戦う力があった。なのに俺はそんなもん微塵も持ち合わせていない。
だから迷惑をかけてしまう。恐ろしいほど情けない。
だから思ってしまうのだろう。
強くなりたい、と。
一時期はそんな危ない目にあうくらいなら金を稼いだほうがいいと考えていた。それは今も根本的なところは変わっていない。
でも、どうしても悔しい。
「どんどんと高校生から離れていくなぁ」
もう戻れないかもしれない。というかもう2週間経とうとしている。向こうの世界では大変なことになっているかもしれない。
あ、それならもうこっちで過ごすのもありかも。
そんなことを思い始めた矢先、風呂場のドアが開いた。
水の音が漏れていたはずだから誰かが風呂に入ってることくらいはわかるはずなのだ。
なのに………
そこには真っ裸のエルサがいた。
「ブフォ!?」
俺は即座に後ろを向く。
あいつ何やってんの!?俺が入ってるのに気づかなかったのか!?いやそれはあり得ない!ならなんで!?とうとうバカになった!?
すると今度は背中に重みがかかる。具体的に言うと変態と言われかねない状況に押しやられた気がする。
というか押しやられた。
「エ、エ、エルサさぁぁ~~~ん!?」
なに!?これはあれか!?後ろから抱き締められてる系!?ヤバいぞこれは!なんか背中に二つの感触が!とおぉ意識するな俺!意識したら負けだ!てかすでに変態どころか監獄行きまっしぐら!
俺の背中に張り付くエルサは細々と言葉を口にする。
「ねぇ、オウマは自分の居たところに戻りたいと思うの………?」
正直言ってこの状況で何言ってんのコイツ、ぐらいに思っていたがここで取り乱すよりは冷静に答えて立ち去るのが一番ではなかろうか。うんそっちでいこう。背中に当たっている感触についてはこのさい無視する。
「戻りたくとも戻る方法がないからなんとも言えないけどな………」
「そうじゃなくて、オウマは戻りたいのか戻りたくないのか、てこと」
あ、そっち?
「オウマは別の世界で暮らしていた、て思うと怖いのよ………」
「怖い?」
「いつも近くにいた、会話していた。でも知らないうちにそれがなくなる。それがものすごく怖い。いつも隣にいたからかな?いつの間にかそれが当たり前になってて、それが普通だって思えて、でも本当はオウマは遠くにいて、私じゃ届かないところに………」
エルサはそう言って黙りこむ。
同棲が普通なのはいかがなものなのか、というツッコミはやめておこう。空気を読めなさすぎる。
俺はエルサに向き直ると顔を正面から見据える。
エルサの目は若干潤っていて、表情が弱々しかった。
エルサの頭に手を置き言う。
「確かに戻りたいって気持ちもある。知らない土地に居続けるのはどうしても不安になるし、置いてきた友達も気になる。それは本当だ」
俺の頭の中で浩介の顔がよぎる。
あぁ、今思い出さなくていい奴だったかもしんない。
エルサは俺の言葉に顔を俯かせる。
俺はその顔を両手で挟み無理矢理に俺の正面に向ける。
「でもここにいたいとも思える。皆親切で面白くてさ、ホントに退屈しないよ。エルサはどう思うんだ?俺にいてほしいのかいてほしくないのか」
「私は………離れたくない」
俺はその言葉に顔をニヤリとさせる。
「ならいいじゃんそれで。俺は少なくとも今はここで過ごしたいぞ。俺は自分の我が儘を通す。だからお前も通せよ自分の我が儘。俺みたいなバカは曖昧だからそういう決定打が欲しいんだ」
バカの思考回路なんて限界が知れてる。選択が迫られたら必ず詰まる。だからその迷いを捨て去れるような存在が欲しい。
「なら………一緒にいて。オウマが決断できるときまででいいから」
「おうよ」
エルサはやっと微笑んでくれた。
それに関しては別にいいんだ、別にいいんだよ。
ただね………
「でさ、エルサ、その…………………そろそろ風呂場出てもいい?」
エルサは5秒間呆けると一瞬で顔全面真っ赤にした。
すげぇ、人間肌の色がここまで変わるんだな。
そして人生初のビンタを食らった。
――――――
や、やってしまったぁぁあ~~~!!
枕に思いっきり顔を埋める。
いや意識はしていたのよ!?ただ自分の感情が抑えきれなくてそしたらいつの間にか風呂場に押し掛けちゃって………!
しかもなんか私裸だったしぃ~~!
見られた!絶対見られたよね!?うあぁ~~~!もうお嫁に行けないぃ~~!
しかも最後にはビンタまでしてしまった………。もう絶対嫌われた………。どこの世界に自分から風呂場に押し掛けといてビンタを食らわせる女がいるのよ………。私最低だわ………。
右に顔を向けるとそこには壁がある。その壁の向こうではオウマが寝ているはずだ。そう思うと再び顔が熱くなるのを感じる。
オウマもオウマよ。あそこで固まらずに逃げてくれればよかったものを。そしたら私だって抱きつくような真似はしなかったのに。オウマのバカバカバカバカ。
今度は仰向けに寝転がり天井を見上げる。
お父様のことも忘れたわけじゃない。まだ心残りもある。でも考えすぎるのはやめた。じゃないと生きていけないのを知っているから。ハンターとして生きていく中で得た教訓。でもなぜか今は心臓がどこまでも高鳴るのを知らない。鼓動が止まらない。
いつからだっただろうか。確かにオウマとは同年代で見た目も自分のタイプだった。でもそれならシークスも一歳年上というだけで顔もいい。なのになぜこうもオウマのときは違う印象を抱いたのだろうか。
考えようとしてやめた。どんなに考えても今はきっと分からない。心の中で整理がついてないから。まだ今の自分に納得していない自分がいるから。
だから、もし自分のことを認めることができる日がきたら、その時は……………




