34.対人戦
「あんたは戦わないの!?」
「俺が戦ったらどうなる?」
「…………なんとまぁ説得力のあるセリフでしょうか」
ここまで威張れない説得力のあるセリフってなかなか無いんじゃないだろうか。自分で言っといて悲しくなってくる。
エルサは呆れたように口にする。
「分かったわよ。私もいろいろと聞きたいことがあるしね」
そう言ってエルサはリーマウルを見る。
そうだ。やつらに聞きたいことは山程ある。だからまずはこのクズを倒さなければならない。
「まあいい。どっちでもいいからかかってこい」
ナルゴがそう挑発しエルサは1歩踏み出す。
最終決戦が始まる。
――――――
「フゥ~~」
ゆっくりと息を吐き出して呼吸を整える。
剣を鞘から抜き、正眼に構える。ナルゴと呼ばれた盗賊は同じように刀を粗雑に手に持つ。
その武器を見たときへぇ、珍しいと思ってしまった。
刀は使う人はあまりおらずもはや古代の技術とまで呼ばれた代物。
つくろうとしても名刀とは程遠く良い刀はつくれないために今刀をつくる鍛治屋はほとんどいない。
だから滅多にお目にかかれる物ではないので少々驚いてしまった。
それと同時に気を引き締める。刀は扱いが難しく上級者向けとも聞く。
そんな刀を持っているのなら相当なやり手だろう。
場に静寂が訪れる。
どこかで石が落ちる音が聞こえた。
その瞬間に全力で突進を敢行する。
「フンッ!」
剣に体重を乗せて斬り込む。だが相手は
ガキィン!
持っていた刀で受け止めた。
それを見て少し疑問に思う。刀は他の武器よりも軽いため正面から受け止めるのは苦手なはずなんだけど………。
その証拠に相手は少しよろめく。
だが今度は相手がそのまま刀を横薙ぎに振ってくる。
私は剣を地面に突き立て
「…………ッ!」
「んなっ!?」
剣の上で逆立ちになり斬り払いを回避。
相手の剣は私の刀に当たり火花を散らすが体重をかけ容易に動かせないようにする。
この間3秒。
そして剣を軸に体を1回転させ相手の顔面に蹴りをぶち込む。
「がっ!」
相手は吹き飛ばされ倒れる。
蹴りをぶち込んだあと地面に着地し剣を構え直す。
WクラスやSクラスの一部には人外の能力を持つ者もいると聞く。Wクラスともなれば必須。
そんな中でエルサがSクラスになれた。人外の能力を持っているわけでもないのに。
その理由は剣術の技術と体術による格闘技術が一般のハンターより桁外れに秀でているから。ハンターは武器の技術に片寄りがちだがエルサは双方ともに技術を高め他の者の追随を許さないほどにまでその力をつけてきた。
そんな戦い方のせいかエルサの場合はモンスターの狩猟よりも人間相手の戦闘の方がより本気を出しやすい。
分かりやすく言えばエルサは対人戦闘に特化しているのだ。
相手が立ち上がる様子を攻めずに眺める。
深追いはしない、それは対人戦闘において定石。
「クソがっ………!」
相手は剣を構えると同時に連撃を繰り出してくる。
っ!軽い分連撃は得意ということね……!
それらを剣先だけを追わずに相手の手元、目、足、それらの動きから総合して次に来る攻め手、方法、手段を予測し対応する。
エルサは平然とこなしているが予測して対応するのは高等技術の1つ。それも対人ともなればモンスターほどパターン化されていないため難しくなってくる。
だがエルサは冷静だった。瞬きもせずに無駄な動きを無くし今は防御に専念する。
…………さすがに相手も強いわね……。
エルサは心の中で舌を巻く。
相手は盗賊ギルドの幹部。実力も相当の物だった。
だから今はひたすらに防御に徹する。
エルサもエルサで頭の中でスイッチを切り替える。
エルサも人間。無害の人には手を出したくはない。
……………相手は盗賊ギルドの幹部。手配書でも見たことある顔ね。
一瞬で判断した。
こいつは殺しても問題ないと。
その瞬間、エルサのスイッチが入る。
一瞬だけ連撃の間に間隔が出た瞬間に思いっきりバックジャンプ。相手はこちらの予想外の動きに目を見張るが警戒の目は解かない。
こちらは着地と同時に再び全力で相手の懐に突進を敢行する。
「こん………の!」
相手はそれに対し刀を振り下ろす。
…………集中。ここで揺らいだら自分が死ぬ。
私はその瞬間足を止め相手の剣を
ガキィッ!
「………んな!」
手元だけを狙い弾く。刀を飛ばす勢いでやったつもりだったけど向こうも実力者。そう簡単にはやらせてくれないか。
………けど充分!
相手は手元をやられ反動で1秒程度だったが硬直したその瞬間を狙い、相手の体を突き刺す。
プレートアーマーがあり狙える箇所は限定されていたが寸分違わずアーマーの隙間、左腕の関節部位を突き刺す。
「………っが!」
相手は一瞬の判断で関節に刺さった剣でねじ斬れるように無理矢理腕を棄てた。
土壇場での判断で迷わず腕を棄てる普通!?
グロい光景が目に入るがそれはハンターやっていれば当然の光景。
相手は片手で刀を振ろうとするが先程よりも遅い。
私は今度は膝蹴りを顎に食らわせる。
そして動きは止めず剣を逆手に持ち柄頭を相手の喉に押し付け床にハンマーを振り下ろすがごとく打ち付ける。
「…………ッ!」
喉を圧迫されてるせいか相手は声が出せずにそのまましばらくして気絶した。
本当ならば刃で喉を斬り捨てるという手段もあった。実際最初はそうしようとしていた。だが最後まで鬼になりきれなかった。
オウマがいたから。そんな光景なんてみせたくなかった。
これじゃ鬼神なんて呼ばれてる意味なんてないわね。
私的には呼ばれないほうが有り難いのだけれど、と心の中で呟く。
ゆっくりと顔を上げ自らの父親を正面から見据える。
そこには驚愕と焦りの表情があった。
そんな父親に剣の切先を向ける。
「お父様………いえ、マウル。全部説明してくれるかしら?それか……………死ぬ?」
私はそう言って口の端を吊り上げた。




