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32.囮部隊

「よっしゃあぁ~~~!かかってこいやぁぁあ~~~!」



現在位置大通り中間地点。

最初は厳しい戦いになると思われた戦場だが案外うまく好戦しています。主に1名が鬼気迫る顔で奮闘しているおかげで。



「お前か!リリィちゃんを痛めつけたやつはぁぁあ~~~!」

『何の話だよ!?見に覚えねぇ!』

「とぼけんな!リリィちゃんにあれやこれやしたクズは死してしかるべしだぁ!」

『理不尽なぁ!?』



ホントに鬼気迫ってますねぇ………。

リリィちゃんは別に痛めつけられてなければあれやこれやもされてないんですけど……ま、ここで何か言おうものなら巻き込まれそうなんで止めておきます。


そんな感じで戦いながら傍観者に決め込んでいると盗賊の一人に訴えられる。



『おい!そこのあんた!こいつを止めてやれ!』

「嫌です無理です遠慮します!そもそも盗賊のあなたたちに味方するつもりはありません!」

『誰の味方にも見えねぇから言ってるんだけど!?』



シークスくんはというと



「俺ならやれる………!そのためならばここにいるやつら殲滅してもいいくらいに………!」



どうやら僕たちは味方ではないみたいです。



「シークスくん!僕まで巻き込むのはやめてくださいよ!?これは命賭けてるんですからね!」

「ニムルよ………!これは命を賭けてるんじゃない………俺の欲望を賭けてるんだ!」

「なんて最低な理由で味方を殺るつもりなんですか!?」



だぁもう!オウマくんが変な焚き付け方をするからぁ!

おかげでSクラス並の実力を発揮してはくれてるんですけど見境ないのが困る!


シークスくんが無双(暴走)しているとキーンくんから合図を貰う。



「ニムル。そろそろ」

「ですね。いい感じに人数が増えてきましたね」



戦ってる相手、盗賊たちの平均クラスはGクラスといったところでしょうか。やはり最上級盗賊ギルドというだけあって下っ端でも強い………!



「シークスくん!そろそろ移動!」

「あ!?やる気か!?」

「あ、向こうに幼女の姿が!」

「うおぉぉお!!待ってろぉぉお!!」



シークスくんが全力疾走で僕が指差した方向に走っていく。

もちろんこの状況下ではありえない嘘。でもそれに気づいていないから扱いやすいです。



「キーンくん僕たちも!」

「おう」



追ってくる敵を応戦しながら下がっていく。

村長の家から遠ざかるように。

その真逆にあるダンジョンに近づくように。




――――――




「ちっ!さすがにこっちも人数多いな!」



現在位置大通りダンジョン近く。

地図通りダンジョン付近には盗賊が多く配置されていた。

それでもなんとか押しきられずに済んでいる。

なぜなら



『うお!?いつの間に……!』

「………それ傷つくのよ………?」



ティアラさんによる不意討ちアタック。

相手に気づかれないうちに懐に入り込み武器である剣、いやあれは蛇腹剣か。

連接剣や多節剣といった呼ばれ方もされている武器で刃部分を数珠状に変形させて鞭のように扱うことができる多彩性のある剣。

でも扱いが難しくて実戦で使う人はほとんどいないって聞いていたが………ティアラさん使えたのか。

なかなかハイスペックじゃないのか?影が薄いから分からないだけで。


でも影の薄さのおかげで戦況はなんとか押されずに済んでる。



「ジンクぅ」

「ん?どうしたレイル?」

「何かが来るよぉ」



後ろを振り返ると確かに誰かがこっちに向かってくる。

シークスたちが下がってきたのか?

それにしては随分と全力疾走だが…………



「うおぉぉお!待ってろ幼女ぉ~~!」



シークスぅ~!?



『向こうから誰かくるぞ!』

『知るか!やっちまえ!』

「くたばれやぁ~~~~!」



一瞬で隣に走り込んできたかと思ったらその勢いのまま背後の敵に剣を上段に構え



「ロリータフラァァシュゥゥウ!」



思いっきり振り下ろす。

敵はそのまま吹き飛ばされ倒れる。


なんて欲望丸出しの技なんだ。

というかあれ大振りすぎだ。向こうがシークスの勢いに呑まれてくれていたからよかったものの。



「え~と、シークスだよな………?」

「あぁそうだがなにか?」

「1+1=?」

「か弱き俺の幼女」

「足し算にすらなってないぞ!?」



ある意味シークスらしくて全然安心できない。

しかも俺の(・・)ってなんだ俺の(・・)って。



「それよりも俺の幼女は見たか!?」

「いないな!少なくともお前の幼女は見たことがない!」

「………………………………そうか。そうなのか………」

「露骨にがっかりした顔をしないでくれ!まだ戦闘中だぞ!」



ヤバい。シークスのテンションが一気に落ちた。

シークスの勢いで戦線を抑えてたところがあったがためにこれはきつい。

だが後ろを見るとニムルとキーンも来るのが見える。なんとかして戦況を維持しないと……!


そのとき、家と家の間にある小道から飛び出してくる影が見えた。

その影はその場にいた盗賊どもを薙ぎ倒す。



「んな!?」

「あ~~気持ち悪ぃ」



そんな呑気な声で出てきた男は…………



「お、暴れてるな」

「ガイジュさん!?」

「よ。スマンスマン。ちょっと遅れた」



少々大きめなゴツい斧を持ったガイジュさんが出てきた。

ガイジュさんなんでここに!?どうやって脱走したんだ!?

さらにガイジュさんと一緒に出てきた男もいた。



「いやぁ、自分的にはもっと早く行動したかったんだけど。この人がね、目覚めるまでずっと寝て………コホン、酔い潰れてたもんだから」

「ちょっと待て!誤魔化したつもりかもしんないけど誤魔化しきれてねぇ!」

「あ、騙されやすい盗賊!?」

「騙されやすい言うなよ!?」



ガイジュさんの隣にいたのはあの騙されやすい盗賊だった。

もう何がなんだか分からない。なんでガイジュさんと一緒にいる?

というかどうやってここまで来た。ガイジュさんさっき何をやった。



「え~とな、言いたいことはあるかもしれないが今は置いとけ。人数差で押しきられそうだから押し返すぞ」

「え、あ、はい」

「あれ!?ガイジュさんなんでここに!」

「ガイジュさん。生きてたのか」



ニムルとキーンも合流してきた。

あとキーン、縁起でもないこと言わないでくれ。



「おい!シークス、ニムル、キーン、嬢ちゃんは正面抑えとけ!俺と坊主でこっちやるからジンク、レイルは路地からの奇襲も警戒しとけ!あとは各自任せた!」

「いやガイジュさん!二人だけで向こうやるつもり!?」

「シークスくん、正面来る!」

「あ、言い忘れてたがリリィがお前のことを応援してたような」

「よっしゃかかってこいやぁ~~~~!」



おうおう。ガイジュさんシークスの扱い手慣れてるな。

でもこれなら正面は大丈夫だろう。


そしてガイジュさんも笑みを消して後ろから来る盗賊に斧を構え向き直る。

そして向かってきた盗賊に向かって全力で斧を振る………!



「本当ならもう2度と振るまいと思ってたんだが…………な!」



大きな風音を出し脇の鎧に押し当てる。

盗賊はそれだけで吹き飛ばされ周りの盗賊ごと倒される。


と、ヤバい!



「大振りなんだよ!」



盗賊がガイジュさんに向かって突っ込んできた。

だがガイジュさんはそれに臆することなく振り抜いた勢いのまま



「んな!?」



柄で殴り付けた。それにより盗賊はその反動で少し硬直する。

そこを



「ふんっ!」



騙されやすい盗賊が槍で突く。


つ、強っ…………。



「ジンク!レイル!横路地から来るぞ!」

「っ!」



見とれていたところにガイジュさんの一喝が入る。

慌てて横路地を見ると盗賊が何人か出てきたところだった。



「レイル!俺たちもやることやるぞ!」

「うん!」



最初は死さえ覚悟していたがガイジュさんの乱入もあり現状を維持するのに努める。

そうだ。俺たちはあくまで囮。

やるべきことは盗賊を引き留めるための時間稼ぎ。

だからエルサ、オウマ。あとはお前らが…………!



そのとき、正面のほうから爆発音が聞こえた。

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