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31.大反撃

「あんたがやりなさいよ」

「いや死ぬって!お前がやれよ!」

「私も嫌よ!」

「………………何があったらこんな殺伐とした感じになる?」



皆の元に戻ってくるとそこではエルサとシークスが譲り合い(押し付けあい)が繰り広げられていた。

いや元々殺伐だったけどね!現在進行形で。



「正面からやりあったら勝ち目がないということで囮部隊と襲撃部隊に分かれることにしたんだ」

「へぇーで、なんでこうなるんだ?」

「囮を誰がするかでなかなか決まらない」

「そんなことで悩んでんの?」



俺が発言した瞬間エルサとシークスが俺の方を鋭い目付きで見る。

え?なにか言っちゃいけないこと言った?



「あんたバカなの?」

「いやもう言われ慣れた」

「オウマ、まずは囮部隊と襲撃部隊に分ける場合どうしても襲撃部隊にも人員を割かなくちゃいけないだろ?」

「だな。なんか諭すような言い方が腹立つけど」

「襲撃部隊に盗賊が行かないように囮部隊が最大限引き付ける必要がある」

「無視された!」

「ここで問題だ。現状の戦力は向こうが100人、こっちはここからさらに人数が減る。その場合盗賊を引き付けた囮部隊はどうなる?」



なるほど。もし俺が囮部隊だったら………



「逃げる」

「それじゃ囮の意味がないだろ!?俺が言いたいのは圧倒的戦力差で………」

「そこだそこ」

「は?」



何言ってんのこいつ?みたいな表情で見られた。

俺が今から良いことを言ってやるから耳の穴をかっぽじってよく聞け!



「差があるのは戦力じゃなくて人数だろ?個々の実力じゃあ負けてねぇよ」

「よし囮の役は譲ってやる。お前が行ってこい」

「はいスンマセンっした!調子に乗りました!」



いくら実力があっても人数勝負になったら不利だよな。

特に俺が行ったら一人相手でも死ぬと思う。



「ちなみに敵の配置ってどんな感じなのよ?」

「こんな感じ」



シークスが見せてきた地図には現在の配置が描かれていた。

ここを出て右に走ればちょっとした大通りに出る。

なんでこの村にそんな通りがあるのかというと、ハンターの出入りがあるため、ということだそうだ。

そこをさらに南下していけば通りに接している村長の家に当たる。

ちなみに北上するとダンジョンに当たる。

別のルートを通れないこともないが盗賊の配置の多い。

避けたいなら大通りのほうがいいが………人数が集まるな。

これらを総合した結果を言うと



「なるほど死ぬな」

「あぁ死ぬ」



なぜかダンジョンのほうにも盗賊がそれなりの数配置されているがそんなの関係ない。

下手に突撃したら囲まれる。

これだと今のこっちの戦力から二人減らしても危うい。



「でも、一人ぐらいならいいよな?」

「いや正直危ないけどな」

「オウマ何が言いたいんだ?」



ジンクが首を傾げる。

確かにこれだとそのまま突撃したらやられる。

そのまま(・・・・)なら。



「人数は分が悪いが地の利はこっちにある」

「マウルもこの村の出身だけどな」

「でも動くのは盗賊だろ?ならこっちの優位はあるさ」

「……………オウマは何が言いたいの?」

「商売と同じだよ。普通の方法で自分が赤字になりそうならそれ以外の方法を使う。普通じゃなけりゃいいんだ」



俺は地図上で自分の考えを皆に伝える。




――――――




「な、なるほど………!」

「いや正直言ってギリギリの策だな。結果的にうまくいくってだけで」

「確かに個々の技量に頼りすぎじゃねぇかこれ?」

「うっ………やっぱりキツいか?」



自分で言っといてなんだが個人の力に頼るところが多い。

別の方法を考えるべきか………?



「私は別にいいわよ」

「エルサ?」

「オウマは金に関しては間違ったことはしないからね」

「へ?金?」



シークスが呆けた声を出す。

俺は全力で目を逸らす。

ちっ、エルサが気づいていやがった!俺が企んでいたことを!



「それに、盗賊には後悔させてやろうじゃないの。私たちハンターに喧嘩を売ったことを!」

「「「エルサ男らしい……………(男子一同)」」」

「私は女よ!?」



今のエルサはここにいる男たちの誰よりも男らしかった。




――――――




「なんとかうまくやっているな」



もう1度位置の把握をする。

今俺とナルゴでこの家を占拠、15人をダンジョン付近に配置、見張りを人質と武器のところに計4人配置、外から来るハンターの警戒に10人、残りの21人は疎らに村の各所に配置している。


向こうに動きがないことを確認すると、《滅す獣》(フラスト)の幹部ナルゴが疑問の声をあげる。



「マウル、なんでこんな配置にした?」

「というと?」

「ハンターの出入りの警戒にそれなりの人数用意したのは分かるがダンジョン付近にそんなにいらないと思うがな」



この配置を見れば誰もが思うであろう疑問。戦力の約3分の1も配置しているところから疑問を持つのは当然だと思われる。

だが、



「いや、これでいい。むしろ足りないくらいだな」



そこは絶対に数は減らせない。

なぜなら、そこが最終目標であるのだから。

そのために村を裏切ってまでこんなことをしているのだから。



「どういう意味だ」

「君には話されていないようだな?可愛そうに………」

「哀れむような目で見るなクズ。あとで脅迫でもなんでもやって問い詰めてやるぞ」

「どうぞご勝手に」



ナルゴの言い分は完全に無視して自分の父親でありこの村の村長でもある男に向き直る。



「マウル、一体どういうつもりじゃ?」

「お父様、しょうがないんだ。これはこの世界に関わる事態なのだから」

「……………わしにはお主が言いたいことがわからん」

「でしょうね。だがいずれ分かると思うよ?」

「そうか。マウルは結婚するのか」

「………………すみません。どう考えてもそこには行きつかないんだが」



未だにお父様の思考回路に追い付けない時がある。

これが年齢の差というものだろうか。



「すまんな………。マウルの気持ちに気づいてやれずに………」

「やめてくれ!私はまだ結婚するつもりはないから!まるで決定事項のように言わないで!」



ダメだ…………。これ以上話すのはよそう………。

それにそもそもお父様とまともに話すつもりはない。

村の皆にもだ。

今はまだ知らなくていい。

この村の人々には関係のないことだ。

いや、正確に言うならば最終的には関係のあることだが。

ある一人の危険分子・・・・を除いて。


そんなことを話していると誰かが乱入してきた。

恐らく下っ端だろう。



「ナルゴさん!やつら動き出した!」

「は?どういうことだ」

「やはりか。エルサならジッとしてはくれないと思ってたからな」

「あぁ、そういうことか。つまりお前は元々分かっていたわけだな?やつらが脱走することを」

「ハンター相手にそううまくいかないことは身を持って知ってる」



ダンジョンには近づけさせなければ特に問題はない。

各所に人員を配置しているし、ダンジョンの周囲にはより警戒をかけている。そもそも人数差で圧倒している。

時間の問題だろう。



「まあ放っておけ。優先順位はわかってるよな?」

「いやそれどころじゃねぇって。結構マズいことになってる。押されてるんだよ」

「はぁ?押されてるだと?」



ナルゴが疑問の声を出す。

俺も同じ気持ちだ。これだけの人数差ならばSクラスのハンターでない限り押されないはずだ。

そんなハンターはいなかったはず。



「ちっ…。周りにいるやつらも呼んどけ。………まぁ言うまでもなく追ってるか」

「盗賊はそういうことに目がねぇからな」

「お前も同じだろう」



こういうところは扱いやすくて助かる。

自分も盗賊だが。


下っ端が向こうに伝令を伝えに行った。

さて、向こうも動いた。

このときをずっと待ってた。これで、やっと………!


だが違和感がある。何がと問われると明確なことは言えない程度に。何か仕組まれてる…………?



ドゴォン!!!



そのとき目の前で爆発が起こった。



「はぁ!?なんだ!」



ナルゴが驚きの声をあげる。

俺は目の前で起こったことを判断する。


爆発!?奇襲か!いや向こうにはこんな短時間であそこを突破する術はないはずだ!それならあれは誘導で他に分かれたのか!?いやそれなら他の盗賊と鉢合わせになってるはずだ!いったいどうやって………!?


目の前に穴の開いた屋根(・・)から影が降りた。

着地する音。爆発の反響が響く音。

それらが交わる中………………二人が立ち上がる。



「痛ぁぁあ~~~!」

「うるさいわね!男なら少しは我慢しなさい!」



いや一人は足を抱えて踞っていた。

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