29.想像力
「よし、腕も自由になったことだし脱出の作戦を練るか」
まずシークスがそう切り出した。
正直言って俺は緊張している。
今俺たちはいつ殺されてもおかしくない状況。
こんなこと日本にいたときはなかった。
……情けないな俺。今の俺には皆を信じることしかできない。
「まずは現状の把握をしたいわね」
「盗賊がどれくらいいるか、村のどこに配置されているのか」
それらの話を聞いて少し疑問を持つ。
「え~と、この状況を打破するためにはどういうことをしたらいいのかな?」
「方法は2つあるわ。1つ目は盗賊の全滅。でもこれは現実的に厳しい。戦力差があまりにもありすぎる。だから2つ目の方法をとる」
「大将の首をとる、だな」
「えぇ、普通盗賊は上下関係はたいして成り立ってはいないけど今回は別」
その言葉を聞きさっきのリーマウルと盗賊の会話を思い出す。
あの盗賊に対する言葉遣いは………
「少なくともリーマウルが上に位置している?」
「そう、やっぱり大規模盗賊ギルドともなれば指揮をとる人とか必要になるから今回はそれがありがたいわ」
「だからリーマウルを捕まえればOKってわけ」
「お前いつのまにその呼び方浸透した?」
知らないうちにシークスにまでこの呼び方が浸透していた。
影響って受けるもんだな。
「そういえばあいつら《滅す獣》ってどんなギルドなんだ?」
「「「盗賊」」」
「今までの会話でそれに気づかないやつはいないんじゃないかな!?」
なぜか皆異口同音に同じセリフを口にした。
俺そこまでバカだと思われてたの………?
「まあ盗賊ギルドの中でも有名なところね。大規模なギルドで活動範囲も広い面倒なやつらよ」
「オウマの脳みそよりも遥かに大きいよな」
「喧嘩売ってんのかワレェ!?」
「落ち着け!語調がおかしくなってる!」
よし決めた。盗賊は俺が滅ぼす。
フラストだかフラスコだか知らんが俺に喧嘩売ったことを後悔させてやる!
「で、なんでそのフラスコがこんな村に?」
「《滅す獣》な」
「《熱した獣》か」
「全然違うわ!」
うるせぇ。
ようするにフラスコ並に存在価値が無いんだろうが。
いやフラスコよりも存在価値は低いな。
フラスコは理科で使うからな。
「でも確かにおかしいよな。レイル、ここ最近《滅す獣》は目立った動きはあったか?」
「そんな動きはぁ、特にないわねぇ。何か裏で準備してるのでは、と噂されてるくらいよぉ」
「ジンク。なんでレイルに聞いたんだ?」
「彼女の自慢になるかもしれないがレイルは情報収集には長けているんだ」
「もっと自慢していいのよぉ」
目の前でイチャつくリア充。
ケッ。盗賊だけじゃなくてリア充も滅ぼそうかな。
どうでもいい人のどうでもいい特技を知ったところで話を戻す。
「まぁそこらへんは本人どもに聞けばいいだろ。次だ次」
「随分とザックリしてんなぁ……」
興味ないからな。ブサイクどもの話なんぞ。
今度はシークスの代わりにジンクが仕切る。
「敵の戦力の把握をしたいな。それによって作戦内容も変わってくるし」
「でもどうやって?」
皆が悩み出す。
ふむ………。やっぱりこういうときは
「盗賊を生け贄に捧げる」
「「「…………………………」」」
「言い方が悪かったな!スマン!」
こんなことしてるからバカと呼ばれるんじゃないだろうか。
「俺が言いたいのは盗賊を取っ捕まえて吐かせるって感じ」
「まぁそれが一番ね」
「見張りを殺ればいいか?」
「殺るな。捕まろ」
よかった。どうやら俺の案は間違ってはいなかったみたいだ。
セーフ。バカにされちゃたまったもんじゃない。
「それなら私に任せて」
「イーナがやるのか?」
「うん」
力強く頷くイーナ。
これは期待できそうだ。
――――――
「………ハッ寝てしまった」
眠気がなくなり頭が覚醒する。
俺はこのギルドの下っ端だがやはりこういう仕事はめんどくさい。
こんな見張りなんて誰もやりたくないだろう。
まずそもそも盗賊ってのはこんなことしない。
全てはあの男が…………確か世界の垣根を越えるだかなんだか言ってたな。それで上層部で動きがあるとか同僚の間でいろいろ噂されてるけど正直言って興味がない。
はぁ……さっさと殺しちまえば楽だろうに………。
と、そのとき壁の向こうから騒ぐような声が聞こえた。
最初も聞こえたけどめんどくせぇ。無視しよ………。
『ちょっとやめてよ!何する気なの!』
『いいじゃねぇか。お前もそのつもりだったんだろう?』
『わ、私はそんなつもりは……………!』
『ほら、周りのやつらも協力してくれるぞ?』
『だから恥ずかしいんじゃない!』
『ゴメン。もう我慢できない。いくぞ』
『もう……………』
無視はよくないな。ここは見張りとしての生命をかけて特攻すべきだ。
見張りとして与えられた任務は遂行すべきだ!正義は我にある!
行くぞ!
勢いよくドアを開ける。
「お前ら!静かに………」
「お前が静かにしろ」
このあとのことを俺はよく覚えていない。
ただ頭が痛むことはよく覚えていた。
――――――
「………ふう。作戦の第一段階終了」
「俺、すんごい恥ずかしいんだけど…………」
「変態」
「イーナ!?俺はそんなつもりはなかったからな!?」
「クズ」
「エルサはそれ酷くね!?もはや変態よりも格下げされとる!」
エルサはこっち側だよな!
いくら騙し討ちするためとは言えあのセリフは死にそう………。
「てかなんであのセリフなんだよ!別に騒ぐだけでよかっただろ!」
「今までにも結構騒いでいたのに見張りに反応がなかったからな。恐らくめんどくさがってることが容易に想像ができたから興味がありそうなセリフにした」
「見張り死ね!」
ちなみに行動メンバーは、
陽動隊(恥ずかしい会話)、エルサ・俺。
攻撃隊(気絶させる)、シークス。
といった感じ。
ちなみに陽動隊はジャンケンで決まった。
あのときパーを出していれば……………!
というか会話内容おかしいよな。
衆人環視のもとってかなりの恥辱行為だろ。
「よし、ここからはイーナ頼む」
「ラジャー」
イーナが盗賊の首根っこを掴み奥の部屋に連れ込んでいく。
「これからやることが容易に想像できるのは俺だけ?」
「大丈夫。私もよ」
「それが想像できること自体が大丈夫だと思えねぇよ!まあ俺もだけど」
雑談していると盗賊と思わしき人物の叫び声が聞こえる。
『………ハッ。俺はここで何を…………』
『グアァぁぁあ!やめろ!やめてくれ!』
『死ぬ!いっそのこと俺を殺してくれぇぇえ!』
「「「……………………………」」」
20分後
「私はクズです………。生きてる価値はありません…………」
もはや盗賊の面影が残っていなかった。
盗賊よ。キャラが変わってるぞ。
同情はするけど。
「エルサちゃん、いったい何があったの?」
「キュアさんとリリィちゃんは知らなくていいことですから」
「えぇ~~~知りたいよぉ」
キュアさんとリリィちゃんはエルサがしっかり耳を防いでおいてくれたみたいだ。
子どもの教育に悪いしキュアさんの心を汚したくないからな。
「聞き出せたか?」
「うん」
「自白剤使ったんだろ?どうせ」
こいつの拷問スキルは凶器以外の何物でもないからな。
なめてかかると痛い目に合う。
「自白させるのにいる?」
「そっすか………」
なんのための自白剤だろうか。
まだまだ俺はなめていたらしい。盗賊が可愛そうです…………。
というかまともな道具はなかったよな?
イーナのやり遂げた風の満面の笑みが眩しい。
「地図がある」
そう言ってイーナは地図を取り出した。
床に広げるとどうやらこれは《ミラノ》の見取り図だと思われる。
「盗賊たちはこことこことここにいる」
イーナが指したのは3ヶ所。
森に続く道に1つ。大通りに1つ。ダンジョンの近くに1つ。
これは全て指揮官による配置だろう。
「そしてマウル及び幹部がいるのはここ」
そう言って示したのは………村長の家。
「なるほど。わかりやすい配置で助かる。あとは戦力差がどれくらいかだが…………」
「50人はいると思う」
「ちっ。もう少し人数減らせよ。村1つ襲うだけじゃねぇか」
確かにシークスの言う通り少し多すぎる気がする。
なにかあるのか………?
ま、この村にはハンターがいるからかな?
「となると攻める手段は大将をとる、だな。盗賊を全滅させるにははっきり言ってこれは無理だ」
「あ、1つ言い忘れてた」
イーナが思い出したかのようにはっきりと告げる。
「村長がマウルに捕まってる」
「「「!?」」」




