27.空元気
「オウマくん。さすがにそれは人に失礼ではないかね?」
とうとうマウリーマンにまで注意されてしまった。
空気が読めなかったことは謝ろう。
でも………言ったことは後悔してない………!
「お父様、いったいこれはどういう真似ですか?」
あ、とうとう無視された。
できれば俺の思考に突っ込んで欲しかったのに。
こう……後悔しろよ!的な感じで。
だが俺の気も知らないまま話は進んでいく。
「見たままだ。これは争いだよ」
その言葉を発した瞬間寒気が走る。
俺の脳が告げていた。
これは冗談なんかではない。
紛れもない殺し合いだと。
「まあもっとも、争いというよりは一方的な占領という形になってしまったがね」
そう言って怪しげな笑みを浮かべる。
あれは見たことがある表情。
そうだ、村長の家でだ。
あのときあの表情を見てからできるだけ関わりたくないと常に思っていた。
あの心の底は読ませない態度、口調は丁寧だが決して自分を下に見ず常に上にいるかのような言動、そして普段は偽って相手に見せる表情。
俺の苦手なタイプだ。
「君たちにはしばらく大人しくしててもらうが、まあいずれ………覚悟はできてるだろう?」
再び訪れる寒気。いやこれは恐怖か。
こいつのあの目には戸惑いがない。
こいつ……本気だ。本気で殺るつもりだ。
「あ、そうそう君はここの担当離れてくれ。代わりの者を呼ぶから」
そう見張りの人に声をかけていた。
ちっ。騙されやすい性格を利用しようとしてたことがバレたか。
そしてマウリーマンは去って行った。
――――――
「で、どうする?」
シークスがそう呟いた。
そう言われたらこう答えるしかない。
「脱出のついでにマウリーマンの始末」
「ついでが物騒だな!そしてそのあだ名はやめろ!なんかやる気失う!」
えぇ、ダメ?
自分的にはセンスあるあだ名だと思ったのだけれど。
「それじゃリーマウル」
「そのあだ名の由来を聞きたいけどまあまだマシになったな」
ちなみに例のごとくサラリーマンとマウルを組み合わせただけ。
本名では言わない。なんか嫌だ。
「まずは人数確認と脱出計画だな。このままジッとしてられっか」
「おぉ!シークスがまともなことを言った!」
「それはどういう意味だ!お前だけだぞそんなこと」
「「…………………(目を合わせない)」」
「そんなこと、なに?」
「うおぉい!?キーン、ニムル!その反応だと俺の説得力がなくなるんだけど!?」
キーンとニムルは必死に目を合わせないようにしていた。
まあ当然だよね。
あのシークスがリーダーシップを発揮するなんて。
「まあ意外かもしれないけど一応こう見えてもシークスくんはギルドの部隊長ですから」
「ニムル、そのセリフはフォローしてるようでフォローする気のないように聞こえる」
「部隊長って?」
「あ、僕たち《嵐の鳳凰団》というギルドの所属なんですけど」
む、ギルドだと?
オンラインとかでよくあるやつと同じ系?
というかこのノリは漫画やアニメパターンだよな。
よし、そう思おう。
「そのギルドの部隊長なんですよ。シークスくんは」
「そのギルドの全体像が見えないのだが」
「トップにギルマスがいて、その下にサブマス、そして部隊長、隊員という役割が設けられてるんです」
「へぇ~どこのギルドもそうなのか?」
「いえ、うちのギルドくらいですよ。まず人数が多いですから。人数だけで言えばトップクラスです」
へぇ~~~人数が多いとかめんどくさそうだな。
…………………それよりも
「ニムル。話が逸れてる」
うん。キーン正解。
「あ、ごめんなさい。それでシークスくんは幹部みたいなものだと思ってもらえれば」
「なんだと!?」
「やっとわかったか!どうだ凄ぇだろ!」
胸をはるシークス。
こいつ………!案外凄いんだな。
そういえば2層とは言え大量のモンスター全滅させてたもんな。
なんということだ。
「……?エルサどうした?」
目の端にエルサが小刻みに震えてるのが目に止まる。
俺が話しかけても反応がない。
ふむ。試してみよう。
「あんなところにU.F.Oが!」
「U.F.Oってなんだ?」
「うっせぇシークス!お前には聞いてねぇ!」
「キレられた!?」
エルサには反応がない。
ネタがちょっと古かったか?それなら今度は。
「あれ?ここにうまそうなシュークリームが」
「オウマよ。それはさすがに状況的に無理があると思うぞ」
「黙ってろジンク!リア充は消えろ!」
「個人的な感情が混ざってないか!?」」
ちなみに同棲しててわかったのだがエルサの好みはシュークリーム。
なんでこの世界にシュークリームがあるのだが不明だが異世界だから、と納得しよう。
ちょい無理があるけど。
と、冗談はこれくらいにして図星をついてみようか。
「父親が犯人だと分かって悔しいのか?」
「「「…………………」」」
あ、エルサの小刻みの震えが大刻みの震えになった。
皆の衆。人の傷を抉ってんじゃねぇ、という顔で俺を見るな。
まあ今回は俺が悪いか。だから
「だったらさっさと白黒つけてやろうぜ」
「…………………」
エルサの震えが止まった。
うだうだ悩むのは嫌いだ。
そんなもん、あとで悩んどけ。
「自分の父親が間違ってないって思いたいなら顔をあげろ。悩んでも疑うことしかできねぇぞ。それともなんだ?怖くなったか?」
皆がまた何を……という顔をするがエルサは顔をあげた。
「…………………当然」
その顔に迷いはなかった。
うし、戦力確保。
「その一言が余計だと思うわ」
「俺しゃべったか!?」
バカな!口に出してなかったハズ!
そんなわけな……
「なら俺が何を考えたか言ってみ?」
「あんたは戦力にならないから隅っこで踞ってていいわよ?」
「おいエルサ。オウマは真に受けるタイプだから言葉は選んどけ。あの隅っこで踞ったやつをどうにかするのめんどくさいから」
いいさ、どうせ俺なんか………!
「よし、まずは作戦会議な。もちろん小声で」
「あれ!?スルーされた!できれば慰めて!」
エルサが戻ったようでなにより。
でもできれば誰か反応してくれると嬉しいなぁ!
あとでニムルに慰められたのが切なかった。
人がいる中だったから何も指摘はしなかったけど、
エルサ、お前無理してるだろ。




