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26.襲撃犯

「オウマ、お前さ。いつになったら人並の知識を身に付けんの?」

「うるせっ。だから勉強教えてくれって言ってるだろ。テストのために」

「追試のな」



この前のテストで見事に赤点をとった俺は明日追試があるために俺の家で浩介に勉強を教えてもらっていた。



「浩介。ここ分かんないんだけど」

「どれだよ?…………て、ちょい待て」

「なんだ?」

「『立憲主義の柱を3つ答えなさい』」

「『氷柱』、『火柱』、『大黒柱』」

「正気だろうな!?」



何か文句でも?

特に最後の答えは自分でもドヤ顔しそうだったんだけど。



「立憲主義ってわかるか?」

「何それうまいの?」

「まずはそこから覚えような!」



納得いかないな。



「知ってるか?人生のうえでこんな勉強はちっぽけなもんだぞ?」

「教えろって言ったのお前だよな!?だいたいお前はな………」




――――――




「だぁもううるせぇ!」

『『!?』』



周りで驚く声が聞こえた。

周りを見るとエルサや他の人たちが口に指を当てていた。

静かにしろって意味か?



「て、あれ?ここどこだっけ?」

「あんたうるさい!少しは静かにできないの!?」

「エルサ、お前も充分うるさいぞ」



あぁ、ここ俺ん家じゃないや。異世界だったな。

えーと確か、キュアさん相手に愚痴ってて、ガイジュのおっさんが乱入してきたけど連行されて、そのあとなんかあって、



「あれ?なんだっけ?」

「まぁあんたが真っ先に殴られて気失ってもんね。覚えてないのも無理はないわ」

「エルサはそのあと喧嘩売って2番目にやられたけどな」

「何か言った?」

「いんや、な~んにも」



エルサが小さく溜め息を出す。

て、あれ?



「シークス、お前もいたのか?」

「おうよ。見事に捕まった」

「へ?捕まった?」



自分の体を見るとなんと縄で縛られてました。

道理で動けないと思った。



「現状を簡潔かつわかりやすく頼む」

「やられた」

「OK。わかった」

「嘘つけ!全くわかってないわよね!?」



まぁその言葉だけで分かれ、というのは無理があるわな。



「まずあんたが気を失う前から説明するわね」




======




「エルサ。お前ハンターなんだよな?」

「そうよ」

「それじゃあさ、今度戦闘技術を教えてくれ」



は?と思い隣を見ると懇願するような目をしたオウマがいた。


あのお金しか頭にないオウマが?



「なんで?」

「皆に迷惑をかけないように最低限の力だけでも欲しい。じゃないと俺が納得いかない」



へぇ~と思った。


そういうことに関してはめんどくさがる傾向にあるオウマがいったいどんな風の吹き回しだろう。

て、さっきそういえば宣言してたもんね。

早速行動に移すとは感心感心。



「それなら………」



カラン


私が口を開くと同時にドアが開いた音(鐘)がした。

そっちを見ると少し大柄な男が入店してくる。



「いらっしゃいませ」



キュアさんが声をかけるが男は無視する。

その態度に対してついムッとなってしまう。

そして男がこっちに向かって歩いてくる。

といっても私とオウマが座っているのはカウンターなのでおかしくはないのだが。

そしてオウマの隣で止まる。



「で、エルサどう」


ゴッ



オウマの言葉は続かなかった。

男がオウマの後頭部を殴ったからだ。



「オウマ!?」



声をかけるが反応はない。どうやら気絶したようだ。

慌てて私が立ち上がると同時に男が声を張る。



「この村は俺ら《滅す(フラスト)》が制圧した!反抗はするなよ!こいつらがどうなっもいいならなぁ!」



んなっ………襲撃!?


さらにドアから数人の男たちも入ってくる。

そいつらの手には人質と思わしき人が。


くっ!人質がいるんじゃ下手に手立てが………!



「すまん!捕まっちまった!」



人質と思わしき人が声をあげる。

あれ?この声って………。

改めて人質を確認する。


人質 →シークス


うん。問題なし。



「あんたらくたばりなさい!」

「俺見捨てられた!?」



これはしょうがないのよ!儚い犠牲は付き物!

犠牲に臆してたら勝てるものも勝てない!


まずは正面にいる男の顔面に拳をめり込ませる。



「グボォ!?」



なんか変な悲鳴を発してたけど無視。

1発で仕留めたあと他のやつに目標を定める。



『ちっ。使えねぇ人質だな!』

『全くだ!』

「なんかボロクソ言われてる!?」

『おい、女。さすがに素手でやれると思ってないよな?」

「くっ………」

「あれ?人質無視ですか?」



男の一人が剣をこっちの首に向けてくる。

せめて手元に武器があれば………!




======




「て、感じで私も気絶させられたわ」

「エルサ大丈夫か?」

「少しは俺の心配もしてくれると嬉しいなぁ!」



なるほど。確かに文字通りやられたというわけか。

シークス?心配しなくても生きてるなら平気だろ。



「付け加えるならそのあと押さえつけられ、ここに押し込められたってとこだな」



改めて周りを見渡すとどうやら場所は変わらず《クックル》のようだ。

ただ、机や椅子が転がっておりまさに嵐が過ぎ去ったような感じになってる。



「シークスくんが寝惚けてなければちゃんと対処できたんですけど………」

「ニムル?俺のせいで捕まったとでも言いたげだね?」

「『あれ?父さんいたの?』」

「言うな!黙っとけ!」



どうやらニムルとキーンも巻き添えをくらったみたいだ。

たく、いい迷惑だなホント。


服の裾が引っ張られた感覚がした。

そっちの方を見るとそこにはイーナがいた。



「イーナもやられたのか?」

「うん。殺られた」

「ちょっと待て。発音がおかしくないか?」



イーナはこんな状況でも相変わらずぶれてなかった。

頼もしいやら頼もしくないやら。



「てことは全員ここに押しやられたのか?」

「いや、ここにやられたのは一部だけだな。人数が足りない」



改めて周りを見渡して誰がいるのかを確認する。


俺、

エルサ、

シークス、

ニムル、

キーン、

イーナ、

リリィ、

ジンク、

レイル、

キュア、

他知らない人1名。


結構知り合いが多い気がしたが偶然だろう。



「オウマお兄ちゃん大丈夫だった!?」

「リリィもいたのか。大丈夫か?」

「はぅ……。オウマお兄ちゃんに優しくされた私の心は弱っています」

「無事なようでなによりだ」



というより元気になりすぎて知識の幅が広がっている気がする。

とりあえずリリィを襲おうとしてエルサに殺されかけているシークスは放っておいて次の確認。



「ジンクもいたのか」

「あぁ、だがタイミングが悪かったな。まさかこんなことになるなんて」

「ホントよぉ。折角の狩猟デートがぁ」

「なにその殺伐としたデート!?そんなことより現状を確認しようぜ!」



捕まっている身のはずなのにこのラブラブっぷり。

こいつらには勝てねぇわ………。


と、そのとき誰かがドアから入ってくる。



『おい!お前らうるせぇぞ!』

「「「うるせぇ!黙ってろ!」」」

『………………お前ら自分の立場わかって言ってるよな………?」



ドアから入ってきたのは襲撃グループの一人と思われる。

皆さん気の強いこったで。


エルサが強気に交渉するかのように言う。



「《滅す(フラスト)》って盗賊ギルドよね?何の目的でこんなことしてんの?」



交渉じゃなかった。一方的な要求だった。

てか襲撃してきたの盗賊なんだな。ということは目的は金銭類?


すると俺の思考を読んでたかのようにエルサが言い募る。



「盗賊がこんな大規模で村丸ごと襲うなんて今までに前例がないわ。だからおかしいのよ」

「へっそんなこと誰が教えるかよ」



まぁですよねー。教えるバカはいないですよねー。



「それならいったい誰が指揮をとってるの?村を占拠するなら人数が必用になるから必然と指揮官がいると思うのだけれど。それか……………村にすでにスパイがいるとか」

「はっ言えねぇな」



人質の要求を飲むやつはなかなかいないと思う。

でもそれでも負けないのがエルサであって



「いいから教えなさい。実は私その人と友達なのよ。だから早く会いたいなーと」



友達なのにその人のことを教えろって矛盾してると思わないか?

こんな嘘信じるやつなんて



「あ、そうなのか?それなら早く言ってくれよ。俺らにここを襲うよう言ったのが幹部のゼロさんで」



いたぁ~~~!信じたやついたぁ~~~!

マジで!?今ので信じるんだ!

てか人質の言葉を丸飲みにするなよ!

ほら!騙した本人も驚いてるぞ!

こいつ本当に盗賊か?


だが盗賊が言葉を続ける前に再びドアが開く。



「君、それ以上言うのはよせ。騙されてるぞ」



部屋に緊張が走る。

先程までとは違う別の空気。

まだ一言しか言ってないのにそれだけでヤバい、と思わせるには充分だった。

ゆっくりと入ってきた人を確認する。


あれ?なんか見覚えあるような



「あ、マウリーマン」



まさかのマウリーマンだった。



「「「………………………………(人質一同」」」

『『『………………………………(盗賊一同)』』』

「……………オウマ、この空気でそのあだ名はちょっと」



エルサに諭された。

心の中でのあだ名をつい言ってしまったと思ったときにはもえ遅かった。

ここから《ミラノ編》は終盤に差し掛かります。

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