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25.意気地

「第3回!合成検証会ぃ~~~!」

「うるさい!」

「…………………イエッサ~」



ダンジョンに行った翌日、第3回合成検証会開始。

昨日はそのあとどうしたかと言うと、死に目にあったせいで何もかもやる気を失い露店を開くことはなかった。

もう絶対モンスターとは戦わない。絶対に。

あれだぞ。そこらへんに俺TUEEの主人公がいれば別ですよ?

孫○空だったりサイ○マだったりとそういうチート的存在だったらこんな苦労はしないだろう。

でも俺はあれだ。合成するだけだから。ステータス的に成長することもなければチート能力があるわけでもない。

俺神様に嫌われてんなー。



「ここに《爆魚》とエルサから貰った《穿狼革》を並べてっと…」

「約束忘れないわよね?」



約束というよりは取引だろう。

《穿狼革》を提供するかわりに【ソーフル】を寄越せという利害一致的な。

だがここで問題が発生する。単純な金不足。

最近は露店を開けない日が増えたため収入が安定しなさすぎる。

そのうえイーナにあげすぎた。さすがに数十個は多かったな。

一応素材がないわけではないがもう数が足りない。

だから今日はしっかりと露店をやらなければならない。



「さて、そんじゃ合成開始」



素材をいつも通り配置し合成する。


ピカッ


完成。手馴れすぎて感動もしなくなってきた。

完成した形はというと…………



「え、なにこれ?」

「こ、これは…………!」



できたのは分かる人には分かるだろう。

グレネードそのものだった。


キタァ~~!これ絶対あれだろ!爆発チートだよな!?

そうだよな!?俺の時代だぜぇ~~!


なにかしら爆発する物だということは説明ですでに分かっていた。

だからこれは期待できると踏んでいたが、これは想像以上。

グレネードなんて迫力ありすぎ。



「これなんて言うの?」

「【エクセード】って言うんだ。使い方は…………見た目でなんとなく分かるな」



きっとこのピンを引き抜けば爆発するのだろう。

そうに違いない。



「私にはさっぱり分からないんだけど。爆発するって言ったっけ?」

「そ、やっぱ俺には剣は合わねぇなぁと思ってたんだよな。やっぱ俺にはこういうのが合ってる」

「どの口が言うか」



俺は【エクセード】を手に持ち家を出ようとする。

すると、なぜかエルサに止められた。



「どこに行こうとしてるのかしら?」

「いや、折角だからモンスター相手に実験をって痛い痛い痛い痛いって!耳引っ張んな!割れる!」

「そこは引きちぎれるって言うのよ!」

「グロいわ!」

「そもそもダンジョンはハンターしか出入りができないところなの!さらに昨日あんなの見せられたらとてもじゃないけど行かせられないわ!」

「いや、これさえあれば無双できるぞ?」

「知るか!」



そう言ってエルサに耳を引っ張られ(痛かった)ついた先は森の中。

目の前にはそれなりの大きさの岩がある。



「やるんだったらここで」

「ちぇ、わかったよ。これでグレネードがどんだけすごい物か見せてやる」

「グレネードってなに?」



エルサのセリフは聞こえなったことにして俺は【エクセード】を構える。

そして、目の前の岩に狙いを定める。

ピンを引き抜き、岩に向かって投擲する。


ドゴォ!



「よっしゃ!どうだ………てあれ?」



爆発した結果、残ったのは表面に罅が入った岩。


あれ?罅だけ?なんていうかこう……クレーターができるくらいの爆発が起こると思ってたんだけど。

半壊すらしてないじゃん。



「なるほど。合成の割合ってわけね」

「…………………どういうことだ?」



ジト目でエルサを見る。

エルサがあくまで推測ね、と前置きすると説明しだした。



「あんた今の【エクセード】には《爆魚》1体分だけ合成したでしょ?」

「だな」

「だから1体分の爆発だけしたってわけ」



…………………なぬ。


つまりエルサの言うことが本当ならば今の小規模な爆発が《爆魚》本来の爆発の規模だという。

まあ確かにユルドの鎧には焦げ目がついた程度だったけど、まさかこうくるか。



「こんなんじゃ1発で倒せるのブラバットやマウッドあたりの雑魚くらいじゃないの?」

「そんなバカなぁあ!?」



思わず膝をついてしまう。


そ、そんなの無双どころかクズ同然じゃないか!

【エクセード】1個つくるのにかかる分を考えるとこれはひどい。



「そ、それじゃ俺の無双は…………」

「少しは武器を取り戦うという選択肢はないのかしら?」



そんなのあるわけないだろ。

こちとら高校生だぞ。武器を持って戦えとか兵士じゃあるまいし。

まともに動けるわけがない。



「余った《爆魚》どうしよう…………」

「合成の割合《爆魚》だけ多めにして効果を高めたら?」

「おぉ!その手があった!……………あ、でも数が割に合わないか」



いい案とも思えたが《爆魚》1体分であの爆発だと最低5、6体。理想が10体分だろう。

消耗品である【エクセード】で《爆魚》をいちいちそれだけの量使ってたら全然足りない。

いざというとき、ぐらいにしか使えないな。



「爆池の中の《爆魚》って成長速度どのくらい?」

「1ヶ月で2、3体。だから諦めなさい」



まともな爆弾を作ろうと思ったら5ヶ月いる。

結論から言おう。

無双は無理だ。



「コンチクショオォ…………!」

「みっともないから地面に手をついて歯をくいしばって項垂れるのやめなさい」




――――――




「キュアさぁ~~~ん。聞いてくださいよぉ~~」

「はいはい、どうしたの?」



第3回合成検証会が終了し、いつまでたっても機嫌を治さない俺を見てエルサが慰めにと《ミラノ》唯一の料理店クックルに足を運んだ。


カウンター席を陣取り、俺はこの料理店の看板娘であり店長でもあるキュアさんに愚痴る。

こちらは金髪で期待を裏切らず美人。おっとり系で親しみやすく村の皆からも親しまれている、とのエルサ談。

いかにもお姉さんの雰囲気を出していて、恐らく俺の推測では俺より2、3程度年上だろう。



「知識皆無、チート無し、戦闘力0の俺には何が残るって言うんですかぁ~~~?」

「あんたいい加減にしなさい。キュアさんが困ってるじゃないの」

「まぁまぁエルサちゃん。男の子には不満を言いたいときもあるのよ」



エルサが俺を咎めるように言うが、キュアさんは少しも不満を漏らさない。

キュアさんいい人や……………。


するとそんな俺の愚痴を聞きつけある男も乱入してきた。



「おい、オウマ。それを言うなら俺だって言いたいことは山程あるぞ」

「あら、ガイジュさん。いらっしゃい」

「ガイジュさんも何か言ってやってよ」

「キュアぁ~~聞いてくれぇ~~。ベルが怒ってくるんだ」

「あんたも愚痴か!」



ガイジュのおっさん、あんた絶対酒飲んだろ。

いつもの威厳が失われているぞ。


ちなみにベルさんというのはガイジュのおっさんの奥さんで年齢を感じさせない美しさを醸し出しているお方。

ガイジュのおっさんの場合はつまるところ奥さんの尻に敷かれてる状況で奥さんには頭が上がらないそうだ。



「俺は何も悪くないんだぞぉ!?ちょっとだけハンターから金をぼったくろうとしたり文句を言ったガキを殴っただけなんだからなぁ!?それだけで怒るんだよぉ」

「それ明らかにあんたが悪いわよね!?客に迷惑かけすぎでしょ!」

「社会の厳しさを教えてやってるんだ!授業料をとってもいいくらいなんだぁ!」

「無理矢理な理由をこじつけて自分を正当化しない!それとオウマはその手があったか……という顔をするな!ただの犯罪よ!?」



その手があったか……。



「そういえば犯罪ってあんの?」

「そうね。街はそういう法律に関しては厳しいところがあるわ。もちろん村でもやっていいことと悪いことはあるわよ。オウマくんも真似しちゃだめよ?」



キュアさんに優しく諭される。


はい!やりません一生!

こんな風に美人に優しくされていいえと言える男はいないだろう。



『おい、ガイジュさん!キュアさんが困ってんだろ!こっちにこい!』

『そうだ!皆のキュアさん、いや女神を困らせんな!』

『キュアさん。すんません。こいつはすぐ連行するんで』



自分の欲に素直な男どもがガイジュのおっさんを店の隅に連れていく。

あの人たちも顔はいいのに中身が悲しいくらいあれだよな…。

なんというか高校生並の知性だろう。



「はは……。そういえばオウマくんは結局どうしたいの?」

「ん………。俺って役立たずだな、と……。皆に迷惑ばかりかけて申し訳ない」



俺はこの世界に来て何がやれたのだろうか。

単身でダンジョンに行ったり、シークスを斬ろうとしたり、エルサに心配かけたり………。

ヤベッ。驚くほど迷惑行為しかしてねぇ。


いや、シークスに関しては迷惑行為ではないな。

俺の行動がなければ幼い少女が汚されていただろうからあれだけは間違ってない。うん。俺は悪くない。



「そういうときは自分の取り柄を1つでも見つけることが大切よ。自分では分からなくても誰かわかってくれてるところがあるはず」

「………………そうなのか?エルサ」



誰か、の枠に入るでおろうエルサに問いかける。

エルサは少し考え込んだあと口を開ける。



「そうね……………。あんたの場合残るのはお金じゃないの?」

「もう少しいい面なかった!?まるで俺がダメ人間にしか聞こえない発言なんだけど!?」



期待してた言葉と違う!



「そういうことじゃないわよ。なんというか、金銭欲?みたいな」

「俺の気のせいか?同じ意味にしか聞こえないぞ」

「ようするにあんたお金のことになると行動で表現するじゃない?」

「ぐぬぬ………。否定できない………!」



つまり金を手に入れるために全力でやる、ということだろう。

めっちゃだらしねぇなこれ!



「やりたいことがあったらそれに全力を注ぐ、というのは良いことなんじゃない?全力を注ぐ方向を間違わなければ、の話ね?」

「……………そうなんすか?」

「それはオウマくんが自分で判断することよ」



そう言われ、少し考える。

俺は確かに迷惑をかけてきた。

いまだに自立できない情けないやつだ。

だから…………俺はどうしたらいい。



「行動で成し得ないことはない、か………」

「どうしたの?」

「少しわかった気がする。どんなに知識皆無でもチート無しでも戦闘力0でも役に立たない無能でも」

「悪い要素1つ増えてない?」

「……………何かを成し遂げたいという欲は失われちゃいない」



金も欲しい。

知識も欲しい。

チートも欲しい。

戦闘力も欲しい。


自分が無能だからといって何もしなかったのか。

努力は怠ったのか。

そんなことはない。それは俺が一番よく知ってる。


無双したい。

役に立ちたい。

迷惑をかけたくない。


だから俺は努力した。でも………結果は出せなかった。

だから……………悔やむ暇はない。



「俺はさ、億万長者になりたい」

「それがオウマくんの目標?」

「俺個人の目標、な」



そのために何度でも努力しよう。

何度でも悩んで考えて………そしていつか結果を出してやる。

今までとやることは変わらない。



「言っておきますけど、やるとなったらしつこいと言われてもやりますからね」

「ふふっ。いいんじゃない?それで」

「それで私がどれだけ迷惑してきたことか」

「それに関しては俺の記憶にはございません」

「随分都合のいい記憶力してるわね!」



さぁて、明日からも頑張りますかね。

もちろんエルサには迷惑をかける前提で。






後々になって、俺は今日を思い返す。

いろいろあったけど、あの日挫けなかったから今があると。




そして


この世界に来て何度目かの死を体感する日だったと。

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