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21.稀少種

早朝、鳥が鳴く声が聞こえ涼しげな朝を迎える中………………


俺はエルサに土下座をさせていた。


恐らく違いうぞ!?

あんたらが思っているようなものとは違うぞ!?

これはしょうがないんだ。

だって………………ねぇ?



「昨日は本当に申し訳ございませんでした」



エルサは土下座しながら謝る。

それに対して俺はまだ押し黙る。


謝ってるんだから許してやれと思うやつもいるかもしれないが、今回ばかりはそうもいかない。

何故なら、エルサは俺の売上を無駄にしてくれたからだ。

しかも調子に乗って丸1日付き合わされるわ働かされるわで本当にいい迷惑だった。

しかもそれに金まで関わってるとなると営業妨害にまで発展する。


という建前は置いといて、


いや~~~実に気分いいね!いつもやられてた身としては気分がいいことこの上ない!

たまにはエルサも俺の気持ちを味わうべきだ!


……………なんかちょっと悲しくなってきたな。



「なら今日は俺に付き合ってもらうからな」

「………………………何をしろと?」



エルサが少し顔を上げながら聞いてくる。



「無双」



俺はそれに対して満面の笑みで答えた。




――――――




「それで《爆魚》と《穿狼革》を集めたいと?」

「そうそう。《爆魚》が2層にいることは知ってるからハンターであるお前に頼んだほうが早いと思って」

「私の目の届かないところで何かされるよりはいいけど。それよりどうやって捕獲する気なのよ」

「え?そんなの………こう掴んでホイッと?」

「《爆魚》は小さな刺激で爆発するのに掴むと?」



ここへきてようやくエルサが言いたいことがわかった。

要は普通のやり方じゃ捕獲はできないと言いたいのだ。


でも確かに掴んだらそれだけで爆発するよな。

困った。簡単に済むかな?と思ったのに全然簡単じゃなかった。



「でもそんなときはこれ!ごおせいじゅつ~~~(ドラ○もん風)」

「その言い方腹立つからやめなさい」



ひどい!ざっぱり切り捨てられた!

国民的アニメだぞ!ひみつ道具なめんなよ!

確かに腹立つのかと言われたらYESだけどな!



「読めばきっといいことが起こるはずだ…………!」

「計画性全くなし!しかも確証まで無かった!そんなんで見つかるはずが」

「あ、あった」

「あった!見つかるはずがあった!早いわよ見つけるの!?」



そう言うがな、見つけたものはしょうがない。

俺がエルサに見せたページは【パララインド】の合成について書かれたページ。



「え~と、読んでみた感じだと要するに触るだけで麻痺を引き起こすのね?」

「あ、やっぱり解読するとそうなる?」



よかったよかった。相変わらず解読しにくい説明だったから合ってるかどうか不安だった。

聞いただけだとこれで「無双できるんじゃね?」と思って突撃したくなるが俺の解読が間違っていなければそう簡単にはいかない。



「でもこれって説明通りなら使い勝手悪くない?大きさ20センチって……………」

「いや、でもハエは倒せるぞ!」

「ハエは麻痺させるまでもないでしょ!?そこ無理しなくていいから!」



そう解読が間違っていなければ大きさに制限があった。

20センチ以下が目安らしい。

エルサが言うには20センチ以下なんてハンターにとっては雑魚同然で大抵一撃とのこと。

まあそりゃそうだよな。俺でもなんとかなりそうだもん。

身近で20センチ以下というとブラバットが横幅20センチくらいだったか?

でもブラバットは基本群でいるため単体で麻痺させる【パララインド】は使いづらいだろう。



「でも今回には最適なんじゃないか?《爆魚》って大きさどれくらい?」

「平均で10センチくらいかしら?」



というか今さら気づいたが長さの単位は俺が知ってるのと同じなのな。

分かりやすいに越したことはないから助かるけども。



「よし!それじゃ作ろうぜ!」

「素材は?」

「《サンダント》と《穿狼革》!捕獲頼む!」

「…………うへぇ」



俺がそう言うとなぜか顔をしかめるエルサ。



「俺の顔があまりにもブサイクで見るにたえなかったか?」

「あ、まぁ………うん………」

「その反応なに!?冗談で言ったつもりだったのにその反応は困るんだけど!そんなに俺の顔ブサイクだった!?」



確かにあんたらと比べたらショボい顔かもそれないけど!

あ、なんか泣けてきた。


それに対してエルサは顔を真っ赤にして慌てる。



「いや違うのよ!?ただオウマの場合はその、イケメンというよりなんというか、その、丸っこい目や柔らかそうな頬に綺麗な顔立ちがなんとも………」

「一言で言うと?」

「可愛らしい顔」

「それは嬉しくねぇよ!?俺は男だから!カッコいいとかのほうが嬉しいから!」

「でもオウマの場合はカッコいいというよりなんかこう………親しみやすいというか抱きしめたくなるというか」

「ちょっと待てぇ!百歩譲って親しみやすいはいいとしよう!抱きしめたくなるってなに!?それはどういうことなん!?」

「そういえば素材についての話だったわね」

「うおぉい!?まさかのスルー!?」



でも確かに話がだいぶ逸れてたから反論することができない。


ポジティブに考えればブサイクではない………と言えるのかな?



「《穿狼革》のほうは大丈夫。私が既に持ってる」

「あ、なの?」

「でも問題なのが《サンダント》」

「その心は?」

「《サンダント》は稀少種なのです」



ここでエルサの教育を受けたときに学んだことを教えよう。


モンスターは種族で分けることができる。

分かりやすいところでブラバットとマウッドは獣種、爆魚は魚種というふうに区別されている。

だがその中でこの世界を覆す力を持つとさえ言われている種族がある。

それが


幻獣種、稀少種、悪魔種。


この全ては一般的には伝説と言われていて存在するのかどうかも怪しいというのが一般論だ。

だがしかし、実際幻獣種はこの目で見てしまっている。他の種族も存在すると考えれていいだろう。

この3つの種族が持つ力が


『破滅』、『再生』、『転生』。


これらはあくまでも言い伝えであり確かなことは分かってはいない。

この3つの種族の中で確実に存在していると言えるのが稀少種。

稀少種はあっちで言う絶滅危惧種と同義の種族であり、存在自体に価値があり生きていること自体に意味がある。

そのため確認されている稀少種もいて《サンダント》は既に確認されている部類らしい。



「ということは《サンダント》売れるの?」

「ブレないわね!無理に決まってんでしょ!まず見つけることができないって言ってんじゃない!」

「でも《合成術》には《サンダント》の絵が描いてあるから存在はしているんじゃないのか?」

「そうだとしても見つけるのは無理でしょう?普通に考えなさい」

「あ、そっか。見た目蟻だから森を探せばいいのか」

「あんたの普通を問いただしたくなってきたんだけど!」



《合成の書》に描かれている《サンダント》ははっきり言って蟻だ。

その金色バージョンだろうか。



「よし、それじゃ探してくる!」

「どこからその自信が出てくるのよ!?」



エルサの制止も聞かず俺はダッシュで森に向かう。

やってみなきゃ分からないこともあるもんな。




――――――




「やってみるもんだな」

「バカなぁぁあ~~~!!??」



1時間後、見つかった。



「手に持てる大きさで戦闘力が無いのが助かったな。おかげで俺でも楽に捕まえれた」

「え、あ、ゴメン。頭が追い付いてないのよ。あれ?おかしいな。稀少種よね?嘘でしょ、あ、そっか。これは幻覚か夢なんだ。それか私がおかしくなっただけなのね………。アハハ、アハハハハハァア!」

「誰か!エルサが狂った!というか悪魔に取り付かれてる恐れが!」



突然の事態に追い付いかなかったのかエルサが壊れた。


ヤバいっす!これ後戻りできる!?

俺三途の向こうから連れ戻せる自信が無いぞ!?



「で、でもよく考えてもみてよ。稀少種を合成なんかに使うつもり?むしろ保護するべきよ。うん。そうよ。そうするべきよ」

「フッそこらへんも抜かりはないぜ」

「へ?」

「もう1匹いる」

「まさかの2匹!?もはや稀少種の価値が薄れている!あんたいったい何してくれてんのよ!」



そう言われてもしょーがないだろ。

2匹いるところを見つけたら2匹とも捕まえるしかないだろ。



「そんな!可愛そうだと思わないの!?鬼!」

「お前らハンターがそれを言う!?」



少なくともエルサが一番の鬼だと思うけど!?

なんたって言葉よりも暴力が優先されるからな!



「ま、片方を合成に使って片方は育てるか」

「まさかの稀少種をペット扱い………!しかも片方は使い捨てという極悪非道なやり方よ………!」



と、やべ。そろそろハンターの出入りが増え始める時間帯だな。

昨日稼げなかった分稼がねば。



「これは適当にビン詰めにでもしておくか」

「あぁ、扱いが雑!」

「それじゃ、露店に行ってくるわ!」



俺はダッシュで向かう。

俺の心の中では少しだけ気分が高揚していた。

なぜなら、



無双できるかもしれない!

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