18.可能性
村長の転任騒動に包まれた昨日。
そしてそれが収まるべくもない今日。
あぁ、青空って綺麗だな……………。
「オウマ~~?」
あ、鳥が飛んでる…………。
「死ね」
「その手を食らうかぁ~~!」
シークスが繰り出してきたチョップを寸前で回避する。
フッ………残念だったな!あっちの世界でも似たようなことが何度もあったからな。意識が飛んでる間はオートで危機回避機能が作動しているんだよ!学ばない俺だと思うな!
「ちっ!思ったよりやるじゃねぇか!オウマのくせに!」
「は、ハンターのくせに攻撃があまいんじゃねぇの?」
「あ、あの~~~そこらへんにしてくれると有難いんですけど」
ニムルがおずおずとした感じで止めに入る。
もったいないな。
折角の美少年なのにそんな弱々しくてハンター大丈夫か?まぁおとなしげの美少年と思えば好感度が上がるけど。
「ブライムネックレス3個レンタルで」
「ほいほい。3000Lね」
「ちょっと待て。桁がおかしくなかったか?」
「そうか?キーンとニムルの分で200L。シークスの分で2800L。これのどこがおかしいんだ?」
「なんで俺だけ28倍!?差別すぎんだろ!?」
キーンから注文をもらい、コインを貰う(こっちの世界では紙幣が無く全てが貨幣)。
しょうがないから300Lで妥協してやった。
無駄話も程々にして営業は真面目に取り組む(例外あり)。
そういえば売り上げの傾向を見るに気づいたことが1つ。
ネックレスのほうが好ましいらしい。
まぁよく考えればそうだ。ペンダントはどちらかというとファッション系統だしネックレスは首にかけるだけで取り外しも楽。
好まれやすいのはネックレスだろう。
ネックレスを手渡してシークスたちを見送る。
ちなみに昨日の売り上げは700Lだった。
まぁこればっかりは日数をかけて努力するしかないわな………。
俺が再び意識を飛ばそうとすると声が聞こえてきた。
「オウマ、調子はどう?」
「おう、イーナか。全っ然だな。店を開いたばっかりでそう簡単にはうまくいかないよな」
俺に声をかけてきたのはイーナだった。
イーナは今日だけに限らず昨日、一昨日も様子を見に来てくれた。
どうやら心配らしい。
女の子に心配されるとは俺も情けない………。
「拷問器具を売ってるから?」
「いや待てや。どこをどう見たら拷問器具に見えるのかね?」
相変わらずブレない発言をするイーナ。
もしかして今までずっと拷問器具だと思ってたのか?
それならマジで怖いんですけど。
そろそろイーナには常識ってもんを教えたほうがいいかもしれない。
「それはオウマだけには言われたくない」
「ちょい待とうか!なんでわかったん!?」
あんたらは何!?悪口だけ都合よく人の心を読めんの!?
何その超能力!?
異世界の女子専用か!?
「誰か帰って来た」
「ん?おーそうだな」
ダンジョンが存在するほうに目を向けるとそこにはハンターと思わしき男性が歩いていた。
あの人は確か…………ユルドさんだっけかな。
ペンダント持ってってくれた人だ。
ユルドさんが近づいてくる時声をかける。
「ちわ~ユルドさん。成果はどうすか?」
俺が声をかけるとユルドさんは顔をあげ苦笑いする。
目測40歳ってところか?
手慣れた動作も見てとれるしベテランハンターと見ていいだろうな。
「おう、まあまあってところか?ちょっとめんどくさい目にあってよ」
「何かあったんすか?」
「あぁ、2層目でスコイズンと戦闘してたんだが運悪く爆池に突っ込んじまってえれぇ目にあった」
「ご苦労様」
「おう、そっちの嬢ちゃんは確か《シャイフ》の。あとで寄るつもりだからよろしくな」
よく見るとユルドさんの服や肌にちょっとした焦げ目があった。
その表情からも疲れが見てとれる。
イーナ、お前………普通の接客もできるのかよ!
俺のときはそんなんじゃなかったよな!?
「あのー、爆池ってなんすか?」
「なんだボウズ。知らないのか?」
「オウマはバカだから」
「それは言わなくてもいいだろ!?」
イーナの発言にユルドが豪快に笑う。
ちなみに記憶喪失(仮)は秘密にしている。
やっぱりそういうことは簡単に公開していい情報ではないからだそうだ。
「爆池ってのは《爆魚》が溜まってる池のことだ。そいつがまた厄介でなぁ」
「イーナ、《爆魚》ってなに?」
「これくらいの小さな魚。触ると誘発して爆発を起こす」
イーナが手を少し広げて見せる。
大きさは金魚すくいの金魚程度か。
自ら攻撃をすることはないが下手に触って刺激を与えたりすると小規模ながら爆発をするとか。
だからユルドさんの体のあちこちに焦げ目が着いていたのか。
「て、それじゃ無事だったんすか!?」
「心配することはねぇよ。爆発自体は大したもんじゃないし。ただそれに気をとられスコイズンの毒食らった時のほうがキツかった。もっと用心しねぇとな」
「いや、毒も充分危ない気が…………」
「解毒薬使えばいい話だがな。おかげで回復薬が枯渇した。また買い揃えないとな」
昨日ハンターから聞いて知ったことだがこの世界にもPPGよろしく回復薬なる物が存在する。
飲めば血を通して身体中に成分が行き渡り多少の時間はかかるがある程度の傷なら治してくれる。ハンターには必須の道具の1つ。
解毒薬もその類の1つで毒を治す薬。
ダンジョンに挑む際にはこういった事前の準備をしないと痛い目に会う。実際何も用意もせず無策で挑んだハンターが死んだという話は後を立たない…………とか。
「おっと、そういえばこれは返さないとな。なぁ頼む!売ってくれ!」
「いつかね」
ユルドさんから【ブライムペンダント】を受け取り、懇願を適当に受け流す。
「だったら嬢ちゃん!彼氏に何か一言頼む!」
「イーナは彼女じゃないからな!?」
「オウマ、意地悪しない」
「お前も悪ノリするなぁ~~!」
その後、ユルドさんが豪快に笑って去っていく。
誤解してないよな?イーナは彼女でもなんでもないからな?
俺は祈ることしかできなかった。
――――――
「ただいま~」
「いってら~」
「会話になってない気がするんだけど!?」
イーナが自分の店の営業のために戻っていきしばらくするとシークスたちがダンジョンから生還してきた。
ちっ。今日も生き延びたか。しぶといやつだ。
「今なんて考えた?」
「ちっ。今日も生き延びたか。しぶといやつだ」
「正直でよろしい!いい度胸だ!今日がお前の命日だと思え!」
「あ、これ返しておきますね」
ニムルがめんどくさいことになる前に用事を先に済ませる。
ナイス判断だ。これで俺も全力でやれるというもの!
「ところで、エルサさんのお父さん、どう思いますか?」
そしてなぜかそこで急な会話の方向転換。
ニムルのやつ。最初から止める気でいたのか!
でも話を振られた限りは乗らなければ。
「マウリーマン」
「なんだその愉快な痛快なアホみたいな単語は!?いったい何を考えてんの!?」
しまった。つい口が滑って渾名を言ってしまった。
「エルサのお父さんについては俺は何とも言えないな。俺は余所者だぜ?お前らは何か知ってんの?」
「全然。見たのも始めて」
「なー。俺たちがこの村に来たのはそう昔の話じゃないしな。俺たちが来たときには既にいなかったよ」
ということはだいぶ前からということか………。
こういうことはエルサから聞こうと思えば聞けたかもしれないがさすがに自分の父親のことを話させるのは酷というものだろう。
というか純粋に話してくれなさそうだ。
「長い間村を不在にしてた。なのに現れたと思ったら村長就任話」
「怪しいよな」
「でも現村長は特に何も言いませんでしたよね。何か考えでもあるのでしょうか」
シークス、キーン、ニムルがそれぞれの推測を述べる中、俺は別のことを考えていた。
なんでエルサが知らない言葉をやつは知ってたんだ?
この世界のことや元の世界との相違点を比べてみるにこの世界で知る術はないはずだ。
ということは、考えられるのは…………やつも俺と同じ向こうから来た人物だという説。
それについて少々悩みたどり着いた答えは
普通に考えて無理だな。俺は記憶喪失ということにして両親についてはうやむやにしているけどやつは違う。
既に村長という父親が存在する。つまりそれはこの世界で生まれたという証拠。
となれば考えうるのは、別の人物からその話を聞いた。
つまり、俺以外にこの世界のどこかにそいつが存在する可能性。
う~~む。どうにも偶然には思えねぇな。俺がこっちに来てからそう日は立っていない。そのタイミングでマウリーマンが現れた。
…………プシュー~~~~~~
「うおぉい!?オウマしっかりしろ!」
「どうしましょう(オロオロ)」
「水をかける(バシャア)」
頭の処理が追い付かなかった。
情けない。情けないぞ。
漫画の主人公なら思考回路だけで10分考えこめるやつも存在するというのに。
やっぱり俺は主人公に向いてねぇな…………。
キーンからタオルを受け取り濡れた体を拭く。
水をどこから調達したかについては考えない。俺のために尽力してくれた結果だと思おう。
「…………で、どうするよ?」
「オウマ立ち直り早ぇな。どうするって言われても受け入れるしかねぇわな。こっちは何もすることはないしいつも通りの日常を過ごしてればいいんじゃね?」
「いざというときは力になります」
「困ったときはお互い様」
との有難い御言葉。
シークスはたいして有り難みがないがニムルとキーンのセリフは心に染みた。
クソッ……主人公みたいなセリフいいやがって。
羨ましいよコンチクショウ!
このときの俺はまだ知るよしもなかった。
日常は、長くは続かないものだということに。




