16.反省会
「ただいま~~」
「あ、おかえり」
無事今日の露店を閉店して家に帰って来た。
うあぁ~~なんか疲れた。
あっちの世界で慣れてたつもりなんだけどな。
「なんかすごい疲れた顔をしてるけどどうしたの?」
「リア充が現れるわ変態が現れるわ幼女が現れるわドラゴンが現れるわで大変だった~」
「前半はともかく後半は明らかに嘘よね。ドラゴンが現れたら大変どころの話じゃないわよ」
エルサはどうやら晩飯を作っていた。
この香ばしい匂いがまた食欲を刺激する。
この匂いは…………今日は鍋かな?
ぐっ……俺の腹よ今だけは堪えてくれ…………。
「それで肝心の売り上げはどうなの?レンタルとか言ってたけど」
「とりあえずってところか?まず人があまりいないからなんとも『グ~~ギュルル』言えないなぁあ!」
「必死に誤魔化そうとしなくてもいいわよ」
エルサがケラケラと楽しそうに笑い出す。
ぐがあぁ!俺の腹のバカ!そんな素直に鳴らなくてもいいじゃないか!
そんな中でエルサがテーブルの上に食器(木製)を置く。
俺も毎日手伝ってる身なので恥ずかしさを我慢して俺も食卓を作り出す。
さっさと忘れてぇ…………!
――――――
「で、それで売り上げは?」
エルサがフォーク(鉄製)を置き聞いてくる。
こいつ遠慮なく人の財産を聞いてくるんだな。
明らかにプライバシーに関わるだろうに。
まあここは異世界だけど。
「さっき言ったとおりだよ。レンタル料1回100L。それで18人ほどダンジョンに行き8人がレンタルしてくれた」
「ということは………計800L?」
「そんな感じ」
今回は18人ほどハンターが通りがかったがやはり疑われまくって結局は8人しかレンタルしてくれなかった。
まぁまだマシだと言えよう。少なくとも0人よりはマシなハズだから。
「まだ道は遠いわねぇ」
「でも今日は思ったより人の出入りがあったな。なら今後はもっと少ないことを見越してやらねぇと」
「なんだ。思ったより能天気なのね。何か策でもあるの?」
「そんなんじゃねぇよ」
商業においての鉄則は『欲張らないこと』だ。
その意味合いとしては第一にモチベーションの問題、第二に今後の予防策といった感じだ。
欲張るということは自覚は無くとも自分に自信を持っている証拠。
その状況でミスが生じたり自分の思い通りにならなかったりすれば自然と自分の感情をコントロールするのが難しくなってくる。自信を持っていたが故に失敗すればやる気をなくすということは珍しくもない。欲張りなんて所詮は一時の感情の高ぶりだからだ。
さらに下手に欲張ろうとすれば計算外な事象が発生したときに焦りが出て対処が遅れる。それは接客する際においては絶対に避けなくてはならない事態。だからいつでも冷静に状況を判断し的確に対処する力が必要になってくる。
だからと言って全く欲張るなと言っているわけではない。人には欲があるからこそ向上心がありそのために頑張ろうと思える。ただ過度な欲張りは必ずしも良い結果には結びつくとは限らない。
「まぁ初日だからな。やるべきことは安定収入。そのための知名度上昇だ」
「あんたの知名度なんてたかが知れてると思うんだけど」
「それわざわざ言っちゃう!?」
あーもう!なんでいちいちこいつは悪口を言ってくるんだ!
そうですね!確かに俺の知名度はたかが知れてますね!
しかも笑いながら言うからなおたちが悪い!
「少なくとも今回レンタルしてくれた人が好印象を持ってくれていれば町のほうで口コミで広がってくれてるかもしれないだろ」
「あぁ、なるほどね。でもそれって………随分と他力本願ね」
そう。エルサの言う通り。
口コミで噂を広げると言ってもそれは人任せすぎる。
だからこそ自分たちだけでもできることはしないといけない。
「だからやれることをするんだよ。こっちでもな」
「イメージアップ戦略ってこと?でも具体的に何をするのよ」
「……………え?ここまで言って分からないのか?」
「なによ!その意外そうな声だけして顔だけすんごいにやけてるわよ!あんたバカにしたいだけよね!?」
む。表情に出てしまった。
こういうの隠すの難しいな。ポーカーフェイス苦手かも。
ちなみにここでエルサをバカにした理由は…………特にない。
あえて言うなれば日頃の恨みを兼ねてってね。
でも折角だからドヤ顔で言おう。
エルサが睨んでくるのも何のその。
「まぁ今やれることは…………リフォーム。これにつきるな」
「………………リフォームってなに?」
「………………………」
は、恥ずかしい!恥ずかしいですよ!
まさかドヤ顔で決めたはずなのに一瞬で痛い人に早変わりしとる!
だぁー!なんでリフォームは知らないんだよ!
あんたらの既知の範囲が全くわからん!
「えーとな。要約すれば改造ってことになるか?改造わかる?」
「それくらいわかるわよ。あんた記憶喪失のせいか知らないけどときどき変な言葉ぶっこんでくるわよね。記憶が戻ってきてる証拠かしら」
「どういうことだ?」
「他の町や村に行けば《ミラノ》じゃ知らない言葉があってもおかしくないのよ。むしろよくある話ね。所詮はここは村なんだから。だから、私たちでも知らない言葉はあるんだから…………挫けちゃだめよ」
「どういう意味だゴルァ!」
慰めようとしてるんだろうけど(いやあれは慰めてないな。むしろバカにしてる)俺をもはやバカどころか人間の底辺くらいに格下げしてないか!?
エルサの慈悲を与えるような目で見下しているような顔で言われると腹立つぅ!
「それで何を改造するのよ。また合成でもするの?」
「ダンジョンリフォームしてハンターこいこい作戦」
「…………………………………はい?」
「ダンジョン大改造で億万長者大作戦」
「作戦名変わってるわよ」
ぬ、別にいいだろ。作戦名ぐらい。
決して長ったらしい作戦名を覚えきれなかったわけじゃないぞ。
「ダンジョンがすごいものになればハンターの目に止まりやすいだろ?だからダンジョンを改造してカッコいいダンジョンにしようかと」
「後半自分の願望が混ざってるわよ」
カッコいいダンジョンは男の憧れなんだぞ。なめんなよ。
実を言うとダンジョンを自分好みに作って見たかったんだよなぁ。
「そんなことを言ってもダンジョンは村の物なんだから勝手に改造したらダメに決まってるじゃないの」
「よし。それじゃ村長に許可貰いに行こうぜ」
「あんた随分と簡単に言うわねぇ」
そうか?だってあの人結構物わかりいいからな。話しやすくていい村長だわ。お前のじいさんっていうのが嘘みたいだ。
いや、もしかしたら………
「お祖父様とは血繋がってるからね。変な疑い持ち出してんじゃないわよ」
「人の思考回路先読みすんの止めてくんねぇかなぁ!?」
もはやまだ考えてさえいなかったぞ!?
確かにそんなことを考えようかとしていたけど!
たぶん今エルサの読心術レベル90くらいなってんじゃね!?
「まぁ言うだけ言ってみようぜ」
「無駄だと思うけどね………」
そして次の日、村長の家に向かう。
――――――
「いいんじゃね?」
「お祖父様ぁ!?」
村長にダンジョン改造してもいいかどうか伝えたらその返事がこれ。村長ノリいいな。
「オウマは昨日しっかり売り上げを出したらしいのぅ。じゃからオウマに任せておけば大丈夫かと思うのじゃが」
との村長の有難いお言葉。
マジで俺のこと信用してくれてんだな。
これははりきって頑張らねば。ちょっと重いけど。
「ちょ、ちょっと待って!さすがに信用してるからってやりすぎじゃないの!?ダンジョンがどれだけ貴重なものか分かってる!?あとオウマ!『こいつ余計なこと言い出したよ……』って小声で呟くな!」
耳がいいなエルサ。聞こえないように言ったつもりだったのに。
それに村長がいいって言ってるんだから別にいいだろ?
それに呼応するかのように村長が神妙な面持ちで語り出す。
「わしはな、そろそろ村長を辞めようかと思っておるのじゃ」
訂正。呼応も何も無かった。
え?今の話の流れでなに重い話を持ち出そうとしてんの?
俺苦手だよ。そういうの。
そしてほらここに騙されてるやつが1名。
「え!?ほ、本当なの!お祖父様」
エルサよ。驚きすぎだ。
話の流れと空気でなんとなく分かるだろ。
「……………エルサ。さすがにそこまで簡単に騙されるところを見たらわしは不安で不安でしょうがないんじゃが」
「……………はい?」
エルサが呆けた面をしている。
今の話の流れの不自然さで少しは気づいてくれ。
明らかに嘘だろうが。
たく、意外な弱点だな。まさか騙されやすいとは………。
やれやれ…………。
「オウマ、ものすごい悪そうな顔しているこら考えてることが丸分かりよ」
「安心しろ。丸分かりでも特に問題ないから」
「それ本気で言ってる!?」
うん。これからはこのネタでエルサを弄ろう。
今まではエルサに弄ばれてきたからな。
これからは俺の時代だぜ!
「と、とりあえずお祖父様。私の納得のいくように言ってくれないと困るわ」
さて、話を戻そう。さっきは村長がアホみたいな嘘をついたせいで話が逸れたけどいったいどんな理由だろうか。
「わしはな、村長を止める」
………………はい?
「お祖父様ぁ!?言ってることが最初と変わっていないのだけれど!?」
「何を言っておる。最初は未定のセリフじゃがさっきわしが言ったのは確定のセリフじゃろう」
「すんごいどうでもいいくらい些細な違いよそれはぁ!」
エルサが驚きを通り越して絶叫している。
ちなみにもちろん俺も驚いている。
村長の嘘たいして嘘になってなかったな!
ちょっと驚くベクトルが変な方向にいってるけど気にしない。
「そ、それじゃいったい誰が次の村長に!?」
エルサが切羽詰まったように村長に迫りよる。
確かにそれは重要なことだ。年功序列で言うなら、次はエルサの親あたりか?でもそういえばまだエルサの親見たことないな。
村長はエルサの質問には答えず後ろを振り返りドアの向こうに声をかける。
「入りなさい」
ドアがゆっくりと開く。
その向こうには見た目若さが目立ち一見サラリーマン風の男性が立っていた。
もちろんサラリーマンの服装ではないが。
ちなみに若干イケメン。
そして村長に詰め寄っていたエルサが動きを止める。
まるで時間を奪われたように。
「お父様……………?」
エルサが呟いた言葉が部屋に静かに反響する。
誰も何も喋らない。だから俺が変わりに言わせてもらおう。
俺ダンジョンの改造許可貰いに来ただけだよな…………?
ちょっと泣きそうになった。




