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15.接客業

午後―――――



結局あれ以降エルサは戻ってくることはなかった。

これは……………つまり


エルサに春の予感!?


ヤバいぞ。まさかエルサにそんな日が訪れようとは。

これはいいネタ…………ゴホン、いい話題ができたな。

帰って来たら問い詰めてやろう。

先に言っておくと尋問じゃないからな。ちょっとしたトークだからな。


と、エルサについてはこれくらいにしておいて、そろそろ金を稼ぎに行きますかね。

考えてみればこれが人生初だな。店やんの。


俺が店をやっていく場所は村の中でダンジョンに向かうときに必ず通る道を選んだ。

もちろんこれについても村長の許可を頂いております。


流石に建物を貰うわけにはいかないから露店という形でやるつもりなんだけど、初めてだから緊張するなぁ。


大きな荷物は先に露店のほうに置いているから必要な分だけ持ち、家を出る。




――――――




道を歩いていると鍛冶屋シャイフの前を通りかかる。

少しだけイーナに声をかけようと思い、声を出そうとする……………


けど止めた。


だってね。またナイフを投げられたら敵わないじゃん。

嫌だよ。死に目に会うのは。

うん。ここはスルーするのが賢明だ。

よし、さらば!


ザクッ



「……………………………」



嫌な予感がする。


少しずつ顔を横に向ける。

より正確に言うならば《シャイフ》の向かい側にある店の壁を。

そこには……………


剣が刺さっていた。



「死ぬわぁ~~~~~!」

「でも実際は死んでない」

「そうだな!でも死にそうにはなったよな!?」



《シャイフ》のほうから出てきたのはイーナだった。


これは死ぬよ!?

なんで難易度上げてんのよ!ナイフでも充分死ぬ自信があったのに剣って!剣は投げる物じゃないよな!?



「少し投擲練習をしていたらすっぽぬけた」

「白々しい言い訳をするな!なんで剣で投擲する必要があるんだよ!?」



少しは向かいの店の人にも謝れ!

あぁ何度も壁を傷つけられたら明らかに迷惑だ!



「今のは冗談」

「うおぉい!?認めたな!わざと狙ってやったことを認めたよな!?その冗談は嬉しくねぇぞ!」

「オウマはこれからどこ行くの?」

「無視された!」



イーナが主語を抜かして聞いたきた。


「これから行くの?」となると主語は…………あぁなるほど露店の話か。



「そろそろ露店を開きにな。金を稼ぎまくってやる」

「頑張って」

「応援してくれんの?」

「うん。オウマは器用だから」



はたしてそれは関係あるのだろうか。

無いな。絶対に無い。



「あとちなみに言っておけば出会い頭に剣を投げてきた時点で応援する気さらさらないよな」

「あれはつい癖で」

「あれが癖なの!?癖ってそういうもんだっけ!?」



あれが癖だということは無意識にやっているということか。

イーナと会話する度に命賭けなくちゃいけねぇの?



「まぁ頑張って」

「そのセリフは説得力がないと言ったはずだぞ。………まぁ気持ちだけ受け取っておくよ。そんじゃ」



そう言ってイーナと別れる。


イーナの恐ろしいところはさっきまでの会話を全て真顔でやっていたことだ。そのせいでイーナが冗談と言っても冗談に聞こえやしない。

昨日はデレてくれたのに…………。

決めた。次会ったときは絶対デレさせてやる。




――――――




そうこうして無事に目的の場所に辿り着く。

この場所はダンジョンの近くということもありあまり人通りも少ない。

だからハンターの区別はつきやすくて助かる。


早速露店の準備をしてお客様に備える。

イーナから借りたシート(この世界にシートあるんだ)を広げ木箱をカウンター代わりに設置。その上に適当に作った【ブライム】、【ブライムペンダント】(寝ながら命名した)、【ブライムネックレス】(エルサに殴られながら命名した)を並べる。


今更になってこんな程度の品揃えでやれるかどうか不安になってくるがもう悔やんでも遅い。

やってやる!接客ならあっちの世界でやり馴れてんだ。


しばらくそうやってジッとしていると右から歩いていくる2つの人影があった。その服装を見てハンターだろうと一瞬で判断する。


二人のうち片方がキーンほどではないが鎧を装備していたため人目でハンターだと分かった。

そして思わず舌打ちをつきそうになった。

その二人組は…………男性と女性の組み合わせだったからだ。


いや落ち着け。まだそうと決まったわけではない。男性と女性が一緒でも友達同士という場合もある。

俺もエルサと同棲している身だしね!


そしたらふと会話が聞こえる。



「ジンクったらぁ~、そんなこと言ってぇ~」

「本当のことを言ったまでじゃないか」



ぶち殺したるか。


おっといけない。いけない。相手はお客様だ。俺はそれに相応しい接待をしなくてはならない。だから…………

早く、早く通りすぎてくれ…………!

じゃないと発狂しそうだ…………!


そんな俺の気持ちも通じることなく二人が俺の目の前で立ち止まる。



「お、レイル。見てみなよ。これなかなかいいんじゃないか?」

「えぇ~~。どうなんだろぉ。でもこれって光ってないぃ?」



そうか。男性のほうがジンクで女性のほうがレイルか。覚えておこう。要注意人物として。


一応お客様なので丁寧に説明をする。

心の底で呪詛を唱えながら。



「お客様が見ている物は【ブライムペンダント】と言って【発光松明】より光が強くダンジョンで使いやすい使用となっております(イケメンとギャルがいちゃついてんじゃねぇよ。消えろボケ)。」

「へぇ~~そうなんだぁ。私あの松明あんまり好きじゃなかったんだよねぇ。このネックレスもいいかもぉ」

「確かに使い勝手は良さそうだな。それとあんた説明の中で変な声が聞こえたが」

「空耳ですよ」



っと危ない。心の声が混ざってしまっていた。

抑えないと抑えないと。

この二人イケメンとギャルにしか見えないから違和感がありすぎるんだよ。



「これらの品物はレンタルとなっておりますのでお値段は安くしてありますよ。ただダンジョンからお戻りになった際に返却していただきます」

「ようするに貸し出しということか。町でもこれは見たことないし自作なのか?だから秘密にしておきたいという意味で売却ではなく貸し出しなのか。それと顔が見たことないくらい歪んでいるぞ」



と、しまった。今度は顔に出ていたか。

どう頑張っても隠しきれないなこれ。

さらに何気に俺の目的がバレてるし。こいつイケメンのうえに頭がいいのかよ。なんだその2次元スキルは。



「値段のほうはどうなんだ?」

「こちらの品物は全て100Lで統一させてもらっています。1回お試しで使用してみればいかがでしょうか」



この値段はエルサから話を聞いてハンターにとってお手頃だと思われる価格にしておいた。上級者になれば10Mは余裕で稼ぐとか。羨ましいもんだぜ。



「なるほどな。ならば1回使ってみるか?」

「うん。いいよぉ。私はこっちの花柄のネックレスでぇ」

「なら俺もこのネックレスを頼む」



ちぃ!ペアネックレスかよ!爆ぜろ!

でもまぁいい。結果だけ言えば初売り上げなのだから。

最初のえも………お客様にうまく売り出すことができた。

まぁレンタルだから安いけどな。



「合計で200Lです」

「あぁありがとな。あとあんた面白いな。名前なんて言うんだ?」



ん?と思い顔を上げて見るとそこには満面の笑みのイケメンが。

まさか……こいつ俺の心情を分かっているな!?さすがに態度が露骨過ぎたか!

ギャルは気づいていないみたいだ。

くそが…………!イケメンのくせに!イケメンのくせに!



「…………………オウマと言います」

「オウマか。俺はジンクだ。暇があったらまたここに来るよ。返却するとこに来る必要があるけどな」

「………………はい。ダンジョンは危険がございますのでお気をつけていってらっしゃいませ」

「ああ。それじゃ行くかレイル」

「うん。早く行こぉ」



そう言って去っていく二人。

そして見えなくなったところで心の中で思いっきり叫ぶ。




リア充死ねえぇぇえええ~~~~~~~~~~~!!!!!!




異世界の接客が死ぬほど辛いことが分かった。


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