14.不思議
「それでいつ頃から始めるの?」
「勝負は午後だな。絶対に成功してみせる」
現在エルサの家。
もう既に村の人からの感想は貰っており、不満は特にないとのことだ。これは嬉しい話だ。
そして俺は余った時間でワイヤーペンダントだったりワイヤーネックレスを増産している。
エルサは俺の向かい側に座り手伝ってくれてる。
ワイヤーはイーナから貰ったけどちゃんと何かしらの形で返さないとな~。
「ちなみに村長からの許可ってもらえたの?」
こちらは向かい側に座り増産を手伝ってもらってるエルサ。
エルサは文句は言うけれど結局手伝ってくれるもんな。ホント感謝しないと。
「あぁ、バッチリだ」
エルサが言ってることはあれか。昨日俺がお楽しみって言ったやつ。
昨日はあぁ言ったけど本音を言えば別に言っても何も問題ないよな。
「で、結局許可ってなんだったの?」
「ふっ………それを俺に言わせるのか?」
「言い直すわ。早く白状しろ」
「それ命令になっとるけど!?」
あとできればさっきの俺のドヤ顔スルーしないで!
恥ずかしいから!痛々しいから!
「え、えっとな。許可ってのはダンジョンの利用許可だよ」
「へ?なんでそんことするの?」
エルサが意外そうに言う。
まぁそういう反応をするよな。でもいろいろと俺とエルサじゃ食い違っているところがあるはず。
とりあえずそこから紐解いていこう。
「まず、午後にやることだが正確に言えば売り出すんじゃなくてレンタルが正しい」
「レンタルって?」
俺の言葉に疑問を持つエルサ。
レンタルという言葉は知らないのか。あっちの世界とこっちの世界の言語の基準がよくわからん。
とりあえず言えることはエルサはきっと売却するだけだと思っていたのだろう。
はっ、甘いね。樹液より甘い。
樹液を味わったことはないけど。
「レンタルっていうのは迷子になってる子どもを」
「本当のことを言ってね?」
「………………………うい」
バ、バレた………。1発で見抜かれた………。
もう少し上手く嘘をつかないとエルサには通じないのか………!
ちなみに嘘をつくのは前提な。
「今回の狙いはハンターというのは分かるよな?」
「まあね。だからハンターの数が多い午後にしたんでしょ?」
「そう。だからハンターがダンジョンにいる間だけ【ブライム】を貸し出すんだ。もちろん金額は売り出す場合の半額で」
「なんでそんなことをするのよ。普通に売ったほうが利益は高いじゃないの」
確かにな。
レンタルするときは売るときの半額だから利益も少なくなる。
一見してみると、不都合な点に思えるけど………。
「問題なのは売っている店が村ということ。それとこれが消耗品ではないということだ」
このような理由がある。
ようするに売却したら長くもたないという話だ。
「…………………詳しい話を聞かせて」
「ほぉ?あなたそんなことも分からないのかな?」
「ぐっ……………」
エルサが悔しそうに呻く。
そして俺はその様子を見て機嫌をよくする。
はっ、ざまぁみろ!
普段人のことをバカにしているお返しだ!
「まぁ俺も鬼ではない。舌を出しながら10回回ってワンやったら教えよう」
「それ充分鬼よ!」
まあこれはあとでやってもらうとして今は時間がないからさっさと教えて差し上げるかね。
「俺が狙いを定めているのは正確に言えば《ミラノ》のダンジョンに来るハンターだ」
「それは分かるわよ。それがいったいなんなのよ」
「《ミラノ》は言っちゃ悪いが辺境の村だろう?それに対してだいたいのハンターは街からいろんなダンジョンに行くって言うじゃねぇか」
「それは街を拠点にしたほうがいろいろと都合がいいからね。でもそれがどうしたのよ?」
「わざわざこんな村に来てまでダンジョンに行こうとするやつは限られてくるってことだ」
まずそこだ。
狙いをハンターに絞ったのはいいがこの村に来るハンターの数が少ない。
いくら安全性があるとはいえベテランとかならあまり気にしないことだろう。それはこれまでハンターの出入りを見ていればわかる。この時点でだいぶ厳しいところまで持ってかれてる。
「あぁ、なるほど。それで少しでも行き来を増やそうとレンタル?をすることにしたの?」
「そういうこと」
レンタル制にしておけばその場での利益は少ないが利用数は増えるだろう。【ブライム】によって安全安定感が増したからな。
他の地下ダンジョンより1歩リードってところ。
長期的にはこっちの利益が大きくなるって寸法だ。
それに街に戻るときに噂でもなんでも広めてくれれば御の字だ。
「さらにはこの【ブライム】。調査結果によれば恐らく永続的に光り続ける」
「その時点で結構な高性能よね」
【ブライム】は【発光松明】と違って寿命がない。
これは村の人から聞いた話で分かったことだ。
【発光松明】は放っておけば1日程度で光が消えるらしいが【ブライム】はこれまでずっと光り続けていた。それも光が弱まったりもしない。
つまり寿命は無いに等しいと考えられる。
「例えば《クラシック》で売ってる酒を買うとするじゃん?」
「うん」
「飲むじゃん?」
「うん」
「酒の中身は無くなるよな」
「あんた人のことをバカにしてんの?」
ちょっと遠回りに言い過ぎたな。
ま、ようするにだ。
「消耗品なら買って使用すれば無くなるからまた買う。そのループで収入は安定する。けど【ブライム】の場合それはできない。1度買われたらもう買う必要がないからな」
「さらにそのうえこの村に来るハンターは数が限られてるから日が立てば立つほど収入は落ちると」
「そういうこと。それを防ぐためのレンタルだ」
レンタルにしておけばダンジョンに入る度に収入を得られる。
もちろん購入額よりは金額を減らす必要はあるが長期的には利益がデカい。素材がタダに等しいからな。
「とまあそれらの理由により念のためダンジョンの許可を貰おうと」
「どうせダンジョン内部にも何個か設置したんでしょ。バカよね」
「も、もちろんハンターの邪魔にならないようにしたし、あそこに住む夜行性モンスターに逃げられないように間隔もそれなりに開けているからな」
「へぇ、ダンジョンに行ったことは否定しないんだぁ」
あ、と思う間もなくエルサに殺される始末。
~~~~しばらくお待ち下さい~~~~
「痛た………少しは手加減してくれ」
「反省しない男が何を言うのよ」
「俺は過去を振り返らない男だ」
「それにかこつけて反省しない男はもっとダサい」
痛む腕を擦る。
イーナは殺ンデレで済んだけどエルサは殺人鬼だな。
そうだ。これからは鬼娘と呼ぼう。うん決定。
あとエルサ。そのセリフは何気に傷つく。
「でもなんでペンダントよりネックレス多め?」
「ネックレスなら首にかけるだけだから楽だろ。俺ならこっちを選ぶね」
「まあ確かに」
普通に話しているがすっかり慣れてしまった。
会話に、じゃないぞ。処刑されたあとの会話に、だ。
少し違和感を感じるかもしれないがこれが俺らの普通なんです。
「そういえば言ってなかったけど午後私いないから」
「お?もしかして男と会うの?」
いつものように殴られる覚悟でエルサをからかう。
そういえばホントにエルサ家にいないときどこに行ってんだろ。
今度聞いてみよ。
て、あれ?いつもならここで「ふざけてるなら殴るわよ」的なことを言ってくるのに何も言ってこないな。
実際殴ってくるし。
君の座右の銘は有言実行だよね?
いつもまでも返事が来ないのを不思議に思い正面を見ると、なぜか呆けた顔を真っ赤にしているエルサ。
おぉ、なんか若干シュール。
て、あれ?あれれ?
「い、いきなり何を言ってるのよ」
「うん?いつものことだろ」
「そ、そうね。あ、そういえば食材減ってたわよね。ちょ、ちょっと行ってくる!」
「え、ちょっと待………」
高速で喋ったと思ったらいきなり立ち上がり走り出す。
ダッ
ドガッ
顔を押さえて踞るエルサ。
「エルサよ。ドアくらい開けような?」
「う、うるさい!」
そして今度こそ家を出ていくエルサ。
自分からドアに突っ込むって、どんだけ焦ってんだよ。
気にせずに作業に戻ろうとしたときふと思う。
もしかしてこれは
…………………………………………図星?




