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13.製作中

店の店舗部を抜け奥のドアを開けるとそこは工房だった。

どうやら普段はここで作業をしているらしい。



「どうぞ」

「お構い無く」



お互いに近くにあった手頃な椅子に座る。


さて、言いたいことは山程あるんだが………これはいったいどういうことなのだ?あ、そうだ。エルサに聞こう。


顔は正面を向きながらバレないように小声でエルサと会話をする。



「エルサ、これはどういうことだ?」

「イーナは、普段は感情を表に出さないけどたまに本当にたまに鍛冶屋にたいして興味を持った人にたいしてこういった好印象を持っちゃうのよ」

「さっき俺のこと殺そうとしてたのに?」

「イーナは初対面の人には冷たい態度をとるからねぇ、困ったものだよ」

「あれは絶対に冷たいで済むレベルじゃないよな!しかしよくそんなんで店やってけるな」

「私もたまに手伝ってるし、品揃えはいいからね。知る人ぞ知る穴場、みたいな?」



上記の会話は全てイーナには聞こえてないようにしている。

でも確かに見る限り素人目でもわかるぐらいすごい武器を作ってるんだなってわかる。

これは頼りになりそうだ。

再び小声で作戦会議を行う。



「でもどうするの?共同製作の流れになってるけど」

「ふっ、気にすんな。俺に策がある」

「へぇ~~どんな?」

「名付けて、『作り方を教えてもらって自力で作れるようになれば後々いいことがある作戦』!」

「いいネーミングが思いつかなかったから適当に言ってるわよね!あと長い!」

「知ってるか?大切なのは見た目じゃなくて中身なんだぞ」

「それならわざわざ作戦名言う必要ある!?」



小声で器用にボケとツッコミを繰り出す。

エルサとコンビで組めば○―1グランプリ優勝狙えるんじゃね?



「それで本音は?」

「まぁ簡潔に言えばメリットがある。あと半分興味」

「メリット?あんたの存在にメリットあるの?」

「あるわ!そこは疑うところではない!それと無理矢理話題を逸らすな!」

「いいからさっさと言いなさいよ」

「納得がいかないがまぁいいだろう。メリットは費用がかからない、という点だ」

「費用?」

「そ、鍛冶屋に製作依頼という形で頼めば必然的に代金がかかる。でも自分で製作できればその必要がなくなる。製作のための物資とかで費用は出るかもしれないが製作手順を覚えておいて損はないだろう?」

「問題点はあんたにそんな器用なことができるか、ということね」

「腹立つなぁおい!」



どうせ俺は不器用ですよ!

元の世界でそうだったからあえて否定はしない!


俺たちが小声でこそこそと作戦会議をしている間イーナはというと、道具を取りに行っていた。どうやらこの工房に置いてなかった物を使うらしい。


と、噂をすればイーナが戻ってきた。手に何かを持っているけど、あれは…………ワイヤー?



「えっと、作るのはペンダントでいいよね?」

「あぁ、この石を使って作りたいんだけどできるかな?」

「それじゃ、ワイヤーペンダントでも作る?」

「ワイヤーペンダント?」



イーナが興奮して喋る。

ワイヤーペンダントってなにそれ、美味しいの?



「ワイヤーペンダントってあれでしょ。ワイヤーを使って石を包むようにして作るやつだよね」

「うん。それ」

「いいなぁ~~私も作ろうかな」

「よし、製作部部長よろしく頼んだ」

「なにさりげに人に押し付けようとしてんのよ」



エルサがジト目で睨んでくる。


だ、だって………俺………



「あ、あれか。あんた不器用なんでしょ」

「人が心の中で喋ろうとしたことを先に言っちゃいますか!?」

「否定はしないのね」



イーナもさらに追い討ちをかけるか!

そうだよ!確かに俺は不器用ですよ!


過去に家庭科の授業で裁縫をしたときに裁縫が得意な友達に「あんたそれ全っ然下手じゃない。なにやってるの?」と言われた経験があった。


あれは胸にきた。グサッと刺さりました。

一生物のキズです。

でもそのことを浩介に話したら何かしら言ってたような………なんだっけ?



「大丈夫だよ。手順さえできれば簡単にできるから」



イーナが微笑みかけて慰めてくれる。


あ、イーナ可愛い。

最初の印象は超ツンキャラだと思ってたけどそうでもなかった。

超ツンデレキャラだな。これは。


超が付く理由は?だと。邪魔という理由で顔面狙ってナイフを投げてくるやつがただのツンデレだと思うか?

1歩間違えればヤンデレだぞ。


作業に取りかかろうとイーナが両手に何かを持つ。



「だから、こっちとこっち、どっちを使う?」

「ワイヤーは分かるぞ。ワイヤーペンダントを作るからな。でもなぜ鞭を持つ。あれか。作業工程で必要になるのか」



なぜかイーナは両手にワイヤーと鞭を持っている。

自分で言っといてあれだけど絶対作業には使わないよな。

問いただすとイーナが笑顔で告げる。



「ううん。拷問用」

「お前はその2つで人になにやらせようとしてんの!?」

「冗談」

「冗談ならその後ろにある縄は何かなぁ!?」



訂正しよう。

こいつはヤンデレだ。間違いなくヤンデレだ。

すでにこいつは1歩どころか10歩くらい踏み込んでいたわ。



「正解はこっちのワイヤー」

「ですよね!もし鞭だと言った日には俺は生きていけない!」

「ワイヤーペンダントを作るのに必要なのはこのアーザーワイヤー。細くて丈夫だから職人の間では好まれる素材」

「エルサよ。アーザーワイヤーってなに?食えんの?」

「あんたはワイヤーを食べるの?アーザーワイヤーは〈アーザーダー〉て言うモンスターから取れる素材を使って作られるの。〈アーザー〉はそれが由来」



へぇ~~。なるほど。

今更ながらエルサって物知りだよな。どこかで勉強でもしたのか?

この世界の常識なだけかもしれないけど。



「順を追って説明するよ」

「ほいほい」



俺が教えてもらいながら作っている間にさっと手順を説明しよう。

どうやら作り方は形デザインによっていろいろあるらしいけどそのうちの簡単な物を教えてもらった。


まず30~40センチ程度のワイヤーを4本用意。

そのうちの1本で他の3本を纏めあげる。それを2ヶ所。

2ヶ所纏めあげると間にワイヤーがぶら下がる状態になるからそこを調整して石を引っかけられるようにする。

今はイーナが練習用にとくれた《白石》を代用。

石を引っかけられるようにするコツは籠をイメージして作る、とのことらしい。

俺はなんとなく鳥かごをイメージして間隔を開ける。

その次に《白石》をそこに嵌め込み形を調整。

厳密に言えばこのとき外側の2本で横を内側の2本で底を支えるようにするとうまくいく、とのこと。

しっかりと調整をしたら最初の3本を石の上部に持っていき残りの1本でまた纏めあげる。ここでミスれば石がぐらついたり、落ちたりするから慎重に行う。ここ重要ですよ。

このとき石の横側にもワイヤーがくるので少し開けばそれも固定することになりより安定感が増す。あとは残った6本(3本のワイヤーを石のところで半分にしたことになるので6本になる)を3本と3本に分け、みつあみをし輪がつくるよつに形作る。

石の上部でみつあみになったワイヤーの先端をクルクルと巻き付け固定部分が見えないようにワイヤーをとめたら完成。

あとは好みに合わせて飾り付けをすればいい。


これでも分からないやつはスマホを開いてググれ。

異世界ではやれない方法だが俺が住んでた世界ならなんでもありだ。



よっしゃ!頑張るぞ!




~~~~時間経過。しばらくお待ち下さい~~~~




「え、すご!なにこれ!?」

「見たことない」

「う~~ん。ここ納得いかない。もう少し手を加えてと」

「あんたはプロか!不器用じゃなかったの?」



完全にワイヤーペンダントにのめり込んだ。


これ案外楽しいな。俺内職系好きなんだよねぇ。

2、3回やって慣れたらいろいろなデザインの物を作る。

花柄だったり、波模様だったり。


でも下手くそだと言われたのは事実なんだけどな。

あ、今思い出した。そういえばあのとき浩介は「凰真、お前嫉妬されてるだろそれ」と言ってたな。

なんで嫉妬なのだろうか?よくわからん。



「あと身に付けるんだったらネックレスとかもいいよな」

「なんで教わらずにネックレスつくれるのよ…………」

「直感」

「始めてオウマに負けた………!」



なぜかエルサはうちひしがれている。

まぁこのワイヤーあまり重さもないし肌も痛まないからちょっとワイヤーの長さや結び方も変えればネックレスは作れる。



「楽しい?」

「おう、教えてくれてありがとな。イーナ」

「それを使ってどうやって人を殺るの?」

「怖い!怖いぞイーナ!それはただの殺人鬼の思考回路だぞ!」



ヤンデレを通り越して殺ンデレになっとる!

あれか!これが嫉妬ってやつか!

怖ぇな!嫉妬って命を懸けるんだな!



「でもエルサもなかなかいい出来だと思うぞ?」

「上手」

「うぅ、あなたたちに言われると嫌みにしか聞こえない…………」

「嫌み以外に聞こえたか?意外だな」

「拷問器具に使えそう」

「腹立つわね!そこ認めるんだ!それにイーナ!それは乙女にあってはならないイメージしてるわよ!」



普段はやられっぱなしだからな。

こういうときに仕返ししないとチャンスがない。



「あ、そういえばワイヤーってどこで売ってんの?」



危うく忘れるところだった。

作り方を覚えても素材がなくちゃ作れっこない。



「私が普段取引している商店がある。そこと契約をすればいい」

「でもそう上手く取引してくれるかね」



イーナはともかく俺の場合は疑うべき点が多すぎる。

まず無名のうえ記憶喪失。この時点で取引するのはだいぶ厳しい。

少なくとも平等な扱いはされないだろうな。

さらには俺は店をやってるわけでもない。

言わばそこらへんのガキと同義だろう。そんなやつといきなり取引してくれるやつはなかなかいないと思う。



「そうだ。シークスに頼むというのは」

「あんた既に《白石》頼んでるんじゃないの?シークス達だって暇じゃないんだから。あまり頼みすぎると迷惑行為よ」

「ぐっ………」



別にシークスに迷惑がかかる分には全然問題ないのだがキーンとニムルにも迷惑かかるのか………。それはまずいな。


俺が悩んでいるとイーナが提案をする。



「それだったら分けてあげる」

「へ?いいの?」

「私の場合は趣味だから支障は特にない」

「マジか!助かる。ありがとな」

「うん………別にいいよ」



俺が礼を言うと頬を赤くして恥ずかしそうにする。


おぉ、デレた。見事にデレた。

よかった。デレの部分があって。デレが無かったらこれからは殺人鬼と呼ぶところだった。



「……………それで、明日からどうするの」



それに対してエルサはご機嫌ななめだった。

まだネックレスのことを根に持ってるのか?



「そりゃあ稼ぎに出るさ。ただその際においてやることがあるな」

「やることって?」

「村長にちょっとしたある許可を貰いに行くんだよ」

「別に売り出すくらい大丈夫だと思うわよ?」

「あぁ、違う違う。そっちじゃない。それと多分お前のイメージしてることと俺がやろうとしてることは若干ずれてると思うぞ」

「ずれてるって?」



エルサはまだ分からないという風に聞いてくる。

まあこれだけで分かったらたいしたもんだけどな。

それに対して俺はこう答えよう。



「それは………あとのお楽しみってことで」

「勿体ぶるなバカ!」



ぶたれた。

定番のセリフだろ。

「あとのお楽しみ」って地味に嫌なフラグが立っているよね。


しかし、バカの凰真にはそんな常識は通じないのです。

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