12.鍛冶屋
次の日――
「どうするかなこれ」
新たなる問題が発生した。
それは……………………結局小さくしても無意味じゃね?
光の量は《白石》を減らした際に《光苔》を少量増やして小さいけれども明るい物に変えておいた。
ただ、問題は小さくしても結果片手を塞いでしまうということ。
どつしたものかと頭を捻っていると、奥のドアを開けてエルサが来た。
「あ、おはよー」
「おー。今日は珍しく遅かったな」
「ちょっと昨日いろいろあってねぇ~」
いつもはきびきびとした印象が強いエルサが今日は珍しく眠そうにしている。
え、怖っ。
「え、怖っ」
「声に出てるわよ」
だってさ、あのエルサだぜ?
とにかく明るいエルサだぜ?なんの気まぐれだ。
いや、気まぐれで眠そうにはしないと思うけどもさ。
「あんたはなんでそれ読んでるの?」
「んー。ちょい考え事」
俺が今読んでいるのは《合成の書》。
なぜこんなことをしているのかというと、それは新たなる商品を見出だすため。
は、ついでで
「ペンダントって合成で作れないのかと思って」
「あぁ、あの小さい【ブライム】をペンダントにしようと?」
小さい【ブライム】の利用法の1つとして考えたのがペンダント。
ペンダントなら身につけるだけで邪魔にはならない。
ペンダントが駄目ならリングとかそういうのでも構わないけど………
「ダメだ。さっぱりない」
「というかこれ完成形がほぼ全部書いてないからわからなくない?」
思わず本を投げ出す。
さっきからずっと読み込んでいるが全っ然ない!
困った…………これでは不完全のまま商品にするしか……。
「言っておくけどあの歌歌うの止めてよね」
「うへぇ~い」
どうやら《ハ○の歌》はお気に召さなかったみたいだ。
うむ。まあ歌わなくても合成できるから構わんが。
「でもペンダントならイーナに頼めば?」
「へ?誰それ」
「鍛冶屋やってる子。店では剣や金属装備を取り扱っているけど趣味でペンダントやネックレスも作っているのよ」
「マジで?」
そ、それは頼もしい…………。
こんな村でもダンジョンという特殊な環境があるせいかやっぱりそういう店もあるのか。
そうか、それならそいつに頼んだほうが早いな。
「それなら道案内よろ」
「まぁ、今日は私も特にやることはないから別に構わないけど」
「さっすが頼りになりますな~」
「こういうときばっかり調子乗って………」
でも、そう言いながらも道案内はやってくれるみたいだ。
エルサは責任感強いからなんでも頼みやすいな。そのうちコスプレとか頼めば受け入れ
「なんかやましいこと考えてない?」
「は、俺が考えているとでも?」
こういうところは駄目だな~。都合の悪いところだけ心を読んでくるところ。しかもまだ心の中で呟ききってなかったのに。
「え?考えてないの?」
「なんでそこで心底驚いた顔をする!?どんだけ意外なんだよ!」
まぁ事実だからあえて否定はしないが。
――――――
「ここよ」
「うん、見事にファンタジーでありそうな店で」
「ファンタジー?」
「こっちの話」
俺たちは店の前まで来ていた。
その店の看板には《シャイフ》と書かれている。
例えて言うならファンタジーでどこにでもありそうな店、という表現が正しいだろう。
「パッパッと用事は済ませますかね」
「そううまくいかないと思うわよ~」
「それどういう意味?」
エルサが意味深なことを言うので尋ねるが綺麗にスルーされた。
あとのお楽しみってやつ?気になるなぁ。
すると、突然声をかけられた。
「あれ?オウマじゃん。なにやってんの?」
「お、シークス。そしてその他大勢」
「キーンとニムルの扱い酷くねぇ!?」
後ろを振り返るとシークス。そしてニムルとキーンがいた。
なんかニムルとキーンと一緒にいるところ久しぶりに見た気がする。
て、そうじゃないそうじゃない。
「お前らは何しに来たんだ?」
「それは………」
『あなたたち邪魔よ』
ビュッ
低い声が聞こえたかと思うと何かが顔面スレスレを通過する。
ドスッ
うおぉっ!?
突然のことに少し困惑しながらも飛んでいった方向を見るとそこには向かいにある建物の壁にナイフが刺さっていた。
…………………………おや?もしかしたら目の前通過したのナイフ?
「殺す気かぁぁ~~~!」
「ダメだった?」
「ダメに決まってるだろ!?そこ悔しがんな!」
ナイフを投げた張本人である突然現れた少女。
特徴的な口調をしているが、こいつヤバい。
なにがっていろいろと。だってナイフが当たり損ねて悔しがってるんだぜ?
その対象がモンスターだったら俺だって文句は言わねぇよ。モンスターだったらな。
「イーナ、こいつはこの前話した行方不明のバカ。ナイフ投げて刺さったらどうするのよ。今度は元々無い同然の常識さえ失われてしまうわよ」
「ごめんなさい。今度からは首から下を狙う」
「おい。ちょい待てやコラ。フォローする気全くないだろ。そしてさらにはまた刺す宣言したな」
おかしい。
会話になってるようで常軌を逸した会話のような気がする。
それに首から上に当たらなければいいわけではない。
ナイフは体のどこに当たってもアウトが常識のはすだ。
「それは冗談として、今日は頼みたいことがあって来たのよ」
ようやく本題に入ろうとする。
でも不思議だな。エルサが言うと冗談に聞こえないんだこれが。
とりあえず折角本題に入れたので話は逸らさずに説明をする。
「えーとな、これ【ブライム】って言うんだけど知ってる?」
「エルサに貰った」
「なら話は早い。これを使ってペンダントを「却下」て断んの早いわ!せめて最後まで言わせてくれ!」
なぜか依頼する途中で断られた。
ひどい!泣くぞ!事情くらい聞いてくれたっていいじゃんか。
俺が隅のほうで膝を抱えていると今度はシークスが喋りだす。
「イーナよ。俺の剣はどうなった?できたって聞いたから来たんだが」
「ん。完成してる。はいこれ」
「お!ありがとな。やっぱ2本あると落ち着くわぁ」
シークスがイーナから鞘に納められた剣を受けとる。
シークスはその剣を背中に対になるように吊るす。
て、あれ?
「シークスって片手剣使いじゃなかったのか?」
「いや、俺は元々双剣士だよ。剣を1本ダメにしちまって、それで剣の製作を依頼してたんだ」
「ほぉ~~」
双剣士……………だと?
いいなぁ~~~!カッコいいなぁ~~~!
双剣なんて某有名VRMMOを題材にした物語の主人公と同じやん!俺TUEEのやつやん!
羨ましいなぁ~~~。
「でもホント助かったわ。ほい、これ代金。それじゃ、またな」
シークスが硬貨をイーナに渡すと用が済んだとばかりに歩いていく。
恐らくこれからキーンとニムルと一緒にダンジョンに行くのだろう。
けっ。これだから俺TUEE系のやつは。調子に乗りやがって。
「で、それでイーナ、依ら「無理」少しくらいは話を聞いてくれてもいいんじゃないかなぁ!?」
どう足掻いても拒否の構えをとるイーナ。
おかしいなぁ!?シークスの依頼は受けてたよなぁ!?
攻防を繰り広げているとエルサが呆れた声を出す。
「イーナ、一応お客さまだから話くらい聞いたら?」
「それはどう考えても店側の対応ではない気がするのだが?」
「ん。しょうがない。話くらいは聞く」
そうして店の中に案内される。
なるほどな。エルサが店に入る前に言ってたのはこういうことか。
確かにこの女は一筋縄ではいかなそうだ。
…………あれ?なんか頑張って好きな女の子を口説こうとしているやつみたいになってる。
店の中に入ると《クラシック》とはまた違う趣のある店だった。
壁には剣や斧を始め、ハンマー、グレイヴといった物まで立て掛けられていた。
その中にはペンダントやネックレスといった物まで。種類が豊富だった。
デザイン性も良く使ってみたいという衝動に刈られてしまう。
「すごいな。これ全部イーナ作ったのか?」
「ん。そうだよ」
「へぇ~~、本当にすごいな。俺も作ってみたい」
「っつ!?」
俺が言葉を発した瞬間突然俺から距離をとるイーナ。
あれ?俺なんかした?
隣を見るとエルサが『やっちゃったぁ~』という顔をしている。
知ってるんだったら説明してくれよ。頼むから。
イーナは頬を少し染めてモジモジしだす。
不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
いや、だってさ。イーナ初見だと美少女って印象が強かったんだよ。実際美少女だけど。
でも今はどうよ?可愛い系のキャラになってますよ。これは貴重な光景ですな。
うおぉと!危ねぇ危ねぇ、危うく変態になるところだった。
俺は紳士、俺は紳士………。
変態紳士でいいんじゃね?
ぐあぁ!良いわけないだろうが!俺は変態なんかではない!紳士なのだ!
自分で自分と闘っているとイーナが口を開く。
「こういうの興味あるの?」
「1度見たらやっぱり作ってみたいなぁとは思っちまうよ。とは言っても作れるかどうかは別だけどな」
「じゃあさ」
イーナが一瞬溜めたかと思ったら再び口を開く。
「一緒に………作ってみない?」
「ん?いいよ」
「いいの!?」
そこはもう少し悩むところではないのかと思ったエルサだった。
目指せ!PV1000!
…………………て、ちょっと情けないですね。はい。
でも現状はそんな感じなのでさらに頑張っていきます。




