少年達、隠した牙を現す。
「「「「アグートさん、おかえりなさい!」」」」
家の前に集まったベッグ達四人に一瞬驚いた父とアグニスだったが、その意図に気付いた父——アグートは、
「おう! ただいま! 俺が村を離れている間、お前ら悪さしてなかっただろうな?」
「し、してないよ! 最近は芋の収穫で大忙しだし、皆構ってくれないんだ」
ケニーがそういうとアグートは笑いながら一瞬考えに浸る様子をみせ、
「そうだよな。もうすぐ冬が来るもんな。冬は村もそうだが、森も食うもんが少なくなる。冬眠する獣は良いが、それ以外の生き物は腹を空かせて村まで流れてくるかもしれん。今まで俺はお前達に自分の身は自分で守れるように稽古を付けて来たつもりだ」
それ以外の生き物——魔物の事だろうか。
眼鏡を掛けたロイはそう考え、身震いした。
「この前の稽古の際、お前達は未熟なりにも一通りの剣の振り方は身に付けたようだと俺は判断した。今日の修行は実践形式で行うからそのつもりで臨め。いいな?」
元冒険者、それも魔法使いが人に剣を教えられる事は限られている。
護身術程度の物かもしれないが、これを学んだ者と学ばなかった者の生存率は天と地の差がある。
幸いにもアグニスという努力の仕方のお手本が周りにいるせいか、この四人も自分なりに精進しているのか、俺が教えた事以上に実力を付けているようだしな。
ロイは微妙な所だが……。
「もうじき日も暮れる。訓練所まで歩いて行く時間が惜しい。……裏の空き地で行うぞ」
アグートの言葉に従い、子供達一同は気を引き締めながらアグートの背を追った。
——
空き地は良く整地されていた。
最初は至る所に大小様々な石が転がり、夏に逞しいとも言える程に育った雑草が生い茂っていて駆けっこ程度の遊びは出来るだろうが、修行をするには厳しい環境であった。
仕事の合間にアグニスが石ころを拾い集め、雑草をせっせと抜いているのにベッグが気付き、これまた俺達も混ぜろ!とガキ大将節が発揮され、村の子供達全員で空き地を整地したのだった。
親御達の反対を押し切ってまで、アグートが子供達に稽古を付けると思い切ったのも、こういった自分達で出来る事を率先してやる姿勢に思う所があったのも理由の一つなのだと、アグートは語った。
裏でアグートが子供達の親を説得していた事を当人達は知る由もない事なのだが。
「さて、と。そうだな。最初は前衛にバッカス、そして後衛はロイだ。間にケニーが入って、弓で二人を援護しろ。初めての集団戦闘だ。連携は上手く取れなくてもいい。少しでも思う事があれば戦闘が終わってから各々相談しろ。その後に俺に結論を伝えに来い」
ケニーは猟師の父を持ち弓が得意だ。
剣の腕は可も無く不可も無くといった感じだが、父と一緒に狩りに出かける事がある為、この五人の中では唯一、複数人での戦い方を知っている。
単体では弱いが、上手く動き隙を作れば、アグートに一矢報いる事も不可能では無いだろう。
「おい、バッカス! お前はとにかくアグートさんの剣を受け続けろ。攻撃は当てようとするな! 受け身の姿勢を徹底しろ。むやみに攻撃すると、返し技でお前が崩される。ロイ、お前は頭が良い。今回の戦闘では俺が指揮を執るが、次はお前に任せる事になるだろう。お前は確か初級魔法が使えたよな?」
いつもの悪戯好きのケニーはどこに消えたのか、その姿勢は真剣そのもの。
ロイも最初こそ自信無さ気にしていたが、今回の修行は一人ではない。
いつもは三合いで弾かれていた剣も、バッカスがアグートを止めてくれるのであれば話はまるで別物だ。
「うん、使えるけど……。でも魔力総量が少ない僕は一度しか発動する魔力を持ってないよ。それに詠唱も覚えたばかりだから凄く時間が掛かってしまう」
「時間稼ぎは俺とバッカスに任せろ! お前は詠唱を間違えないように集中するんだ。良いか? はずすなよ? あとバッカスにも当てちゃ駄目だ。あとな……知ってるぜ? お前が毎日家で魔法の練習してるの」
一瞬悪戯好きの顔に戻ったケニーだったがすぐに表情を引き締める。
「え?」
聞き返そうにもタイミングを逃してしまったロイは、与えられた役割をこなす為に意識を切り替えた。