少年、父の帰還を喜ぶ。
日も暮れ始めた頃、アグニスは目を覚ました。
大きな欠伸をしてから顔を洗いに井戸へと向かおうとした時、玄関の扉が開いた。
その音で思い出したかのように駆け出す。
玄関に辿り着くと、そこには、大量の荷物を抱えた、汲んだ赤色の髪をした男がおり、靴を脱いでいる最中であった。
長旅で疲れている様子が伺えたが、玄関にやって来た息子の顔を見ると、まるで疲れなど全く感じさせる事のないような笑顔で、
「ただいま、アグ」
「おかえりなさい! お父さん!」
駆け寄る息子を抱きしめる。その際肩に掛けていた鞄が落ちそうになるが、そんな事は気にも留めなかった。
「おかえりなさい、あなた」
息子と全く同じ台詞であったが、その言葉に込められた意味は計り知れない。
夫が旅に出る度に無事を祈り、そんな様子は欠片も感じさせないよう息子には振る舞っているが、不安で仕様がないのだろう、その眼には薄らと涙が浮かんでいた。
「ただいま、レニス。……心配かけたな」
「良いのよ、仕事ですもの。……無事に帰って来てくれて良かった」
レニスを抱きしめ、改めて息子と対峙する。
「何だ? また大きくなったんじゃないか?アグ」
「へへへ、そうかな? でも、まだまだお父さんには追いつけないよ」
「はは、そう簡単に抜かれてたまるかよ。でもまぁ、この調子だとすぐに抜かれるかもなぁ」
アグニスは父に撫でられ、その表情をへにゃっと崩す。
家を離れる度に思う。辛い、と。
息子の成長を間近で見れないのは悲しい事だ。
仕事だからと割り切っていても辛い事は辛い。
「さてと、飯の前にちょっとだけアグの剣を受けてやるか」
玄関先に立て掛けてある二本の木刀の内、一本をアグに渡す。
「え! 良いの? やったー!!」
受け取りながら喜ぶアグであったが、朝のレニスとの約束を思い出し、途端に複雑な表情になる。
「アグ、お父さんがしたいみたいだから付き合ってあげなさい」
やれやれと言った感じで言うレニス。
「もうすぐ日暮れだ。日が落ちる前に済ませるぞ。母さんのご飯が冷めちまう前にな」
「うん!!」
やっと母親の名前を出す事ができました。
次は父親ですね。大体の話は既に出来ていますので
もう少しだけお待ちいただけると幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。