少年、昼寝をする。
アグニスは畑仕事を済ませ、自宅にて休んでいた。
如何にやる気があろうともアグニスはまだ子供であり、朝から働いてるのに加え、合間には修行も行なっているのだから疲れるのは当然の事であった。
アグニスは仕事を終え、家に戻ると、こうして昼寝をする。
消耗した体力を回復させるのが目的だが、襲ってくる眠気はアグニスの体が、これ以上は危険であると脳に信号を与えているのだが、当の本人としては、この昼寝は毎日の習慣になっているのだった。
そんなアグニスをズグ以外の村の殆どの者達は、騎士に憧れ、夢に向かって頑張る健気な子供程度にしか感じていなかった。
ズグ・ヘトが例外なのは、アグニスが治療院を赴いた際に、彼の手の平の剣ダコや足の裏の豆、筋肉の発達具合を知っていたからである。
オマケにアグニスは頭が良い。
周りの状況を良く観察し、自らするべき事を自分が出来る範囲で最善を尽くそうと努力する。
アグニスは、決して無理はしない。
しかし、着々と実力は付いている。
無理をしないのは怪我をした場合のリスクを知っているからだ。
——
空き地にはベッグを含め、四人の男の子が集まっていた。
茶色の髪を坊主頭に刈りそろえた小柄な目付きの鋭いのが悪戯好きのケニー。
その後ろでおやつの時間にはまだ早い筈なのに棒付きキャンディを舐めている三人よりも一回り以上の体躯を持つ太ったのが力持ちのバッカス。
そして、牛乳瓶の蓋のような眼鏡をしていて、育ちに良さそうな細身の男の子は常に冷静沈着で、この三馬鹿トリオの唯一の頭脳であるが、運動は苦手なロイ。
べッグを含めたこの四人が村の子供達の中心であり、べッグ、以下三人は言わば幹部のような存在であった。
「んで、どうだった? ケニー」
ベッグがケニーに話しかけた。
「うん、やっぱりアグニスは家で寝てたよ。まぁ、この時間だといつもの事だけど」
「それで?どうしてわざわざケニーにアグニスの家を覗かせに行かせた訳なんだい?そろそろ教えてくれよ、ベッグ」
眼鏡をくいっと上げながらロイが促す。
「おう、それなんだけどよ。今日、アグニスの親父さんが帰って来るらしいんだ」
「え! アグニスのおじさんが帰っきたってことは、久しぶりに皆で棒遊びってことか! 楽しみだなぁ〜」
「馬鹿『棒遊び』じゃねぇ。修行だ、修行!」
何度言ってもケニーは剣術の修行を『棒遊び』という。
アグニスがその呼び方をしているのを聞く度に、ケニーはその日の組み手で酷い目に遭わされている。
懲りない奴である。
「え〜、僕は良いよ。動くの苦手だし……」
「おい、ロイ。お前は確かに運動音痴だけどよ、もし魔物が襲ってきたらどうすんだよ。自分の身ぐらいは自分で何とかしてぇだろうが」
「その時は大人を呼ぶよう……」
情けない男だ、貧弱だ。
「とにかくだ! アグの親父さんが帰ってきたらすぐに分かるようにアグん家を張るぞ!」
バッカスは次のお菓子の封を開けた。