少年、畑を耕す。
薪割りとベックの件を済ませたアグニスは、今度は畑を耕しに出かける。
村には数カ所、村共同の畑が存在し、クリケット家が任されている畑はアグニスの家から歩いて五分の所に位置している。
比較的近場にあるので移動も楽だ。
もう直き本格的な冬がやって来るため、種を撒く事は無いが、今はその冬を越す為に村総出で芋の収穫に追われていた。
かといって子供のアグニス達が出来る事といえば限られている。
大人達が桑で掘り返した芋を土の中から取り出し、籠に入れる作業と、それを蔵に運ぶ作業の二つのみだ。
しかも運ぶ作業は子供といっても年長の子達に分担されていて、実質、アグニスの出番は芋の選別作業のみであった。
「おぉ、来たかアグ坊。今日も沢山だから頼んだぞい」
この村の唯一の治療院を経営するズグ・ヘトはアグニスに気付くと手に持った桑を杖代わりにしつつアグニスに声を掛けた。
治療院といっても名ばかりで、建物はズグ・ヘトの家である。
体調が悪くなったり怪我をした場合、直接ズグの家に赴き、診療してもらう形となっている。
その為、ズグの家はほぼ村の中央に位置し、受付時間は設けられていないが、昼過ぎから夕方の間に治療を求める者は足を運ぶというのがこの村の常識となっていた。
勿論、緊急を要する場合はその限りではないが。
治療自体は、効能のある薬草を煎じた薬や、塗り薬を塗りたくられるという簡易的な物であったが、その効力は折り紙付きである。
アグニスも何度かお世話になった事があった。
――
「そろそろ、休憩にするぞい」
ズグのその一言を合図に作業をしていた者達は束の間の休息を取る。
アグニスが如何に疲れ知らずの子供といえど長時間同じ体勢を維持しながらなので、暫く続けていると腰に来る。
それはアグニスだけの事では無い為、ある程度作業が進むと休憩を挟むのだ。
アグニスはこの休憩の時間、持参した木を削って作った木刀を片手に、素振りを開始する。
一度振り下ろす度に、父に教わった振り方を意識しながら振り下ろし、構える際は呼吸が乱れないように意識する。
実技の経験はまだ父との組み手のみで『敵』という存在を想像するのは難しいが、前に一度村に入り込んで大人達が戦ったゴブリンの動きを思い出し、イメージしながら素振りをする。
アグニスは幼いながらも常に考えながら修行していた。
水を汲んだ桶をスムーズに運ぶ為の体重移動の仕方、薪を割る際の見極め、剣を振る時の呼吸。
父は言った。
師がいないのであれば、己で考え鍛錬するしかないのだ、と。
自分が最良と考え行動すれば、後にそれが間違っていたとしても、その経験はきっと活かされる。
未来の自分を活かすのは今の自分しかいないのだ、と。
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