鈍感。
旅の途中、沢山の困難を乗り越え、成長していく少年を眺めながら、俺は穏やかに歳を重ねていく。
少年が遂に俺の背を抜いた。
大人らしくなった精悍な顔つき。
あんなにも小さかったのに、大きくなったもんだ。
剣の腕も、精神的にも大きく成長した青年に俺は感慨深い気持ちになった。
「親父に早く会いに行こうよ、伯父さん」
「そうだな、久しぶりの故郷だ。ユーリもお前を待っているさ」
「俺の剣技を親父とお袋に見てもらうんだ」
しかし、そんな穏やかな時間は唐突に崩れ去った。
突如世界に亀裂が生じた。
同時に、酷い頭痛が襲ってくる。
俺はその場で崩れるように倒れ込んだ。
「伯父さん!」
「ルーファス!?」
「お、おい!?」
三人の仲間達が側に駆け寄ってくる。
一体どうなっている?
身体がいうことを利かない。
酷い頭痛が俺を襲い、仲間達の声が遠くなっていく。
――ス。
――ファス。
周りの音が消えている中、微かに頭に響く声。
――まして、――ファス。
あぁ、俺はこの声を知っている。
今、行くよ。
――
「目を覚まして、ルーファス!」
意識が戻って最初に聞こえたのはアルエルの声だった。
俺が見ていた夢の中にも届いた声。
「……アルエル」
「――!」
俺の声が届いたと同時に、俺はアルエルに抱きしめられた。
アルエルは泣いていた。
ここまで大泣きしているのを見るのは初めてだった。
泣き止むまで待っている間に、俺は状況把握に勤しむ。
「アグニス、無事だったか。良かった」
「うん。俺は大丈夫。この子――リーシアがルーファスを治療してくれたんだ」
アグニスの後ろに隠れるようにしているエルフの女の子。
どうやら、俺が気絶している間に、大分世話になったらしい。
「……そうだったのか。リーシアさん、ありがとう。貴方は俺の命の恩人だ」
「そんな、こちらの方こそルーファスさんには助けてもらいました。ですからお礼なんて良いんです。少しでもその恩が返せたなら」
それにしても、何とか命を繋げたとはいえ、俺もまだまだ未熟者だと痛感してしまうな……。
腹の傷は奇麗さっぱり無くなっている。
どうやら相当な治療薬か、回復魔法を使用したらしい。
食らった本人だからこそ分かる、あれには強力な呪いが掛かっていた。
「とにかく、リーシアを里に送りに行こう。村の子供達も心配されてるだろうし」
アグニスが此処に居る皆に向けそういった。
「それもそうだな。良し、そうし――」
「あ、あの!」
俺の言葉を遮るようにリーシアが大きな声を出した。
「わ、私を送るのは最後で良いです。私は一度里に戻りましたし、お父様や里の人達なら大丈夫ですから」
「そ、そうか? でもなぁ……」
エルフを村まで連れて行くってどうなんだろう。
「本音で言うと、人間族の方達の生活を見てみたいという気持ちもあります」
そう言っているリーシアは、言葉の途中、チラチラとアグニスの様子を伺っていた。
ほう、アグニスの奴中々やるな。
「あー、まぁ。そういうリーシアさんが良いっていうならそれに甘えようか」
「では、よろしいのですか?」
「あぁ。でも、アグニスの側を離れるなよ?」
「え?」
アグニスは何故自分なのだ。という顔をしている。
「村の連中の中に盗賊団の一味が混じっている可能性がまだあるからな。しっかり護衛してやれよ? アグニス」
そうだ。まだ終わっていない。
此処にいる盗賊団を捕らえ、村に居ると推測される残党を見つけ出さなければ。
魔王を相手にした後だと、盗賊団相手など、そんなにも大変だとは思えないが。
「はい、アグニス様に守ってもらいます」
嬉しそうにそう言うリーシア。
まぁ護衛だけが理由では無いんだけど、アグニスはどうやら鈍感なようだ。
全然意図に気付いた様子もなく、
「……わかった」
と、首を縦に振った。
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