エルフと霊薬。
「連れて来たぞ、アグニス。しかし、気を失ってるみたいだな」
エルフを横抱きにして運んで来てくれたスレイブ。
魔王の覇気で気を失ったエルフがぐったりとスレイブの腕の中で眠っていた。
「あぁ、大丈夫だ。アルエル、状態回復は使えるな。ルーファスの回復は一旦俺が代わるからエルフの女に状態回復を頼む」
「あ、あなた……、回復魔法は使えないんじゃ……」
「あぁ。見よう見真似だがな。さっき覚えた」
「さっきってあなたねぇ、そんな簡単に回復魔法が使えるわけ――!」
「"妖精の陣”!」
アルエルと全く同じ魔法、加えて詠唱破棄での発動。
「さぁ、早くそいつを目覚めさせてくれると助かる。俺は魔法は使えるが魔力総量が少ないんでで……」
「一体、貴方に何があったの?」
「何度も言うが、今話すべきではないと俺は思う。今一番重要なのは、ルーファスの命を繋げる事だ」
「……"状態回復"!」
魔法を施されたエルフは、ゆっくりと眼を覚ました。
スレイブは目が覚めたそのエルフを、丁寧な手付きで地面へ降ろした。
エルフは周りの状況を把握するまで唖然としていたが、目覚めて頭が覚醒してきたのか、勢い良く頭を下げた。
「あ、赤髪の子……。 た、助けてくれてありがとうございます!」
「あー、お礼はいい。なぁ、エルフのお嬢さん、俺達の仲間が先の戦闘で死に掛けてるんだ。 それでな、霊薬を分けて欲しいんだ。この傷は呪われていて、傷にいくら回復魔法やただの治療薬を使っても効かねえ。 状況は一刻を争う。頼む!」
お礼なら俺じゃなく、ルーファスに言ってくれ。
俺は、お前達を助けるとか大口叩いたくせに返り討ちにされ、ましてや俺自身もルーファス達に命を救われた。
もし、彼らが来ていなかったら、あの黒剣に引き裂かれていたのは俺だっただろう。
そして、その男が死にかけてるのは俺達を助けようとした結果だ。
エルフが常識を持ち得る種族なら、恩を仇で返すような真似はしないだろうが。
問題が有るとすれば、エルフという種族が、人間嫌いだという事だ。
正直、素直に要求を呑んでくれる確率は五分五分という所か。
霊薬を渡せというのは、ただ、町で売っている治療薬を買うのとでは天と地の差程意味合いが違ってくる。
エルフが人間嫌いになった理由は、その美しい美貌が原因で人攫いに狙われ続けたのと、貪欲な人間が《エリクサー》を欲しがり、エルフの里に押し入ってきた為である。
霊薬は、命の鼓動さえ止まっていなければ、どんな傷でも癒すとされていて、それ一つの価値は、計り知れない。
「わかりました。霊薬なら家にあります。では、私、急いで取って来ます!」
「待ってくれ! ありがとう。本当に助かるよ。……でも君の足では走っても間に合わないだろう。君の体型なら俺が運んだ方が速いと思うんだ。 それと、一刻を争うと言ったばかりなんだけど、少し此処で待っていてくれ。僕は一度、光魅の草を摘んでくる。霊薬とまでは行かないけど、多少は効果があるかもしれない」
「アグニス、光魅の草なら俺が取って来る。お前は――」
「駄目だよスレイブ。それだと今もルーファスに治療魔法を掛け続けているアルエルの護衛はどうするのさ。それに、僕の獲物は剣だ。スレイブ、アンタは敵の接近に逸早く気付くのを得意とし、遠距離攻撃が出来る弓使いだ。僕よりも、こういう広い場所では護衛に向いている」
「……そこまで考えていたのか。確かにお前の言う通りだな」
スレイブは関心したようにそう言った。
己の武器を手に取り、苦しそうにしているルーファスを見た。
「……二人は、ルーファスの近くに居てあげてくれ。俺の為に命を張ってくれたんだ。これぐらいさせてくれよ」
「……アグニス、ごめんなさい。ありがとう」
アルエルは、アグニスの真意に漸く気付いたのか、そう言うと直ぐにルーファスの治療を続けた。
額には大量の汗をかいている。
そう、いくら凄腕の魔法使いといえど、彼女の魔力にも限界があるのだ。
「それじゃあ行ってくるよ! エルフのお嬢さん、回復魔法が使えるならアルエルを手伝ってくれると嬉しい。傷は塞がらなくても、一時的に縮める事は出来る。少しでも時間稼ぎをしてくれ!」
アグニスは光魅の草の群生地へと向かった。
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