届き得た蒼剣。
最近ルビを振る事を覚えました。
ここ数話で使っているのはお気付きかと思います。
そこで変更点をここでお知らせします。
気 闘気 覇気
上記の読み方とさせていただきます。
今後、一度全話を見直して修正をしていきます。
アグニスは、己の目の前で壮絶な戦いを繰り広げている四人達を眺める事しか出来ないでいた。
魔王が纏わせる圧倒的な覇気を前にして怯みもせずに戦う猛者の姿に、戦慄すら覚えていた。
『ガスト』との戦いを経験し、多少は強くなったつもりでいたアグニスは、それが己の驕りである事を悟った。
迸る剣戟、一帯を炎で包み込む程の凄まじい威力を誇る魔法。
仲間に紙一重で当たるかもしれないとすら思う程に正確な弓の扱い。
各々一人一人の連携は熟練のそれであり、アグニスの持たない経験を積み上げた者の戦いは、これ程までに洗礼された物なのかと、アグニスは思った。
そんな戦闘の中でも、ルーファスと魔王の剣の戦いは眼を見張るものがあった。
剣術を修めた者の戦い方。
そして、それに加え、己の経験を活かして放つ機転の利いた一撃。
単純な腕力の差なら、魔人でもある魔王に優劣が有るのは必至。
しかし、それをルーファスは微塵にも感じさせない。
何がそこまでルーファスを動かすのかが、アグニスには分からない。
真に強き者が振るう剣という表現がルーファスの剣には似合うのだ。
ルーファスが纏う覇気は、魔王のそれとは違い、儚いながらも、強き物を感じさせ、その中に感じる暖かい思いが、魔王が放つ覇気に感じる悪寒を、ルーファスのその覇気が中和させているのがアグニスには分かった。
(凄ぇ、凄ぇぞ! 剣士のおっさん!)
戦闘は尚も続いている。
アグニスは目の前の戦いを一瞬でも見逃さない為、瞬きすら忘れる勢いで見続けていた。
魔王の力はアグニスの『能力』では奪う事はできないが、対象がルーファス達ならば『能力』は通用する。
戦わずして向上していく己の技術に、思わず頬が緩んでしまう。
(あぁ、よーく見てるぜ。おっさん!)
その時、遂にルーファスの振るった蒼剣が、魔王に届いた。
腕が切り裂かれ、辺りに朱い鮮血が飛び散った――。
――
――恐れるな。
俺の剣は、魔王にも通用する。
精神生命体である存在の魔王にこの聖魔石の剣は有効であった。
蒼剣に付着した血液を見て、俺はそれを確信する。
確かに、魔王の動きは確かに速い。
三人で戦っているのに関わらず、奴に届き得た一撃は今の一振りのみ。
しかし、俺は剣を振るう手を止める訳にはいかない。
「よ、よくも妾の肌を……!」
己の肌を切り裂かれた魔王が震えている。
(っく、凄まじい魔力だ! 耐えられるか!?)
「燃え尽きろ人間がァァァァァ!!!」
ルーファス達に襲いかかる灼熱の炎。
「――アルエル! 反抗頼む!」
「任せて!」
灼熱魔法を何とか防いだが、敵は既に次の攻撃に移っている。
「小癪な小娘め。しかし、これならどうだ?」
魔王の周りを夥しい数の魔力弾が宙に浮いており、それがルーファス達目掛け一斉に飛来した。
「――スレイブ! 撃ち落とせ!」
「おうよ! ――反抗の気抜くなよ、アルエル!」
スレイブによる高速射出。
射られた矢、全てに爆裂広範囲の術式が組み込まれており、魔力弾に命中すると同時に、他の魔力弾をも巻き込み爆発した。
「――馬鹿な!」
「あとは、任せたぜ! 大将!」
仲間が作ってくれた絶好の好機!
俺達の魔力もそろそろ限界だ。
この好機を逃せば次は無い。
「留めだァァァァァァァ!!!」
これが最後の一撃。
俺はありったけの覇気を纏い、地面を蹴る。
己が闘気を最大にまで練り上げたそれで剣を覆う。
加速の最中、アルエルの援助魔法も加わったこの一振りで、魔王を討つ!
俺達が放てる最高の一撃をくれてやる!
それは刹那の攻防であった。
俺の剣には確かに魔王を切ったという手応えがあった。
しかし、同様に俺も一撃を貰い、――腹を切られていた。
あの一撃をその身に受けながら、俺を切ったのだとしたら、魔王は敵でありながら賞賛に値するというものだ。
俺は薄れ行く意識を必死に保ち、魔王の最後を見届けようと体勢を変えようとしたが、――無理だった。
体が思うように動かない。
そりゃそうだ、意識も曖昧なのだから。
あーでも、頭部が柔らかなものに包まれている気がするな。
この甘い匂いは……アルエルか。
近くにいるなら早く治癒魔法を掛けてくれよ。
ん?何?アルエルが何か言っているが、どうしてか聞き取れない。
喚いているようにしか聞こえない。
おい、やめろよスレイブ、俺の胸を叩くなよ。
痛ぇだろ! ……いや麻痺してんのか?痛くねえや。
おお、アグニス。
俺は魔王を滅ぼす事が出来たか?
ちゃんと叔父を見てたか?
俺は意外と強かっただろ?
なぁ、教えてくれよ、アグニス。
そうだ、村に帰ったら俺がお前に剣を教えてやるよ。
あー、その……何度も断って悪かったな。
その代わり、みっちりしごいてやるから覚悟しておけよ。
それとな、お前には話してぇ事が沢山あるんだ。
これはちゃんと時期が来てからにするからよ、楽しみにしとけ、な。
頬に振ってきた一滴の何か。
雨でも振って来たのかと思ったが、ここは暗い森の中だ。
雨が入り込む隙間すら無い。
だとすれば、これは何だろう。
次から次へと振って来る暖かいそれ。
俺はこれを知っている――涙だ。
なんでアルエルは泣いてんだ?
おいおいスレイブまで……。
まさか、俺は――死ぬのか?
――そこで俺の意識は途絶えた。




