赤髪の少年。
「ほう。立ち直ったか? ルーファス」
成り行きを悠然と見守っていた魔王が口を開く。
しかし、魔王は臨戦態勢のルーファス達に向け続けた。
「さて、では始めよう――と言いたい所なのだが……。――残念ながら今回はその機会ではない」
「ふざけるな! 逃げるのか魔王!」
「逃げる? この我が逃げると?」
巻い上がる魔力の渦。
魔王を取り巻いた紫電の勢いが増していく。
「思い上がるな、人間。貴様らが幾ら束になり妾に牙を向けど、結果は見えている。貴様の心の迷いが消えたとて、それは変わらんこと。――せっかく妾が『逃がしてやる』と申しておるのだ。素直にそれに従った方が良いのではないか? ルーファス」
「黙れ! 俺はもう二度と逃げない!」
「……そうか。本当に残念だよ、剣士ルーファス」
突如、魔王の表情に色が消えた。
「……お前は此処で――死ぬ」
その声は酷く冷たい物であった。
魔王サテリナルが今、力を解き放とうとしていた。
刹那の瞬間、放たれた魔力。
膨大な魔力の塊がルーファスを襲う。
それをルーファスが抵抗せず、受ける訳が無い。
魔弾に向かってルーファスは駆け出す。
兄から授かったこの剣は、聖魔石製であった。
この剣ならば、奴にさえ!
兄がこの聖魔石の剣を俺に託してくれた意味が、今なら分かる。
この剣で、奴を――魔王を打ち砕く!
俺は救うんだ! 子供達を、俺の仲間を!
そして――あの子を。
最初は、あぁ、似ている子供がいるな、程度にしか思っていなかった。
あの子も、生きてさえいればこのぐらいの歳なのか、と。
その子には家族が居た。
親子の仲が良い、幸せそうな家族だ。
ある時、その男の子が、剣を教えてくれと言ってきた。
しかし、俺は断った。
その子を見ていると、どうしても思い出してしまうからだ。
それから毎日のように何度も尋ねてきたが俺は断り続けた。
それなのに、子供達が攫われたと聞いた俺は、何故か少年の事が一番最初に頭に浮かび上がったのだ。
俺の胸はざわめき始め、少年の安否が心配で堪らなくなった。
そして、気が付けば俺は走り出していた。
ケニー親子の話を聞いている内に、それが何故なのか漸く気付いた。
(やっと、見つけたんだよ兄貴……)
「――ハァァッ!」
ルーファスの蒼剣が魔力弾を両断し、ルーファスはその勢いを利用して、着地と同時にアグニスがいる場所まで移動した。
ルーファスの瞳には涙が溢れていた。
アグニスはそれが何故なのか分からなかった。
しかし、ルーファスがアグニスに向けて言い放った言葉、それは――
「――待たせたな……。本当に待たせちまった」
「!?」
「……アグニス、立てるか?」
ルーファスが差し伸べた手を取り、アグニスは立ち上がった。
「よく見ておけよ、アグニス。――叔父の剣を」
ルーファスのその言葉の本当の意味をアグニスは理解していない。
しかし、剣士にはそれでも良いと思えた。
救えなかったと思っていた命が生きていたという事実だけで――。
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