剣士の過去。
ルーファスの告白を聞いた二人は、暫くその意味を理解するのに時間を要した。
スレイブは硬く瞼を閉じ、アルエルは瞳いっぱいに涙を浮かべ、それは今にも溢れそうであった。
「ずっと……騙してたの?」
「……すまない」
「……どうして! どうしてたの……。なぜ、本当の事を言ってくれなかったの!?」
アルエルは、理解が出来ないと大きく首を振る。
その姿にルーファスは苦しそうに顔を歪めた。
「言えば、離れていくと思った」
ルーファスは怖かった。
「兄を殺したのは『ガスト』じゃねぇ。……俺なんだよ。それなのにその『俺』が兄の敵討ち?自分の事ながら笑いたくなる程、矛盾してるよな」
自傷気味に笑うルーファス。
ルーファスは瞳を閉じて、過去の過ちを思い出す。
――
あの時の俺は、死ぬのが怖かった。
自分が巻き起こした戦争に巻き込まれ死んでいった仲間は多い。
その仲間達は家族を国に残し、心半ばに命を散らしていった。
戦争が始まる一月前に子供が産まれて『父』になったばかりの奴もいた。
そいつは俺の目の前で、敵の槍に刺されて死んだ。
王に攻めるべきだと進めたのは俺だ。
俺だけじゃない、兄もそうだ。
しかし、俺には覚悟が足りなかった。
魔族を相手に戦争を起こすというのがどういう意味なのかを理解していなかったのだ。
勝利を疑いもせずに慢心し、剣を掲げた。
しかし、結果は惨敗。
敵である魔族の軍勢も損害は出ていたが、我が軍は出撃した殆どの兵が死んでいった。
――一万五千人の内、生き残ったのは僅か二百にも満たない数だった。
その生き残りの中に俺は居た。
一人の将として、臨んだ戦であったが逃げるので精一杯であった。
戦は長くは続かなかった。
一万五千の兵は、三日も持たずして敗北したのだ。
ルーファスは敵国の将軍の元へ連れて行かれた。
その将軍というのは『ガスト』であった。
覆面を被り、素性を隠すその男に言い渡されたのは、此度の戦の責任を取るとして、公開処刑――打ち首であった。
直ぐに行われるかと思ったが、日を改め、正式に発表してからとの事を言い渡されたルーファスは、残された人生を自宅で過ごす事を許された。
自宅には既に兄がいて、俺は言い渡されたそれを告げた。
それを聞いて兄は言ったのだ――逃げろ、と。
それは、決して許される事では無い。
もし、ルーファスが逃亡した場合は兄が代わりに打ち首となるのは間違いが無かった。
唖然とし、黙り続けるルーファスに兄は言った。
【 お前を絶対死なせない。
お前には国を変える力がある。
今は無理だが、力を身につけ、いずれは魔族を滅ぼしてくれ。
その礎に成れるなら死など恐れない。
お前の為なら、私は喜んで死を受け入れよう。
兄ちゃんは、お前を心から愛している。
だから、お願いだから――生きてくれ。 】
ルーファスは兄の覚悟を知った。
国を滅ぼし、数多の人々を巻き込んだ俺を、兄は愛していると言ってくれた。
罪悪人の俺に、生きてくれと言ってくれた。
たった一人の兄貴だ。
俺だってそうだよ。
俺だって、兄ちゃんを愛しているよ――。
―― ―― ―― ――
ぼくは悪いことをする度、兄に叱られる。
両親を亡くしたぼくには兄しか家族がいない。
兄は父の代わりにぼくを育ててくれている。
でも、兄はいつも怒ってばかりだ。
だからぼくは思うんだ、兄がいる家には帰りたくないって。
家に帰ると、暖かいご飯が用意されていた。
最近、兄がぼくの相手をしてくれない。
帰ってくるのも夜の遅い時間だ。
だから今日もぼくは一人でご飯を食べた。
ぼくは、兄がいなくても全然平気だ。
ドロボーが来ても、この剣で懲らしめてやるんだ。
兄がおんなのひとを家に連れてきた。
綺麗だったけど母さんの方がぼくは好きだ。
その人は兄の好きな人らしい。
名前はユーリ。
次に会ったら兄の悪口を言ってやろう。
……また兄が怒った。
久しぶりに兄に怒られた気がした。
兄がユーリと結婚するらしい。
兄は国の騎士になったから告白したんだそうだ。
兄は凄く嬉しそうだった。
僕も久しぶりに兄の笑顔が見れて嬉しかった。
今日は久しぶりに二人で食事に出かけた。
兄の結婚式。
ユーリは普段から美人だけど、
花嫁衣装を着たユーリはもっと綺麗だった。
兄も騎士の正装に身を包んでいる。
兄が落ち着き無くそわそわしている。
僕まで緊張してきた。
十五歳の誕生日の日。
成人を迎えた僕に、兄が剣をくれた。
蒼くて美しい剣だ。
大切にしようと思う。
今日は三人で食事に出かけた。
帰りにユーリから魔道具の篭手を貰った。
物凄く高そうだった。
兄に子供が産まれたらしい。
男の子だそうだ。
なぜか二人とも俺に似ているという。
複雑だったけど、なんだか嬉しいもんだ。
……確かに似ているかもしれない。
その赤い髪は癖っ毛のようだった。
子供が攫われたらしい。
血眼になって探したが、見付からない。
兄とユーリが泣いている。
絶対に許さない。
子供は見付からなかった。
ユーリが病気を煩わせたらしい。
兄が言っていた。
俺は子供を捜し続ける。
きっとどこかで生きている。
絶対に助け出す。
ユーリが亡くなった。
兄は一人になってしまった。
いや、一人じゃない。
兄には俺がいる。
だから、出てきてくれよ兄貴……。
ここ暫く兄とは話をしていない。
どうやら避けられているようだ。
明日は俺の騎士見習いの試験なのに。
今日も一人飯か……。
子供はまだ見付からない。
俺は騎士になった。
何度か戦に出向く機会があり、
今日久しぶりに王都に戻ってきた。
城に向かう最中、赤髪の少年と目が合った。
一瞬兄とユーリの子かと思ったが違う様だ。
嫌な噂を耳にした。
魔族が人間を攫っているらしい。
最近、治安が悪くなってきているのを感じる。
今日も町で商人が襲われたらしい。
兄とはまだ話していない。
兄が王に謁見を申し込んだ。
久しぶりに見た兄は痩せていた。
何やら王に話があるらしい。
俺は気になったので同席する事にした。
謁見の申し込みはすんなりと通った。
兄の話は魔族の国を滅ぼすというものであった。
俺達の国は魔族を滅ぼす事にした。
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