顕れし、災厄。
それは突然の事であった。
アグニスがガストの処理に悩んでいた時、ガストが唐突に笑い出したのだ。
気でも狂ったかのようにゲラゲラと笑うその姿は悪魔を連想させる。
先程までガストが持っていた風格は最早、其処には無かった。
しかし、その笑い声はすぐに止んだ。
そして、その姿が一瞬にして消え、
「――調子に、乗るなよ、小僧ッ」
ガストの『予知眼』を手に入れたアグニスの眼を持ってしても認識出来ない超加速。
一瞬にして距離を縮めさせたガストは勢いのままにアグニスを殴った。
「――ぐぁっ!」
そのガストの余りの力に吹っ飛ぶアグニス。
木にぶつかってようやくアグニスは止まった。
「魔人になって己が強くなったと過信したな、小僧。 確かに驚かされた。 私の力を一片とはいえ奪われたのだからな。ふっ……この姿は成る可く晒したくなかったのだが――」
ガストはその顔を覆っていた覆面を剥がした。
覆面はガストの手から離れた瞬間に霧となって消えた。
アグニスの眼に映ったガストの顔は、アグニスがつい見惚れてしまう程に――『美しかった』
鼻の辺りまで伸びた前髪の奥にある紫水晶を連想させる美しい瞳。
肩まで伸びるかという程の灰色の髪は、艶やかに靡いている。
信じられない程整った顔立ちと切れ長の瞳。
その姿からは神々しさすら感じさせる。
放つ覇気は先程の物とは質が違う物だ。
その『女』が秘めた異常な魔力の影響により紫電が迸る。
それは彼女の存在がアグニスとは比べるのも烏滸がましいとでもいうかのようであった。
「――妾の真の名はサテリナル・ガイウス・アスタロト。人間共からは魔王と称されている。ふっ、小僧、良き退屈凌ぎであった」
――アグニスの前に魔王が降臨した。
――
アグニスが魔王に吹っ飛ばされた時、ルーファス達が遂に追いついた。
しかし、ルーファス達はその光景を指を加えて眺めている事しかできなかった。
「あれは……ガスト、なのか?」
ルーファス達が知るガストはまるで自分が貴族であるような振る舞いをし、鼻に付く笑い方をする覆面の男であった。
しかし、覆面を取り、そこに姿を現したのは、どうみても『女』であった。
それだけであれば、ただ驚いて済む話であるが、その『女』が言った言葉に、一同は息を呑んだ。
「ま、魔王ってどういう事よ、ルーファス!?」
悲鳴のような声を上げるアルエル。
「俺に聞かれても解らねぇよ!」
アルエルと同じく、ルーファスもその信じられない事実に叫びたくなる。
しかし、それを必死に抑えたルーファスは意を決して突入する事を決めた。
「魔王? そんなの知らねーよ。あいつはガストだ。ガストは俺の敵だ!」
「ち、ちょっとルーファス!?」
ルーファスにはこの覇気が分からないのか。
アルエルはガストを見て思った。
あれはアルエル達が知っているガストの放つ覇気ではない。
いくら敵とはいえ、この異常とも言える覇気の前ではルーファスの剣技も霞んでしまう。
今突っ込めば、数分と持たずに確実に殺されてしまう。
故に、アルエルは腕を掴んで、必死にルーファスを止めた。
「離せ! ……俺の事はもういい。さっき言っただろう、適わないと分かったら逃げろって」
アルエルは先程の言葉を思い出す。
確かに、それはルーファスに言われた。
しかし、アルエルとスレイブはそれに答えなかった。
「馬鹿……!アンタを置いて逃げるなんてできる訳ないじゃない……」
その眼には涙が浮かんでいる。
スレイブもそんなアルエルの姿を見て、同感だとルーファスに頷いた。
「あたしは、あたしは……!」
そのアルエルが言おうとする言葉の先に何があるか。
それに、ルーファスは気付いた。
だから今は『それ』は言わせない。
「わかった……。悪かったな二人とも。……一緒に戦ってくれるか? ――俺と、生きて帰ってくれるか?」
ルーファスはアルエルに、死ぬ気が無いということを伝えたつもりだ。
アルエルとスレイブはそれに力強く首を縦に振ってくれた。
「……二人とも、――ありがとな」
ルーファスは剣を。
アルエルは杖を。
スレイブは弓を。
三人は己のそれを携え、魔王の元に向かった――。
噛ませかと思った? 残念、魔王でした!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




