剣士と魔法使いと時々狩人。
ルーファス達は森の中を走っていた。
生い茂る木々、奥に進めば進む程に密度を増していくそれが太陽の光を遮断し、辺りはまるで夜かと思える程に薄暗い。
奥に進むに連れて、ルーファス達は森の変化に気付く。
足下に生える草が森に充満している魔力を帯びて薄暗い森を僅かに照らしていた。
霊薬の素材の一つであるという『光魅の草』と呼ばれるそれは、上級回復薬などの薬に必要とされる有名な物であった。
根を張り、成長する為に純度の高い魔力を必要とし、尚かつ、薬にする上で必要な大きさまでに長い時を要する『光魅の草』ルーファス達の眼に映る限りに広がっているのだ。
「こいつは、凄ぇな」
その余りの光景にスレイブが驚きを隠そうともせずに言った。
「これだけ『光魅の草』があれば、二十年は遊んで暮らせるぜ……」
一束でも見つければその額は、王都に住む平民が月に稼ぐ額の半分にも及ぶ『光魅の草』一束で金貨に値する価値を誇る。
それは冒険者が喉から手が出る程に欲しがる物。
(確かに、その価値は計り知れない。しかし――)
ルーファスは知っていた。
『光魅の草』の価値が高いのには、理由が二つある。
一つは、それは希少である事。
育つのに必要とする条件が厳しく、人工的には増やす事ができないからだ。
そして、もう一つ。
例え、この草を見つける事が出来ても、持ち帰れるかどうか、が難しい為である。
何故なら――
「――お前ら、気を引き締めろよ……」
ルーファスは腰に掛けた剣を引き抜き、隣にいるスレイブと、アルエルに言った。
ルーファス達の前に姿を現した複数の黒い影。
『光魅の草』が放つ魅了の効果を含んだ『香り』それを吸って集まった魔物達がルーファス達を取り囲んでいた。
ゴブリンを始め、コボルトにオーク。
そのルーファス達を取り囲む魔物達の中には鬼魔の姿も有った。
「くそッ。この時間が無ぇ時に! ――アルエル!!」
「言われなくても分かってるよ!」
「――スレイブ!!」
「おう、後ろは任せな!」
「時間が惜しい! さっさと蹴散らすぞ!」
アルエルはルーファスの言葉を聞くと同時に詠唱に移る。
余りにも速すぎるその詠唱速度は並の人間には聞き取る事すら難しい。
アルエルが紡ぐ呪文は詠唱短縮をしていない、完璧な物であった。
凛とした声が奏でるそれは、一つの唄のようにも聞こえた。
その唄を紡ぎ終えたアルエルは閉じていた眼を開いた。
その瞬間、絶対零度の魔法が放たれ、魔物の群れが辺りを巻き込みながら凍り付いた。
しかし、まだ終わりではない。
氷像と化したそれを、アルエルが紡いだ次の『唄』が、獄炎で包み込んだ。
辺り一面を急激に熱された水分が蒸気となって視界を悪くするが、次の瞬間にはアルエルの唱えた風の魔法で視界は回復する。
今の一連の魔法でルーファス達の前には一筋の道が開かれた。
魔物を全部相手にするのでは流石のルーファス達も骨が折れるが、道さえ拓ければ、後は突破するのみであった。
「あーあーもったいない」
燃えて無くなった『光魅の草』の一帯を眺めてスレイブが呟く。
「うるさいわね。まだ沢山生えてるじゃないの」
「それでも勿体ねぇよ……。それにアルエルがいつも終わらせちまうから俺の出番が無ぇじゃねえか」
「良いじゃない、体力が温存出来て。そこまで言うなら帰り道の魔物の相手『全部』貴方に頼んでも良いの?スレイブ」
「いや、そこまでは言って無ぇけどよ」
アルエルに対し、異議を唱えるスレイブを言い負かしているというこの状況は、これまでの旅で幾度となく繰り返して来た光景だった。
「――うるせぇぞお前ら! 時間が無ぇって言ってんだろ!」
「ほーら、アンタのせいであたしまで怒られたじゃないの」
「俺のせいかよ!」
「おい、ほんとにいい加減にしろよ」
ルーファスの気苦労はこれからも続く……。
ルーファスはため息を吐いて二人を眺めた。
そして、そんな茶番とも言える劇を繰り広げていた一同を、唐突に壮絶な悪寒が襲った。
「――ッ」
「こ、こいつは……!」
禍々しい覇気。
ここから然程離れていない場所で、何者かが覇気を発動した。
離れているこの場所まで届く程の覇気。
それ程の覇気を纏う者など、限られている。
久しく感じたその禍々しい覇気をルーファス達は知っていた。
「……奴だ。この覇気は間違いない。――ガストの覇気だ」
ルーファス達を包囲していた魔物共は、その覇気に当てられ我先にと散って行く。
「そうね、遂に見つけたわ……」
アルエルの眼の奥に、静かに復讐の火が灯った。
スレイブはそれに気付き、僅かに顔を曇らせた。
「でも、奴は一体、誰と戦っているんだ?」
「分からん。奴が覇気を纏って戦う程だ。相手は相当の実力を持っているに違いない。……もしかしたら、別の魔族だなんて事も有り得るな」
「まさか、一度に二体もの魔族を相手にだなんて、流石にあたし達でも荷が重すぎるわよ!?」
ルーファスのその言葉に、信じられないと身を震わせるアルエル。
「もしかしたら、だ。確証はない。でも有り得ないとも言い切れない」
「ルーファスの勘は良く当たるからなぁ……」
スレイブが冗談でも言うような口調で呟く。
しかし、アルエルもルーファスのそれを知っていたので全く笑う気にはなれなかった。
「俺達が着くまでに片方がやられるなんて、期待出来そうも無さそうだ。それなら少しでも相手の情報を得る為に急いで向かった方が良いだろうな」
ルーファスの言葉に二人は賛同の意を示すかのように首を縦に振った。
「二人とも、適わないと思ったら俺に構わず逃げるんだ。良いな?」
ルーファスはそう言って一度二人の方を振り向く。
その表情は真剣そのものであり、異義を唱えた所で、それが通らないであろうと悟らせる程のものだった。
「……」
二人は何も答えない。
「……良いな?」
最終確認でもするかのように繰り返したルーファス。
幾ら待てども帰ってこない返事に痺れを切らし、遂には二人の返事を待たずして歩き出した。
――決戦の時は近い。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




