『俺』の願い。
盗賊団の一味と、エルフは、舞うように戦う二人の魔人を眺めていた。
子供達はガストの放つ覇気に曝され、意識を失っている。
自分たちが囚えた子供が、己達を遥かに凌ぐ実力を見せているこの状況に、頭を含む盗賊団は驚きを隠せない。
「おい、あのガキを捕まえたのはお前……だったよな」
頭が確か、といいながら盗賊団の下っ端に声を掛けた。
その問いにただ頷くことしか出来ない下っ端。
この光景を見たグスタフの頭の中では、あれ程の実力を持つ子供が、何故意図も容易く捕まえる事が出来たのか違和感を感じずにいられなかった。
考えられるとすれば、実力を隠してわざと捕まり、隙を突いて子供達を助ける算段である。
しかし、一連の様子を見ていた男は、少年のその計画に誤算が生じたことを知った。
こちらの切り札でもある覆面の男――ガストがそれだ。
圧倒的な力の差を見せつけた、ガスト。
裏社会で有名なガストの素性をグスタフも知らないが、計画に加担すると申し出てきた時はこれ幸い、と喜んだのを覚えている。
こいつさえいればエルフを捕まえるなんざ、簡単な事だ、と仲間に紹介したグスタフ。
仲間の士気を高めと共に、計画の成功は絶対となったと自負していた。
それなのに――。
今目の前で、そんな男が成人すら迎えていない子供を相手に留めを刺せずにいるのだ。
こんな事は通常ならば有り得ない。
そもそもの計画にガストが加わると言ってきた時点で、イレギュラーであったのだ。
生じたイレギュラーは新たな歪みを生んだ。
グスタフは焦っていた。
せっかく苦労してエルフを捕まえるのに成功したのに、これでは計画事態が失敗するかもしれない、と。
しかし、今の二人を前にして、そんな事は口が裂けても言えないでいる。
グスタフもそれなりに腕が立つが、目の前で戦う二人の化け物染みた剣を見て、適わない事を早々に悟ったからだ。
一進一退の攻防。
優位なのはガストである、それは変わらない。
しかし、グスタフの目には違って写っていた。
俄かには信じられない光景、赤髪の少年は、ガストを相手に死闘ではなく、まるで、修行だとでもいうように剣を交える度に成長しているように感じるのだ。
一体、少年に何が起きたのか。
あれ程までにあった差が縮まっていくその光景にグスタフは考えるが、到底分かる事ではなかった。
――
アグニスは己の剣がガストの剣と交える度に冴えていくのを感じていた。
ガストの構え、足運び、剣筋を一目で予測し得るその眼。
ガストが今までの永き時を経て身に着けたであろう剣技を、アグニスは盗んでいく。
闘気の扱いは既に容易となっていた。
振るう剣を覆うだけでなく、動かす足、振るう腕。
要所に闘気を集中させる術を、戦いの最中でガストから学んだ。
そして、残るは――。
――
ガストは信じられない。
この剣は己が永き時を生きた中で、死に物狂いで手にした力であった。
ガストのそれを、こんな子供が、視ただけで学習し、行動に移し得ている情況。
それは学習というよりも、奪われているという表現の方が正しいかもしれない。
ガストが魔人になり、手に入れた力は『予知眼』であった。
如何なる戦闘でも、相手が動くであろう未来を見ることの出来るその能力で、ガストは幾度の死線を潜り抜けてきた。
しかし、その絶対である筈の能力を用いても、アグニスの剣の先が見えない。
己の持つ、純粋な剣技で応えなくてはいけなくなったガスト。
正直、ガストがここまで追い詰められたのは初めての事であった。
本気で挑んでくる少年の剣は、己が剣と交える度に着々と鋭さを増していく。
鍔迫り合いになる度、自分が僅かに押され始めているのにガストは気付く。
時間が経つ度に磨かれていくアグニスの剣。
そんな剣があっても良いのだろうか?
(否。私は、認めない)
ガストはアグニスがそうであるように、己が全てを出し切るのを決意した。
纏わせた覇気は一段と凄まじさを増し、振るわれる剣も先程の速さとは段違いだ。
しかし、それすらも止めたアグニスの剣。
距離が縮まり、再び鍔迫り合いの形となる。
ガストが歯軋りをし、アグニスを見ると、アグニスは関心したとでもいう風に笑っていた。
「へぇ、覇気ってこう使うのか」
ガストをまさか、という嫌な予感が襲う。
それはすぐに現実となった。
アグニスが既に覇気を纏っているのだ。
「闘気と似たようなもんだな。……よし、これでお前からは全部盗んだな」
ガストはアグニスが放つ覇気を浴びて遂に絶望した。
覇気というのは、能力ではない技術である。
世界を旅する冒険者の中にも覇気を扱う者は少なくない。
ただ、覇気というのは扱う者の本質を反映するのだ。
覇気はその者の心を映し出す為、単純な武力とは別の強さを要する。
悪を極めた者が放てば、曝された者に『死』を。
善を極めた者が放てば、当てられた者に『聖』を。
アグニスのそれはどちらでもない。
どちらにでも偏り得る、儚くもあり、強くもある、危うささえ感じさせた。
――それ故にガストにはアグニスの底が見えない。
何者にも成り得る存在。
己が何者かを知らず、何に成りたいのか。
それさえも分からない。
何を願い、叶えようと思うのか。
「お前が求めてるのはなんだ?」
故に、ガストはアグニスに問うた。
アグニスは真っ直ぐとガストを視ている。
「なにも。何も要らない」
アグニスは手に持つ剣に視線を注いだ。
『俺』の願い、それは初めから変わっていない。
「――騎士になれさえすれば、何も要らない」
今まで『僕』はその為に剣を学んできた。
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