『僕』の最後の願い。
茶番はもう辞めて、終わりにしよう。
早く村に帰って剣の修行をするんだ。
それを阻む者はアグニスのすぐ目の前にいる。
「――教えてやるよ、『先輩』」
――俺は人間を辞めた。
アグニスは己が変わって初めて気付く。
ガストから感じていた『何か』のそれに。
ガストが放つ雰囲気、それは『魔族』が放つ妖気である。
魔族の定義は、判明していない。
人間に猛威を振るう悪を総じて『魔族』と呼ぶ。
それは何処から現れるのか。
魔物という化け物が異常な進化を遂げ、人型に成ったモノ。
産まれながらにして、初めから魔族のモノ。
あるいは、人間が『何か』をきっかけに変貌し、――産まれる。
それは未だに誰も知り得ない事であった。
過去に人間から魔族に進化した者達は、それを人知れずに隠したからだ。
人間から魔族に成る者の殆どは、初めから魔に染まっている。
人間達はその者が元人間だと知らずに――『魔王』と伝記に記した。
故に人間族は、『魔人』の生い立ちを知らない。
見かけは人間とそう変わらない普通の人であるのだから、力を隠して、群集に混じってさえしまえば気付かれる事はそうそう無いのだ。
魔人に変化した者は、もう一つの人格が産まれる。
魔人に成る前の人格は、それに喰われ、無くなるのである。
喰われた人格の記憶は受け継がれ、新たな存在となって『魔人』が誕生する。
「貴様、その雰囲気はまさか――」
「漸く解ったようだな、先輩。これで、やっと対等だ」
(いや、対等なんかじゃないな)
「ふっ、フフフ、フハハハハ!。まさか今、此処で、魔人の誕生の瞬間に出くわすとは思いもしなかったよ。……対等? あまり舐めるなよ? 産まれたてのガキが!」
「舐めてなんかいないさ。お前の言う通り、俺は生まれたての『ガキ』だ。魔人になったとはいえ、まだ何も学んでいないからな」
「それを分かっていて何故歯向かう? 貴様では私に勝てないというのに」
ガストは解らない。
魔人へ進化したとはいえ、到底アグニスとガストに有る圧倒的力の差は変わらない。
魔人という種としては確かに対等である。
しかし、経験量の違いが産むその差は埋めることの出来ない事実であった。
魔人として永くを生きてきたガスト。
一方、産まれて間もない魔人。ましてや数分前まで人間であったアグニスが勝てる道理などどこにも無い。
「やらなきゃ分からないだろう? ほら、さっき言ってたじゃないか。教えてくれよ、――剣技を!」
アグニスはそう叫んで、ガストという強者に向け再び、剣で挑む。
己の剣は未だ未熟だ。
魔人となり、身体能力が底上げされたとはいえ、技術はそのままである。
ならば、学ぶまで。
己が手に入れた力は未だ知れない。
限界は未だ分からない。
それならば、出し切ってみせる。
今まで人間として生きてきたアグニスはずっとそうしてきた。
魔人となった今も、その本質自体はアグニスのままなのだ。
ガストは言った。
アグニスには天賦の才を持つ、と。
そうで有るならば、その天賦の才とは一体何なのか。
アグニスの才は己が学習する事。
己がする行動から、振るった剣から、教わった事から。
一から一だけを学ぶのではなく、一から二。二から三。
一つの事を学んで終わらせないその姿勢であった。
そして、魔人となったアグニスはこれまでのそれに加わった事とは、
己が視た事から、己が受けた剣から、盗む。
そして、それをアグニスは実現しゆる能力を手に入れた。
『僕』であったアグニスの願いとは、学ぶ事であった。
『俺』になったアグニスは、その『僕』の願いを叶える為に産まれてきたのだ。
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最早アグニス、チートです。
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