少年、願いが叶う。
アグニスが全力を用いて放った一撃。
加速をも利用して、己が出せる全てを出し切った一振りであった。
一方、ガストはゆったりと余裕すら感じさせる構えを崩さない。
暴力的に迫り来る剣を、まるで予めそこに来ると知っていたが如く、いとも容易く片手のみで受け切ってしまった。
(嘘、だろう……)
「うむ、中々良い一撃だ。やはり貴様は天才だ。私も僅かに腕を動かす破目になった」
「何を言っているんだ……?」
「そうか、解らないのも無理はない。まぁ、私も本気を出すと言ってしまったのでね、少年の放つ最高の一撃には、私も応えなければ、と」
(クソ、力の差があり過ぎる!)
「さて、今ので終わりでは無いだろう? さぁ、どんどん掛かってこい」
「言われなくても!」
(単純な斬撃は通用しない。
フェイントも効きそうに無い。
他に打つ手があるとすれば——)
「 " あらぶる火よ、汝の願いを叶え、我が難敵を討て " 『ファイアーボール』」
敵を撃ち抜かんとガストへ向かう火弾。
アグニスもこれが効くとは思っていない。
「初級魔法等、効かぬ!」
案の定、全く効いている様子はない。
結界を張っているのか、ガスト自身の身体に当たるよりも前に見えない壁に阻まれた。
「 " あらぶる炎よ、汝の願いを叶え、我が難敵を屠れ" 『イグニッション』」
「初級が効かぬと分かったら、次は中級魔法か。芸が無い」
先程の光景を繰り返したかのように、アグニスの魔法は結界に阻まれ、虚しく散る。
「終わりか?」
心底つまらなそうに呟く覆面の男。
笑みは消え、興が冷めたとでも言うように、
「ふむ。貴様の力は大体分かった。子供としては上出来だ。その若さで初級、中級魔法共に詠唱短縮をしてみせたのも、天才的な器量を持っている」
それは最早皮肉にしか聞こえなかった。
放たれる言葉に含まれる冷たい感情。
まるで楽しみにしていた玩具が期待外れであったかのような、酷く残念そうな口調であった。
「そうだ。私との戦いからも『学ぶ』と言ったな。うむ。良い考えだ」
今度は良い事を思い付いた子供のように、嬉々とした声を上げる。
「さぁ、構えろ。お望み通り、教えてあげようじゃないか、剣技をな」
アグニスが求め続けた剣技。
それをやっと学べるというのに、アグニスは初めて死がすぐ隣りに在ると感じた。
「それは、有難いね……」
アグニスは半ばヤケになっていた。
己の持つ剣と魔法は全て通用せず、そしてこれから、そんな全力を嘲笑うかのように弄ぼうとするのだ。
「何度も言うが、死んでくれるなよ?」
ガストの笑みから感じるのは残虐。
死ぬなといいつつ、死んでもいいという矛盾を含む。
『死』は隣りに在るのではない。
『死』はアグニスの目の前に居る。
「——ウオォォォォァアァァァァァ!!」
アグニスは雄叫びを上げた。
——
雄叫びを上げたアグニス。
目の前の『死』から逃れる為にはどうすれば良いと考えるが、途中で思慮するのを放棄した。
(……もう良い)
「辞めだ」
そのアグニスの変貌に強者であるガストもたじろぐ。
(考えるのはもう、疲れた)
「遂にヤケになったか」
呆れたかのようにガストがそう呟く。
「違う、もう疲れたんだ」
「疲れた? 生きる事に疲れたのか?なら殺してやろう。天才とは言え、所詮は『人間』弱いのは仕方の無い事だ。痛みも無く、一瞬だ。眠るのと同じだよ。ふっ、なぁに、怖がることは無いさ」
迫り来る確実なる『死』
"それ "から逃れる為にはどうすればいい?
そうだな、ガスト。
『お前』の言う通りだ。
数分前まで全く歯が立たなかった『僕』
目の前に存在する『死』に、弱い『僕』の一撃が届く事は無かった。
届き得ない剣なら、
弱い『僕』はもう要らない。
「弱いのは仕方無いよな『人間』なんだから」
「何を言っている……?」
『死』から逃れる方法はなんだ?
そうか、そうだよな。簡単な事だった。
—— "新しい剣 "を手に入れれば良いんだ。
アグニスはガストの言葉を無視する。
「そうだよな、解らないのも無理はねぇ。教えてやるよ、『先輩』」
アグニスはそこで言葉を切った。
そして、獰猛な笑みを浮かべて言った。
「——俺はな、人間を辞めたんだよ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
私達の僕っ子、アグニスはもう居ません。
タイトルはちょっと含んだ意味合いがあったりします。
二つの意味で願いが叶うとしています。
今はまだ片方しか成っていませんが、
お分かりですよね?




