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元騎士様の奔放な冒険譚。~少年期編~  作者: 小匙
狙われた子供達。
21/38

少年、願いが叶う。

 アグニスが全力を用いて放った一撃。

 加速をも利用して、己が出せる全てを出し切った一振りであった。


 一方、ガストはゆったりと余裕すら感じさせる構えを崩さない。

 暴力的に迫り来る剣を、まるで予めそこに来ると知っていたが如く、いとも容易く片手のみで受け切ってしまった。


 (嘘、だろう……)


「うむ、中々良い一撃だ。やはり貴様は天才だ。私も僅かに腕を動かす破目になった」


「何を言っているんだ……?」


「そうか、解らないのも無理はない。まぁ、私も本気を出すと言ってしまったのでね、少年の放つ最高の一撃には、私も応えなければ、と」


 (クソ、力の差があり過ぎる!)


「さて、今ので終わりでは無いだろう? さぁ、どんどん掛かってこい」


「言われなくても!」


 (単純な斬撃は通用しない。

 フェイントも効きそうに無い。

 他に打つ手があるとすれば——)


「 " あらぶる火よ、汝の願いを叶え、我が難敵を討て " 『ファイアーボール』」


 敵を撃ち抜かんとガストへ向かう火弾。

 アグニスもこれが効くとは思っていない。


「初級魔法等、効かぬ!」


 案の定、全く効いている様子はない。

 結界を張っているのか、ガスト自身の身体に当たるよりも前に見えない壁に阻まれた。


「 " あらぶる炎よ、汝の願いを叶え、我が難敵を屠れ" 『イグニッション』」


「初級が効かぬと分かったら、次は中級魔法か。芸が無い」


 先程の光景を繰り返したかのように、アグニスの魔法は結界に阻まれ、虚しく散る。


「終わりか?」


 心底つまらなそうに呟く覆面の男。

 笑みは消え、興が冷めたとでも言うように、


「ふむ。貴様の力は大体分かった。子供としては上出来だ。その若さで初級、中級魔法共に詠唱短縮をしてみせたのも、天才的な器量を持っている」


 それは最早皮肉にしか聞こえなかった。

 放たれる言葉に含まれる冷たい感情。

 まるで楽しみにしていた玩具が期待外れであったかのような、酷く残念そうな口調であった。


「そうだ。私との戦いからも『学ぶ』と言ったな。うむ。良い考えだ」


 今度は良い事を思い付いた子供のように、嬉々とした声を上げる。


「さぁ、構えろ。お望み通り、教えてあげようじゃないか、剣技をな」


 アグニスが求め続けた剣技。

 それをやっと学べるというのに、アグニスは初めて死がすぐ隣りに在ると感じた。


「それは、有難いね……」


 アグニスは半ばヤケになっていた。

 己の持つ剣と魔法は全て通用せず、そしてこれから、そんな全力を嘲笑うかのように弄ぼうとするのだ。


「何度も言うが、死んでくれるなよ?」


 ガストの笑みから感じるのは残虐。

 死ぬなといいつつ、死んでもいいという矛盾を含む。


 『死』は隣りに在るのではない。

 『死』はアグニスの目の前に居る。


「——ウオォォォォァアァァァァァ!!」


 アグニスは雄叫びを上げた。





——



 雄叫びを上げたアグニス。

 目の前の『死』から逃れる為にはどうすれば良いと考えるが、途中で思慮するのを放棄した。






 (……もう良い)





「辞めだ」


 そのアグニスの変貌に強者であるガストもたじろぐ。





(考えるのはもう、疲れた)





「遂にヤケになったか」


 呆れたかのようにガストがそう呟く。


「違う、もう疲れたんだ」


「疲れた? 生きる事に疲れたのか?なら殺してやろう。天才とは言え、所詮は『人間』弱いのは仕方の無い事だ。痛みも無く、一瞬だ。眠るのと同じだよ。ふっ、なぁに、怖がることは無いさ」



 迫り来る確実なる『死』

  "それ "から逃れる為にはどうすればいい?





 そうだな、ガスト。

 『お前』の言う通りだ。




 

 数分前まで全く歯が立たなかった『僕』

 目の前に存在する『死』に、弱い『僕』の一撃が届く事は無かった。





 届き得ない剣なら、

 弱い『僕』はもう要らない。





「弱いのは仕方無いよな『人間』なんだから」



「何を言っている……?」




 『死』から逃れる方法はなんだ?

 そうか、そうだよな。簡単な事だった。

 —— "新しい剣 "を手に入れれば良いんだ。


 アグニスはガストの言葉を無視する。




「そうだよな、解らないのも無理はねぇ。教えてやるよ、『先輩』」


 アグニスはそこで言葉を切った。

 そして、獰猛な笑みを浮かべて言った。












「——俺はな、人間を辞めたんだよ」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


私達の僕っ子、アグニスはもう居ません。

タイトルはちょっと含んだ意味合いがあったりします。

二つの意味で願いが叶うとしています。

今はまだ片方しか成っていませんが、

お分かりですよね?

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