少年の剣。
拘束から解放されたアグニスは、他の囚われた子供達とエルフの側に行き、耳打ちする。
「きっと助けが来る、それまでの辛抱だ。万が一の事が有っても、僕が皆を守るから安心してほしい」
そのアグニスの行動に盗賊団の連中から怒号が飛び交うが、アグニスは気にしなかった。
この一団の事実上トップであるガストがアグニスを解放しろと言ったのだ。
連中がアグニスに手を下す事は今の所無いと判断できる。
アグニスのこの行動で他の者達に危害を加えようとする可能性もあるが、奴らが話すにはアグニス達は『売り物』である。
そのアグニス達を傷付けるような事はしないであろうとアグニスは考えた。
アグニスの言葉に一同の強張った表情が若干ではあるが和らぐ。
それを見てアグニスはにこりと笑顔を向けてから視線を外した。
「それで? 僕に何をしろと?」
「ふっ、子供とはいえ、その口の聞き方はどうかと思うぞ」
鼻で笑うのはこの男の癖であろうか。
一々鼻に付きそうな喋り方なのに、妙にしっくりと来るのは何故だろうか。
「まぁいい。ほらこいつはお前のだろう。受け取れ」
投げられるように渡されたそれをアグニスは受け取る。
――父に貰った剣だ。
「退屈凌ぎだ。構えろ」
ガストは何処から出したのかも分からない剣を既に構えていた。
柄から刀身に掛け全てが漆黒のそれは、禍々しいオーラが放たれている。
磨かれた黒曜石のような芸術品とも言えそうなそれにアグニスは暫く見とれてしまった。
見とれていた意識を首を振って、アグニスは戻した。
父から貰った剣を鞘から抜き放ち、幾度となく行ってきたその構えを作る。
「ほう。中々の構えだ……。子供にしては上出来だな。いや、稀に見る天才という奴か?」
ガストに天才と称されたアグニス。
しかし、何故だろうか全く嬉しく感じないのだ。
相手はその天才をも遥かに凌ぐ実力を持ち、そのような強者からの賛美であるというのにアグニスは喜べなかった。
「僕は、天才なんかじゃない」
否、アグニスは天才である。
彼が何と言おうと、天賦の才を持つのは事実であった。
己が持つ才能に加えて、努力を惜しまない姿勢。
鬼魔に金棒とは良く言ったものである。
「天才と呼ばれるのが気に食わないのか? 少年よ」
天才であるならば、人から学ぶ事を必要としない。
天才であったなら、行き詰まったりする筈が無い。
天才である者は、他の者に圧倒される事など有り得ない。
「貴方には分からないでしょうね。……確かに、僕には才能があるかもしれない」
アグニスはそこまで言って言葉を一度切った。
アグニスもそれを認めたくなかった。
しかし、認めざるを得ないのだ。
自分はこんなにも弱かったのであろうか?
「――でも、天才では無い。僕は、誰かから学ばないと強くなれない。一人では先に進めない。一人では何も出来ない。僕は――弱い」
強さとは一体何か。
アグニスはそれを知りたかった。
アグニスはずっとそれを追い続けてきた。
未だ、それに追いつこうと必死になって走り続けているが、その背中すら見えてこない。
「だから、僕は学ぶ。学び続ける。走り続ける事を止めたりしない。貴方は言った。
『退屈凌ぎ』だ、と。確かに、貴方にとってはそうかもしれない。実際、僕なんて取るに足らない存在でしか無いと思っているのでしょう。でも、それでも僕は貴方が『退屈凌ぎ』と言った戦いからも――剣を学ぶ!」
アグニスは己が今出来る全てを出し切る。
最初から全力で行く。
そうまでしなければ、この男には『勝てない』からだ。
今までの全てを一つにした集約した剣、それが――アグニスの剣だ。
ありったけの闘気を練り上げる。
本来であれば集中を必要とするそれを、アグニスは無理矢理引き出していく。
荒ぶる闘気をその身体に纏わせ、ガストを視た。
燃えるような赤髪と迸る闘気が相まり、それを見たガストは関心したような声を出す。
「ふっ、気に入ったぞ! 良いだろう。そこまでの心意気であるならば、私も少しは本気を出して相手をしよう。……死んでくれるなよ? せっかくの興が冷めてしまうからな!」
アグニスは地面を蹴って加速した。
強者を討とうと全力で。
その手に持つ剣は父から貰った物。
身に付けた剣は己が仲間と修行し手に入れた物。
――アグニスが放つは、己が過去、全てを乗せた一撃。
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